第6話 悠希の条件

 翌日は宿屋の女将さんに叩き起こされシャワーの使い方を教わり、娘が残していったという元冒険者らしいレザースカートの一式を着せてもらった。


 なんとなくパイロットスーツに見えなくもないデザインのため、心が少し踊る悠希。


 ご機嫌でパンとスープの朝食を食べた悠希は、あぶく玉という全自動丁寧ブラッシング魔法アイテムで歯磨きを満喫した後に、昨日仕上げたシルヴァリオンの一部塗装と接着部の乾燥状態をチェックすることにした。


 「やっぱり完全乾燥は時間かかるけど、とりあえずはこれで大丈夫そうね」


 白銀の装甲から白地に変わったものの、その優美さ、美しさは遜色はない。


 対ビームコーティング装甲はモールドが少な目であったものの、地上戦仕様のフレームは各所に丁寧なパネルラインを想起させるモールドが追加され、レッドポイントや情報量を制御したデカールなどでリアリティがアップしている。


 シルヴァリオンを持ち運び用のケースへ収納しようとしているところに、レインドが神妙な面持ちで訪ねてきた。


 傷はすっかり癒えたようで血色も良さそうだ。

 「あのさ、改めて悠希に頼みたいことがあるんだ」

「お世話になってるから、変なこと以外なら聞いてあげてもいいわよ」

「へ、変なことって……、えっとその君の大召喚士としての力を借りたいんだ」

「だからボクは召喚とか知らないってば」

「でも、あの白銀の機神は!? ナイトグレームじゃないのか?」


「あれはミラージュキャリバー。名前はシルヴァリオンよ。誤解だらけだから説明するけどね……」


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 「つまり悠希は自分で作った素体、いや ぷらも、でる を巨大化させる能力があるってことなのか」

「だからそう何度も言ってるんだけど」

「……ごめん。じゃあつかぬことを聞くけど、俺にそのミラージュキャリバーを用意してもらうってこと……」

「いいわよ」

「できるわけないよな、あれほどの性能だ、そうやすやす……ん?」


 「あんさ、レインド君、人の話を聞かないって通知表に書かれてたでしょ?」

「い、いやその、ええ?」

 素っ頓狂な声をあげたレインドは、まじまじと食い入るように悠希の顔を見つめている。

 乙女ゲームの攻略キャラ並みの容姿を持つ、いわゆる作画が違うタイプのイケメンに見つめられれば、色恋にうとい悠希でさえ頬を赤らめてしまう。


 「命の恩人だし、用意するわよ、レインド専用のミラージュキャリバーを」


「うおおおおお! ほ、本当なのか!? いや悠希が言うからには本当なんだよな、こ、これで奴等を魔骸を、駆逐できる!」


 その悲壮感に根差した希望というものに、悠希の心は波だった。

 これほどまでに魔骸に追い詰められた世界、いや星なのだろう。


 魔骸の正体は分かっていない。魔族の侵略兵器であるという話も漏れ聞こえてくるが、確証はなく彼らも被害者であるという言説すら存在するそうだ。


 「ただ少し時間をもらうわよ。予備の機体は一部のアーマーの処理が終わってないのよ」


「どれくらいかかりそうだ? あれほどの性能ならば、1年や2年では難しいだろう……5年以内だとありがたいが」


 「そうね、問題が発生しなければ乾燥含めると7日は欲しいかな」

「そうか7年か、仕方がない……ん? 7?」

「7日よ、なのか!  作業に集中するから食事とかの用意は頼むわよ。シルヴァリオンの起動テストも行いたいから、そうね7日」


 「7日で、あの強力な機体が!」


 悠希は手にしていたスポンジヤスリをレインドに向けながら立ち上がった。

 

 「でも条件がある。守らなかったらその機体をボクは躊躇なく破壊するから」

 その目のすごみは、レインドが出会ったどの人物とも違う底冷えのする覚悟を肌で感じた。

「じょ、条件とはいったい何だ?」

「その機体で人を殺さないこと、人の命を奪わないこと」


「……魔骸の正体が人間だった場合は?」

 レインドの目が怒りに濡れていた。

 その可能性を想定しているであろう葛藤が目元に滲み出ている


「論点をずらすなバカ」

「ば、ばか!?」

「無垢の民、弱い人たちを守れって言ってるのよ。ボクの機体は、誰かを守る存在であって、人の命を奪うものであってほしくないの」


「了解だ。その条件ならば身命を賭して誓おう」

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