第10話 ゴーファム将軍

  

 悠希が覚悟を決めフットペダルを踏み込もうとした、その時であった。


 『 まてええええい! 』


 野太くも豪気な、火花がバチバチと弾けるような大音声が演習場に響き渡る。


 「え? なにごと!?」

 レインドもモニター越しに声の主を探していた。


 『10対1とはさすがに見過ごせぬ!』


 それは演習場を見下ろせる小高い山の上にいた。


 黄銅色の巨大な肩アーマーが最初に目に映る。

 手にした巨大なハルバードは、他のグレムスが持つ物の数倍はあろう長尺だった。


 『ぬん!』


 あの急斜面を躊躇せず巨大、かつ重厚な装甲を持つナイトグレームが滑り落ちるてくるが、その見事な操縦技術で難なく着地し、ワズメルと悠希のシルヴァリオンの間へと割って入る形になる。


 当然ワズメルも、悠希も動くことができずにいる


 「まさか、あの機体は! 真鍮のナイトグレーム! ゴーファム将軍のギルダスタン!」


 圧倒的存在感と威容に他のグレムスたちが、思わず後ずさりを始めていた。


 「うわぁ、あんな重装甲なのに干渉部分が極端に少ない! あのデザインたまんなわ!」


 悠希が興奮している中、ギルダスタンと呼ばれるナイトグレームがシルヴァリオンへと近づいてきたのだ。


 『なんと美しく、しかも力強く、ぬお、これは凄まじい機体であるな』


『ありがとうおじさん! あなたの機体も重装甲なのに関節部などの干渉部分が極限まで計算されてるのね、すっごくかっこいい!』


『か、かっこいい!? ぬははははは! これはたまらん、ぐあははははあ! このような素直な賛辞がこれほど心地よいとはな!』


 ゴーファム将軍と呼ばれる乱入者に対し、アルマナ帝国軍は明らかに動揺しこの場を撤収したがっているように見えた。

 既にワズメルはグレムスに乗り込み、冷や汗を何度もぬぐい逃げ出そうと機体を旋回させたその時である。


 『アルマナ帝国軍とお見受けするが、10対1で何をやろうとしていたのか説明してもらえるのだろうな?』


 ゴーファム将軍の大音声とギルダスタンの威容に圧倒されるワズメルたち。


『いかにも我らはアルマナ帝国軍である。ラングワースまで行軍中、所属不明のナイトグレームを発見したため事情聴取をしたところ抵抗にあっていたのだ、濡れ衣はやめていただこう』


『なによ、私たちを殺してこの子を鹵獲するって言ってたじゃん! 録音してたんだから、イクス再生して』


 ・

 ・

 ・


 悠希とワズメルたちのやりとりが再生されると、明らかにワズメルが動揺し喚きたてた。

 『そのような妖術で我らを貶めようと言うのか!?」


『ふむ、細かい事は知らぬがこの場はわしが預かろう。ダラムス王国 の将軍がそう言っているのだ、了承していただけるなワズメル卿』


 < アルマナ帝国軍をさらに包囲する部隊が現れました。おそらくゴーファムという人物の軍でしょう。およそ25機 >


 「な、なんだ大事になっちゃったわね」

「悠希、とりあえずゴーファム将軍とは敵対しないでくれ。あの人は、中央大陸最強の機士であり、あのギルダスタンも、最強と呼ばれる真鍮のナイトグレーム。いかにシルヴァリオンでも」


 「へぇあれが最強なのね……おもしろそう」

「ゆ、悠希お願いだから大人しくしてって」


 ワズメルは這う這うの体で部下を引き連れ演習場から徹底していった。

 それをしばらく見送っていたギルダスタンがシルヴァリオンの正面へと対峙する。


『して娘よ、其の方らの所属と目的を知りたいのだ。話せぬかの?』

『了解です』


 レインドは思わずのけぞった。

 悠希は豪胆にもコックピットハッチを開放し、立ち上がってギルダスタンに手を振っているのだ。


『がははははは! よい、良いぞ! その機体にふさわしき美貌と胆力! 気に入ったあああああああ!』


 真鍮のナイトグレーム ギルダスタンが着座し背部の騎乗鞍から巨躯の男が飛び降りた。


 それにあわせて悠希はシルヴァリオン左手に乗り、ゴーファムと同じように降りたのだ。

 レインドもそれに従う。


 豪胆な両者が対峙する。

 「近くで見ると、見惚れるほどの美貌、いやかわいらしさと言うべきか、いやいや申し遅れた。わしはダラムス王国のゴーファムと申す。将軍などと呼ばれてはいるが、魔骸共に苦戦する日々よ」


 「ボク、わたしは風間悠希です。ちょっと記憶がなくなっててこっちのレインド君に助けられてます」


「ほう、記憶が、ふむ」

 ゴーファムは明らかにグレムスとは異なる技術体系で建造されたであろう、シルヴァリオンの雄姿に呆けたように見惚れている。


 ゴーファムは部下たちに天幕を用意させると、椅子やお茶を用意させるのだった。

 「甘くておいしい」

 「そうであろう、わしは甘いものに目がなくてな、それにしても何日眺めていても飽きぬほどに美しい造形なのだ」

 「ありがとうゴーファムさん。でもギルダスタンのデザイン、ボクは大好きだな。多くの命を守るためにがんばっているとてもいい子に見えます」


 ゴーファムはきょとんとした。

 後ろで青くなっているレインドであったが、ふっとまるで孫娘を愛でるような柔らかい笑顔が浮かぶ。


 「悠希よ、ギルダスタンをいい子と言ってくれたのだな。我が友の思いを汲んでくれたのだ、ありがたきことよ」


 「とっても優しい眼をしてます。みんなを守ってくれてありがとうギルダスタン」


 「ハハハハハ! 友も喜んでおるわ。それでのう悠希、わしと模擬戦をしてもらえぬかの?」


「この流れで模擬戦提案する?」

「わしはの、知りたいのだ。シルヴァリオンというそなたの友の力を、いやその一端をと言うべきであるか」


「いいけど、できるだけ寸止めで殺し合いはなしなら」

「無論そのつもりだ、後ろの坊主もそれいいな」

「はっ、も、もちろんです」


 レインドはゴーファム将軍の突然の登場にかなり焦りが見えるようだった。

「お主も、あの娘との出会いで活路が見いだせると良いな。だが復讐に固執してはならん、生きて明日を勝ち取ることのみを目指すがいい」


「き、肝に銘じます」

 いつもは穏やかで、のほほんとしたところがあるレインドであったが、悠希は見逃さなかった

 その時のレインドの目が、赤い燐光を放っていたことを。


「では楽しもうぞ、若人よ」

「よろしくですよ将軍」


 ゴーファムの覇気に満ちた声に引きずられるように、悠希は再びコックピットへ乗り込むためシルヴァリオンの手に飛び乗った。

 「悠希、こうなったら全力でぶち当たれ!」

「何言ってんのよ、最初からそのつもりだって。潰しあいじゃなく、互いに高めあうため学びのための戦いでしょ?」

「諸事を俺に任せて、楽しんでこい」

「いってきます」


 悠希は軽やかな足取りでシートへ飛び乗った。

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