第14話 目指せ城塞都市

 シルヴァリオンのときと同じ虹色の光が集草してく。

 人型に形作られはせず、そこに現れたのは……


 「な、なんだこれは!?」

 ファルベリオスやレインドには知る由もない、金属製の車両がそこに存在している。


 補助用の車輪がついてはいるが、基本はホバー装甲らしい装備が特徴的だ。

 大型トラックのようなカーゴ部分と、指揮車両としての通信レーダー観測機器がいたるところに見え隠れしていた。

 「ゆ、悠希、このような建物を出されても、旅の役には立たないと思うのだが」

「ファルベリオスでも分からないのはムリがないのかもね、ほら、乗って乗って」


「乗る? 入るじゃなくて?」

 首をかしげるレインド。

 プシューと後部ハッチが開閉すると、そこには荷物・資材置き場とその先にはふかふかなシートベルト付きソファー、片側の壁にはベッドが据え付けられ、反対側にはシャワールームにトイレまで完備。

 エアコンまで備え付けられていた。

 もっともレインドとファルベリオスはソファぐらいしか理解できず、想定通りの現実・実機化に成功したことに悠希はご機嫌であった。


 「じゃ二人とも椅子に座って」

 「お、おう」

 「ぬ、ぬあ! なんという座り心地だ」


 悠希は運転席に潜り込むとイクスへ指示を出し始める。

 < 周辺に人、動態反応ありません。ジェネレーター出力上昇中。ホバーシステム機動>


 「じゃあ行くわよ、ホバー型戦闘指揮輸送車 通称 モーバーしゅっぱーつ!」

 急激なGは起こらなかった。きわめて静かにそして凄まじい加速でモーバーが大地を駆ける。


 レインドとファルベリオスは運転席から見えるモニター画像に腰を抜かしかけていた。

「な、なんて速さだ! あ、ありえない! 飛竜でさえこれほど早くはない」

 興奮しっぱなしの二人に悠希の説明が始まる。


 「シルヴァリオンだってボクが作ったんだから、乗り物だって作ってしまえばいいと思ったの。これなら馬車より早くて安全よ。それに多分馬車だとお尻が痛くて大変なことに」


 反応がないため後ろを振り向くと、二人はソファに腰を下ろしその座り心地に夢見頃だ。


「ゆっくりしてていいわよ。イクス、光学迷彩の稼働状況を説明して」

 < 順調に稼働中 >

 「ふぅ、ジャンクパーツにあったステルス光学迷彩が得意な機体があったから、切り出して装甲に利用してみてよかったわね」


 モーバーの時速は100km前後であり、多少の凸凹などきにせずぶっ飛ばせるため、イクスのナビもあって順調な滑り出しだった。


 < マッピングデータ更新。隣国であったウェルザニア王国へ >

「もうウェルザニアだって!?」

「やはり悠希の存在が重要になると、さすがは将軍だ」


 「ふはぁ~ちょっと眠くなってきたから、ここらで休憩しましょ」

「そうだなずっと悠希に任せっぱなしだ、いいだろファルベリオス?」

「もちろんだ。我らもこれを扱えたらいいのだが」

 

 悠希は折り畳みベッドを引き出すと、そのままふかふかの布団にふぁさりと倒れ込む。

「う~ん、ちょっと寝るぅ」


 ・

 ・

 ・


 「おいレインド、このモーバー、当初は10日から14日ほどかかる行程の半分まで来てしまっているぞ?」

 「ってことは明日には……デュランシルトへ到着なのか、ありえねえ」

「我らは時代の変革点に立ち会ってるのかもしれん」

「俺は自分のミラージュキャリバーを手に入れて魔骸を殲滅するのが目的だが、お前はどうなんだ?」

「私はゴーファム将軍に仕える身。だが、私もミラージュキャリバーを手にしたい。少なくとも魔骸がいなかった世を取り戻したいという思いは同じだ」


 「なら一つだけ覚悟しておけ。あの子はミラージュキャリバーには絶対に人殺しをさせないって誓ってる。それでもお前は納得するか?」

 「そうか、将軍の次にお守りせねばならん人物と巡り会えたのだな私は」


 あいかわらずドヤ顔を決めたがる奴だとレインドは思った。 


 翌日、悠希が寝ぼけ眼でぼけーっとしていると、レインドとファルベリオス、さらにはイクスの声が飛び交っている。


 「あれ、みんなどぉしたの」


 「ああ、おはよう悠希。俺とファルベリオスもさ【うんてん】が出来るようになっておいたほうがいいと思ってさ、精霊? のイクスに色々教わってたんだよ」

 「イクスのおかげでレインドと私はそれなりに運転できるようになったと思う。【しみえるれいそん】を朝までやりこんだからな」


 「……まあいいわ、とりあえずシャワー浴びてくるから……のぞいたら切り落とすわよ」

 「「こ、こええ」」


 不愛想にシャワーコンテナに潜り込んだ悠希。 

 「なんだ、喜んでもらえると思ったんだけどな。とりあえず飯の準備するか、ふあぁさすがに眠い」

 「うむ、きっと朝が弱いタイプなのだろう」


 ・

 ・

 ・


 「結局こうなるのよね! まったく!」

 後部シートでは熟睡するレインドとファルベリオスの姿。

 「まったくゴールデンウィークで運転がんばる父親の気分が少しだけ分かったわ!」 

 < ナビのほうは問題ありません。到着まで残り2時間ほどと思われます >


「イクスもあいつらに付き合って疲れたでしょ」

 < 私は疑似人格プログラムですので、精神的疲労は感じません >

「そういうときは、少し、とかもうこりごりって言っておくものよ」

 < 了解しました >


 基本的な走行ルートは街道ではあるが、馬車や人とすれ違う可能性がある場合には街道の外にずれて進むことにしている。

 そのあたりのナビや注意喚起はその都度イクスがしてくれるので助かってはいるが、運転というものに慣れているわけではない悠希にとっても、かなりの疲労が蓄積されている。


 途中何度か休憩をはさんだが、二人が気持ちよさそうに爆睡してるので思わず脛を蹴とばしておいた。

 

 流れゆく景色は地球と似通った木々や森、湖などもあったが、魔法の源たる力が大気に混ざり合っているらしく時折陽光に照らされ神々しい光の饗宴を描いていたりする。


 本来であればじっくりと見て歩きたかった悠希だったが、街道沿いの運転は非常に神経を使う。まだ17歳で車の運転に慣れていないせいもあるだろうが、より神経を苛立たせるのはベッドでいびきをかいて爆睡している二人。


 < マップデータとの地形称号に差異はありますが、位置的に間違いないと思われます >

 「ほらいつまで寝てんだこの寝坊助!」

 「うぅ~ん、よく寝たなぁって、ああ悠希」

「私は朝が弱いんだ、もっと静かに起こしてくれても」

 「何言ってんだこの極潰し共! もうすぐ夕方、日が暮れるっての! それにあれがデュランシルトじゃないの? ボクは初めてなんだから早くモニターで確認してよ」

 「うっそだろ? さすがに……ってあれはたしかに城塞都市デュランシルトだ。あの3つの尖塔があるから間違いない」

「うむ、あれはまさにデュランシルト……ありえん、二日で到着してしまうとは」

「はいはい、そうですよね、あんたら寝てただけなんだから、そりゃ楽な旅でございましたでしょう」


 「「もうしわけない……」」


 城塞都市の名に恥じぬ姿があった。

 ロナの町とは比べ物にならないほどの大都市であり、四方に伸びる街道の道幅も太く人々の思いや願い、希望、夢、そして野心が行ったり来たりしたからこそなのだと悠希は思った。


 都市の周辺には連合軍の前線基地があり、数十のグレムスが整備を受けている。

 これほど大規模な部隊が用意できるということは、この自治都市デュランシルトの経済力、軍事力は恐るべきものなのだろう。


 「あそこの岩場でモーバーを降りてそこからは徒歩にしましょう」


 「それが良さそうだ。こいつを見られたら大変なことになっちまう」

 「悠希、このもーばーは隠しておくのか?」


 「ミラージュアウトして持ち歩くよ。整備も必要かもしれないから、荷物は全部運び出してね。これからの荷物持ちはあんたらなんだから」


 「わ、わかった」

 「うむ、その運転を任せきりであったからな」


 

 城塞都市デュランシルト。


 複数の国の国境が交叉する地。過去には大きな戦が幾多の血を大地に染め上げてきた歴史がある。

 その主な理由は多くのダンジョン資源や遺跡の遺物、太古の古代遺跡の技術遺産など。

 さらには数百年前に作られた良港があり、貿易関連でも莫大な利益を生み出せる立地と、周辺には冒険者が好む狩場が多く存在する。


 その歴史ある中央大門を悠希たちは徒歩でくぐろうとしていた。

 「すごい! ロードオブザリングみたい!」

「なんだそりゃ」

「何度来ても圧倒されるな、今度私がこのデュランシルトの歴史について講義してやろうか悠希?」

「あっそういうのいいから」

「そ、そんな……」

「ははは、分かってないなファルベリオス。悠希には歴史より食い気だ」

 

 言うが早いか、鼻孔を刺激する屋台の放つ香ばしい匂いにつられ悠希はヨダレを抑えるのに必死だ。

 「おい、ファルベリオス、悠希の機嫌をとるためにほら、あそこの焼き串買ってやれよ」

「うむ、そうだな」


 ごっそり今は焼いている串を全て買い占めた悠希は、予想よりも柔らかくておいしい焼き串にご満悦だった。

「ありがとねファルベリオス」

「い、いや……その喜んでくれて何よりだ」


 頬をあからめているファルベリオスを見て、レインドは思う。こいつでも照れることがあるのかと。

 

 悠希たち3人はまず宿の確保をすべくファルベリオスが利用したことがあるという、ほどほどのランクの宿屋へと入った。

 もちろん資金面では痛手ではあるが、悠希を危険な目に合わせるわけにはいかないためファルベリオスが渋々金を出した。

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ボクらのプラモウォーズ ~コズミックリベリオン~ 鈴片ひかり @mifuyuid

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