第11話 その名はギルダスタン!

 「我が将を相手に随分と気楽なものだ」


 いつの間にかレインドの背後に立っていたのは、濃い青髪で長髪の青年だった。

 知的でクールな印象を受けるが、その笑みには怜悧さが滲んでいるようでレインドは一目で苦手なタイプとの思いが広がっていく。


 「将軍の副官か」


「いかにも。この場は将軍の恩情によって成り立っているということを、自覚してもらわなくてはな」


 「十分恩義に感じているさ。だから悠希は模擬戦を受けたんだよ」


 「あの娘、出自はどこだ? 一見すると東方諸島にあのような黒髪の民がいると聞くが」


「記憶がないらしいからな、無理に詮索してやるなよ」


「記憶か、それにしては随分とグレムスの扱いがうまいように思えるが」


 シルヴァリオンが立ち上がると、改めて対峙する両雄。


 『見れば見るほど美しい機体であるな、だが手加減はせぬぞ、したらわしが死ぬからのう』


 この場でレインド以外にその機体の性能を朧気ながらも自覚できていたのは、ゴーファムのみだった。


 主に貴族が己の虚栄心を満たすため、グレムスを改造し美麗な機体を儀仗機として見せ合うのが帝国や周辺諸国で広まっていた。

 実戦部隊である兵士たちからすれば、極めて醜悪な催し物でありそんなグレムスが余っているならこちらに回せという思いが強い。


 そのこともあり、多くの兵や青髪の青年ファルベリオスと共に【 見せかけ 】の機体だと認識していた。高を括る、という浅ましい心持というよりも、常識に近い見方であったというべきだろう。


 だが、そのあまりに精巧かつ滑らかな挙動にファルベリオスは徐々にその違和感を膨らませて行った。


 「見せかけではないのか?」

「なら見ていればいいさ、悠希とシルヴァリオンの戦いを」


 レインドの不敵な笑みがファルベリオスに向けられた。


 「将軍が押されるようなことは万が一にも……なっ!」


 両者は真正面からぶつかった。


 ギルダスタンの巨大なハルバードに対し、シルヴァリオンはウエポンラックに装着していた長剣・高周波ブレードで応じていた。


 ハルバードの振り下ろしに対し、悠希は高周波ブレードの高周波を展開せず実体剣として扱っている。


 耳をつんざくほどの衝撃音に思わずレインドが耳を塞ぐが、目の前で起こっていたのは信じがたい出来事であった。


 あの大陸最強と謡われたギルダスタンが、細身で美麗な白い機体に押されているのだ。

 しかも、シルヴァリオンは脚部のジェットスピナーを格納しており、機体のパワーのみで対抗している。

 じりじりと押されるギルダスタンに悲鳴を上げる兵士たち。

 

 『ぬおお! ギルダスタンをも凌ぐパワーか!』

『まだよ』


 シルヴァリオンが大地を蹴る。その圧倒的な脚力によってギルダスタンが一気に押されそのまま後方の岩山に激突してしまう。


 するとシルヴァリオンはすぐさま後方へと跳躍し、再び剣を構える。


 『ここまでとは……ならば受けるがいい! 我がギルダスタンの必殺の技!』


 土埃をまといながら現れるギルダスタンの放つ気迫はすさまじい。全身から緋色の魔力光が漏れ出ており長大なハルバードへ収束していく。

 

 『受けてたちます』


 『ひっさあああああつ! 覇剛豪快撃滅千牙ああああああ!』


 まさに無数の突きが一斉にシルヴァリオンを襲った。

 緋色の魔力光が槍を加速させ、貫通力を高めているのだろう。


 この瞬間、ゴーファムの部下たちは歓喜の歓声を上げ、レインドの表情が焦りに包まれる。

 だがファルベリオスは……「まずいっ!」


 己の魔力を練り上げ、ナイトグレームの力を限界まで引き出したゴーファム必殺の戦技だった。

 槍衾が押し寄せてきたかのように見えていたが、ここでようやく悠希は武器管制システム用のトリガースイッチを引いたのだった。


 高周波の音がキィィンっと演習場に鳴り響き、甲高い金属音が追随した後に、何か巨大なものが演習場の遺跡跡に轟音を上げて突き刺さったのだ。


 それがギルダスタンの握っていたハルバードの穂先であることに部下たちが気づくには、しばしの時間を要した。


 「高周波ブレードは正常稼働したわね」

 < 信じられません。あの機体であそこまでの動きができるとは、【魔力】についてのデータ収集もすすめておきます >


 穂先がなくなったハルバードをくるくると回したギルダスタンは、がつんと大地に突き刺す。


 『 ぐあははは! 負けだ、負け、わしの負けじゃ! 完敗じゃ! 悠希よ見事であった!』

『いえ、機体性能の差よ。あの光る技、すっごく綺麗だったわ!』

『ほんに、悠希の素直な賞賛の言葉は、心に染みるわ! なれば後は飯にするぞ飯の準備をせい!』


 自軍の将が負けたというのに、カラカラと笑うゴーファム将軍の部下たちは、気を取り直したのか野営の準備に入っていた。


 レインドはどっと疲れたが出たのか、呆け、そして安堵していた。


「まさか我が将が負けるとはな、悔しいがあの娘と機体の強さの天井が見えん。貴様が固執する理由が分かった」


 ファルベリオスはメガネをくいっと上げながら、レインドへと賛辞を贈った。

 「あのワズメルからの流れでここまで来るとは驚きだよ。それであんたたちはシルヴァリオンを接収するつもりか?」


 「そのつもりならば将軍はとっくに命じているだろう。お考えが変わることもあるかもしれないが、あの人は決して部下に無理強いをさせない。そういうお人なのだよ」


「ファルベリオスだっけ、あんたがうらやましいよ。仕えるべき将があのような立派なお方なのだから」


「そうだろうそうだろう。私が記録しているゴーファム将軍語録 第45巻から紹介するがな」


「ああ、えっとそういうのいいから、悠希! ちょっといいかあ!」

「おい、これから将軍の素晴らしさを学べるというのに、待てレインド!」

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