第13話 旅立ち


 「つまり貴様はあのシルヴァリオンと同等クラスの性能を持つ機体を入手、予約しているという状況なのか!?」

「そういうことになるのかな」

 「わ、私も、私にもその機体を……作ってもらうことは可能なのか!?」

「無理よ今のままじゃね、材料がないもの」


 悠希は静かにポケットから残り少なくなったプラ板を差し出した。

20cm×10cmほどの白いプラ板。


 「これが材料。プラスチックていう素材でないと作れないわ、それで最後なの」

「こんな素材見たこともないな、ファルベリオスは知ってるのか?」

「いや見当もつかんが……、なあ一つ提案なんだが、ようは同じものが手に入ればいいんだな?」

「え、ええ。でもプラスチックを入手する手段は……」

 悠希が口ごもる。

 そう、プラスチックは石油精製時に出る成分を原料にしている。

 石油を入手できても、それを再現するための機器の開発にどれだけの時間を必要とするのか。


 考えただけで頭が痛くなりそうな状況に、レインドもお手上げ状態だ。


 「この際そのプラなんとかが、どういう工程を経て精製されるのかは些末な問題でしかない。

重要なのは現物があるということ。ならば錬金術師の【複製】スキルで増産が可能だ」


「ふ、複製!?」

 ファルベリオスは勝ち誇ったようなドヤ顔を決めてきた。

 一瞬むかついた悠希だったが、ここは我慢我慢と話を訊いてみることにする。


 「あの、それはどういう……」

「錬金術師の中で同じ物質を複製し生み出すという希少技術があるんだが、彼らに持ち込めば増やすことは可能だろう」


 「さすがドヤ顔決めて勝ち誇るだけのことはあるわね! それにしましょう、んでどうすればいいの?」

 レインドも教えてくれと懇願していたが……

 「こういう取引交渉は本来好みではないのだがな、あえて要求したい。私にもあのミラージュキャリバーという機体を……機体が欲しい」

 「いいわよ」

 「いや、分かっている図々しい頼みだと。こんなことを条件にするなど、機士としてあるまじき……ん?」

 「俺きっと同じ流れを経験してる気がする」

「今、なんて? いいよって言ったの?」」

 「だから、いいわよ」


 「まじか! ごほん、ならば話が早い。ここから馬車で二週間ほどの距離に城塞都市デュランシルトがある。冒険者の聖地とよばれダンジョンなどから魔物素材を供給している。そこになら必ず複製が使える錬金術師がいるはずだ」


 「決まりね、でも二週間って結構時間かかるわね」

「しかたがない。じゃあファルベリオス、旅に必要な物資を買い出しにいこうぜ、金は頼んだ」

「くっ今回は仕方あるまい」


 二人が悠希も誘おうとしたが、彼女は何かを考えこんでいる。

 「ねえ、出発って二日後でもいい?」

「急ぐ旅というわけでもないが、明日出発じゃだめなのか?」

「ううん、二日後ならあれを用意できる……はず」

「……ファルベリオス、ここは悠希の案にのろう。その間、俺たちは旅のルートや地図なんかを……途中で路銀が足りなくなった時用に冒険者登録しておくのもいいかもな」


 「うむ、目標が決まったのであれば、私は将軍に資金面の援助を願い出よう」

 

 悠希はすぐに自室へ戻ると、ジャンクパーツセットの袋をテーブルに広げだす。

「あったこれ! ちょっと細かい作業になるけど、がんばるしかないわよね。久しぶりの筆塗り、気合いれようっと!」

 

 大陸中央からやや東へ位置する城塞都市デュランシルトは、冒険者の聖地と呼ばれていた。

魔骸による混乱前には、各大陸から夢と希望とロマン、野心を掲げて乗り込んでくる冒険者たちで溢れかえっていた都市である。


 四か国の国境に位置し、自由都市として自治権を認められているのは厄介なダンジョン管理を担うという目的もあった。

 そのためか、ここで手に入らない品物は他のどの町でも手に入らない と称されるほどだ。


 ファルベリオスは近隣都市で複製可能な錬金術師を探すぐらいであれば、確実にいるであろう都市であり、かつ素材の入手がしやすいデュランシルトを目指すのが最も効率が良いと判断した。

 そして悠希は久しぶりのスクラッチに、残り少ないジャンクパーツを組み合わせながら、創造・想像の翼をはためかせている。


 レインドとファルベリオスとしても、悠希の考えを知りたかったが、逆に邪魔になるだろと準備に専念することにした。


 そして二日後の早朝、準備が完了した悠希が旅支度をして宿屋の食堂に現れた。

 「二人とも荷物とかの準備はいい?」

「問題ない。それより馬車の手配はするなとはいったいどういうことなんだ? 高速乗合馬車の席はもう完売してしまっているぞ」

 ファルベリオスの意見にも悠希は動じることはない。

 「いいのいの、じゃあ出発しましょ。レインドは頼んでおいた地図を出して」

「これぐらいしか見つからなかったが」


 そこには羊皮紙に描かれたこの中央大陸の概略図のような地図と、申し訳程度の街道が記されていた。

「まあなんとかなるんじゃない?」


 悠希の考えが詠めぬまま、3人はとうとう東門から大陸中央へ進む街道へと出てしまった。


 「な、なあ悠希。まさかと思うが歩きでいく、つもりなのか?」

 既にファルベリオスの機嫌は最悪で、ありえないと頭を抱えている。

 「これぐらい町を離れたら大丈夫かな? ちょっと街道から横道にそれるわよ」

 

 とうとうファルベリオスがレインドの腕をつかみ、小声ながらもドスの利いた声で噛みつくような意見を吠えた。

 「おい、あの娘はいったい何を考えている!? 最初から期待してはいけなかったのだ、まさかと思うが失われた転移魔法の使い手とかそういうことでもない限りデュランシルトへ辿り着くなど夢物語になるぞ」

 「いや、悠希が何やら準備してるぞ。とりあえず護衛に入ってくれ」

「むぅ」


 街道からやや逸れた林の奥にちょうど開けた空き地があった。

 その真ん中で悠希が荷物から何かを取り出し、手の平に乗せている。


 「じゃあ下がってて……きっとうまくいく、大丈夫。せーの、ミラージュプロジェクション!」

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