第5話 改修計画

 案内された宿屋には魔骸から避難しているためか人はいなかったが、レインドが椅子をすすめてきた。


 「魔骸が撃破されたとなればいずれ人が戻ってくるはずだ、とりあえずこれでも飲んで休んでくれ」

 レインドはひどくしょげていたようだが、すぐに気を取り直したのか銅製のコップに果物のジュースを入れて持ってきてくれた。


 「あ、ありがとう」


 イクスは成分分析を推奨しそうだったが、喉が渇いていた悠希は勢いのまま飲み干した。


(このジュースで死ぬ様なら、この先リスクだらけですぐ死んじゃうでしょ)


 「あ、おいしい」


 「そうかよかった。あ、あのさあ、聞いてもいいかな?」


「なによ?」

「えっと、君の召喚したのは伝説の軍神とかなのかな? あの強さ、尋常じゃなかった」

「召喚なんてしてないわ。これよ」


 隠すのが面倒だと割り切った悠希は、ケースにしまったシルヴァリオンのプラモデルをレインドへと見せたのだ。


 「そ、それはさっき召喚されていた軍神の召喚素体か!」


「違うと思う。それよりあなたの体、傷だらけじゃない。治療を受けられるところはあるの?」


 そう悠希が問いかけた時には、通りから話し声がざわざわと聞こえてきたので人が戻ってきたのだろう。


 「そうだね、救護所に顔を出してくるとするよ。君は宿の二階廊下の右奥の部屋で休んでいてくれ」


 「ありがとう……あの、一つだけ聞いてもいいかしら?」


 長身のレインドに対し、見上げるように問いかけた悠希の美貌に圧倒され気味なレインドはこくりと頷いた。


 「どうして町を守ろうとしたの? あんな損傷が激しい機体じゃ、グレムスだっけ、それじゃ死にに行くようなものでしょ?」


 レインドはふわりと早春の雲のような爽やかさで答えた。

「守りたいから。誰かを守るのに、理由なんていらないだろ? じゃあ素直に治療されてくるよ、また話を聞きにいくから」


 さっと手を上げレインドは悠希の返答を待つこともなく駆けだしていった。


 「守るのに理由なんていらない……分からない。自分が死ぬかもしれないってどうして思えないんだろう……はぁ、とりあえず部屋いこっかな」


 シルヴァリオンに積んでいた荷物を背負うとやけに軋む木の階段をのぼりながら、悠希は思う。


 「なんでこの町ってファンタジーぽい景観、文化形態なんだろう」


 ・

 ・

 ・ 


 レインドに指示された部屋は彼が逗留してたようだが、荷物がそのままベッド脇に置かれているのみで特に使用された気配がない。

 どっと疲れが出た悠希はすぐにでもベッドに寝転がりたかったが、ずっと頭の中にくすぶっているある問題を解決したくてたまらなかった。


 「イクス聞こえているかしら? それともシルヴァリオンが起動状態じゃないと反応難しい?


 < マスター、ご無事でなによりです。通常時より100分1%の演算能力しかありませんが、情報支援は可能 >



 「じゃあ色々考えなければいけないことをとりあえずあっちにぶん投げる! んで、やらなきゃならないのはシルヴァリオンの改修よ」


 < 宇宙戦仕様のビームコーティング装甲ではなく、地上戦用に組み上げるのですね? >


 「そうそれ! 私が装甲の組み換えをしている間に、推奨武装をリストアップしといて」


 < イエスマイマスター >


 悠希は疲労で痺れる頭にムチを打ちながら、シルヴァリオンの地上戦仕様のカスタマイズを急いでいた。

 主な要因は現状ではシルヴァリオンの特徴でもある高機動戦闘に支障が出てしまうことであり、大気重力分析ができるまで飛行ができないという状況に対応しなければいけなかった。


 別のケースにまとめておいた地上用の装甲パーツ類。


 「そうね、足にはホバースピナーとジェットローラーが組み込まれた高機動パーツを接続して……」


 悠希のプランは大胆だった。宇宙戦用の背部バーニアを外し、地上用の匍匐飛行用バーニアにウェポンラックを接続。

 移動は脚部のホバーとジェットローラーで機動力を確保する戦術だ。


 「懐かしいなぁ。この肩アーマーのスジボリで大失敗して大分落ち込んだっけ」


 宇宙用の対ビームコーティングされた銀色の鏡面仕上げとは異なり、シルヴァリオン地上用装甲は、追加モールドや武器装着用のハードポイントが増設され情報量が多くなっている。


 各部装甲のパネルラインもメンテナンスを意識した意味付けを考えたもので、白銀の美しい装甲は、白地に青いラインがところどころ入った清冽な機体イメージとなった。


 「これもこれで中々……うふふふ! シルヴァリオンかっこいいわあ…あ~あ、みんなに見てもらいたかったな。これも全てあの変態全身タイツ星人のせいだ!」


 装甲の組み換えが順調にできそうだと安堵しながら、悠希の怒りが再燃してくる。


 「あの変態全身タイツ星人め、必ずみつけて100分91コロシにしてやる」


 ”

 そもそも、考えないようにはしていたけどこの状況どうなってんのよ。

 せっかくみんなと楽しいプラモ女子会に行くとこだったのに、なんでボクはファンタジー感満載の星に置き去りにされてるの?


 しかも化け物とかあのイケメンとか、訳が分からない。


 今必要なのは、生き抜くための文字通りの武器であるシルヴァリオンを整備しいつでも使えるようにすること。

 そうすれば衣食住や金銭を得るための武器になるわね。


 でも忘れちゃいけないわよ悠希。


 シルヴァリオンには絶対に人殺しをさせないって。

 ボクがこの機体を作ったときに込めた願いは、人を助ける機体であってほしい。

 多分だけど、この子が強いのはボクの思いや願い強くしみ込んでいるからじゃないかって思うの。


 そうよね、天涯孤独だし、今後の創作やオリジナルのデザインやモールドのアイデア、造形センスを磨けるかもしれないし!


 それにあいつ、悪い奴じゃなかったし……


 ”

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