第7話 不穏な情勢


 レインド・バンスレーダーはリシュメア王国のグレムス傭兵部隊に所属していた。

 

 中央大陸西部出身のレインドは魔骸に国を滅ぼされ、現在はグレムスの騎乗適正が高いために乗り手不足に悩まされていたリシュメア王国に雇われているといったほうが正しいかもしれない。


 だが手前のナイトグレームを失ったレインドは、新たに支給されるまでの間は特にやることもなく、また収入を得る手段も断たれてしまっていた。


 つまりできることをやって生活費だけでも稼がなけれならなかった。

 だが不安が募る。


 悠希という少女の大食漢ぶりに、レインドの手持ちの資金がみるみる減ってきていたのだ。

 軽く成人男性の10倍は平らげる。


 あまりの喰いっぷりに見物人が現れるほどで、神秘的な黒髪の美少女のマナーの良い食べ方もあってかファンも集まるようになっててきているらしい。


 悠希はどこ吹く風で、召喚素体たるプラモデルを作成することに没頭していた。

 しかし彼女のほうでも問題は生じていたのだ。


「プラ板と塗料、溶剤が圧倒的に足りてなかった!」


 工具類はニッパーやスポンジヤスリなどはしばらく持ちそうではあるものの、ラッカーパテは使い切り寸前。

 薄め液も荷物を軽くしようと残りが少ないものを押し込んできたし、塗料は基本色+メタル系の筆修正で使いそうなものを少々。


 何よりエアブラシ用の携帯用コンプレッサーが、どうやったらここまで綺麗に分解できるのかというほどにバラバラに。

 そういえばと、スマホを取り出してみると隙間から砂のような白い粉がサーっと流れ出てしまい、ただのケースと化してしまっている。


 「レインド君の機体は手持ちでなんとかなるけど、今後の武装や整備を考えると厳しいなぁ。でもあの機体を完成させたほうが、多くの人を助けられるんだよね」


 実際のところ、レインドの機体を仕上げず材料や塗料を温存したとしてもそれは一時の節約でしかなく根本的な解決にはならない。


 むしろレインドに活躍してもらい何かプラスチックに代用できるような素材や、魔法的なサムシングでなんとかしてもらえたらと考えるようになっていた。


 「となれば、シルヴァリオンで地上戦用フレームと装備のテストをする必要があるわね。新機体のためにも」


 シャワーを浴びながら独り言を呟いていた悠希は、冒険者風のパイロットスーツを着ながら傭兵部隊の打ちあわせから帰って来たレインドにある提案を申し出たのだ。


 「起動テスト?」

「安心して4号機のようなことにはならないはず」


「よ、4号?」

「いいえ、忘れてくれていいの。とりあえず人目につかずにミラージュキャリバーを動かせる広さのある場所ってない?」

「それだったら、アラウダの演習場が空いてるはずだ」


「へぇそんな便利なものがあるのね」

「このロナ町はさ、損傷したグレムスの修理と生産拠点なんだ。街中で稼働テストは大変だろ? だから近くに演習場が設けられてるんだ。魔物避けもしてあるから丁度いい」


「なら今からお弁当を持って出発しましょ。おかみさーん! お弁当10人前おねがいしまーす!」


「お、おい、そ、そろそろ金が……まあ、しかたない! っか……」


 ◇


 本来であれば、西側から押し寄せる魔骸の進行と浸蝕を防ぐための絶対防衛戦となっていたラングワース要塞。それは数百年前に大陸を制覇したある大魔導帝国の遺物。


 山脈との間にできた自然の間道を利用した難攻不落の大要塞、関門であった。


 ここを死守するために東側の国々が防衛部隊を派遣し、共同で防衛にあたっている。

 国同士の争いをしている場合ではないという状態であったことから、数百年いがみ合っていた隣国とも轡を並べる事態になっていた。


 このラングワース要塞で防衛行動にあたる主戦力は、常駐召喚型ゴーレムを騎乗操作を可能にしたグレムス。


 全長8m~15mと種別や外見が大きく異なるハンドメイドが主流。


 武装はほぼ近接武器であり、射撃武器はごく一部の要塞守備隊のグレムスが大型クロスボウを扱うのみだ。


 これらグレムスの損傷が激しい機体を後方で修理する拠点がロナの町であった

 他にも新規召喚機体の騎乗装備の取りつけなど、後方支援基地としての役割を担っている。


 他にも物資集積を担う交易都市や、騎乗技術の訓練学校がある町など、国境をまたぎながらラングワースを支えるため日夜人の営みが紡がれていた。


 しかし、ここ数週間で本来いるはずのない、いてはならない魔骸がラングワース要塞の東側で発見され、いくつかの村が壊滅の被害にあうなど後方部隊にとって深刻な危機が訪れていた。


 要塞側でも修理や補給等の兵站が断絶される危険が高まり、士気に大きな影響が出てしまっていた。

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