おわりに

 2022年、東京オリンピックもとうとう過去になり、京都に住まう私にとっては当時の期待に反して完全に「所詮は画面の向こうでの出来事」にしか過ぎないものとなってしまった。オリンピック開催に伴い世界中から多くの選手たちが東京に来たなか、彼らには観光する猶予も与えられず、緊急事態宣言の出る東京都内では無観客なまま、競技は粛々を行われていた光景だけが印象的だ。それからすでに半年、変異株といわれるものの登場とは裏腹に、京都市内を走る路線バスには徐々に人が増加している印象を強く持っている。ワクチン接種に伴い、次第に感染症に伴う世界的な騒動も次第に終息に向かいつつあるという話もよく耳にしてきた。これから先、京都という観光地にも次第に以前のような観光客が到来し、「歪み」と「新しさ」を提供するのだろうか。


 第二次予防接種から数か月のち、第三次予防接種の話もしきりに耳にするようになった。彼らは接種によって身体的に潔白な存在となる――ウイルスという穢れを「浄化」すると同時に、「観光客」であるための権利をも獲得している。そんな「浄化」された人々が行き交うなか、この都市は果たして以前の「歪み」を露出させられるのだろうか。ランニングする私の隣を駆け抜ける市バスは、不可逆的な何かの変化を前にしても、いつもと同じように走り続けてくれるだろうか。今出川通りにゴキブリを見かけないような京都は、果たして京都なのだろうか。


 そうした思いを抱きながら時計を見ると、気づけば23時を過ぎていた。私はいつも通りのランニングウェアに着替え、京都の夜をかけていく。

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