第4話 惑星ニル・リーサ

 < 出力調整の必要を認めます >


「そ、そうね。生存者の状況を教えて」


 射線上に近かった石畳は赤く焼け溶け、一部はガラス化してしまっているようである。

 画面の中でのみの戦闘映像であったものが、目の前で起きている戦闘の傷跡に悠希は操縦棹を握る手が微かに震えていた。


 < 搭乗者は無事のようです。大気成分が判明、有毒成分はありませんが未知の粒子については調査を進めます >


「そうしてちょうだい降りるわよ」


 迷うことなく胸部のコックピットハッチを開いた悠希は、シルヴァリオンの手の平に飛び乗った。

 ゆっくりと膝をつく愛機の外観をほれぼれするように見ていた悠希。

 < マスターへこれを装着してください >


 ふわっとコックピットから飛び出してきたのは、腕時計に似た小型端末のように見える。

 急ぎ端末を装着しながら駆け寄る悠希。

 そこには傷だらけになりながら何かを守ろうとした姿がそこにあった。


「傷だらけだけど、無事なみたい」


 奇異な目で見られているかと思いきや、彼の目には羨望や憧れのような色が滲んでいることに悠希は意外だなと思った。

 そして、その青年が守りたかったもの、戦った理由でもある石畳が続くその先には、人の営みが、街の明かりが、街並みが広がっている。

 

 「君がこのナイトグレームの機士なのか!?」

 シルヴァリオンが膝をつき勇希をのせた右腕が石畳の上に着底した。


 (ナイトグレーム?)

「いや、その、援護に感謝します。君がいなければ俺はマガイに食われていただろう」

 (うそ、あれって人を食べるの!?)


 「すまない、何か気に障ることを言っただろうか?」


 あのイケメンパイロットが気まずそうな顔をしたことで、ようやく自身が一言も発していないことに気が付いた悠希。


「えっとね、ボクはね少し記憶が飛んじゃっててよく分からないんだ」


「そ、そうだったのか、えっとそうだなとりあえず、俺の名はレインド。君は恩人だ、ロナの町ならば休息が取れるから一緒に良かったこないか?」


 「食料も水もなかったから、助かるわ。あっボクは風間悠希 ユウキでいいよ」


 「ユウキか」

 思わず悠希の頬が紅潮する。これほどのイケメンを見たことがなかったからだ。乙女ゲームの主人公がそのまま3次元化したというレベルなのでどうにも視線に困る。


 <マスターへ。ミラージュアウトを実行しますか?>


「ミラージュアウト? えっと、なんだろう頭に流れ込んで、あっなるほどそういうことなのね。いいわ実行」


「ユウキどうしたんだ? って、え!?」


 白銀のミラージュキャリバー シルヴァリオンが、虹色の粒子へ分解されるように消えていく。

 茫然としながら絶望するように崩れ落ちながらそれを見ていたレインドだったが、やがてその光が悠希の手の上で再実体化を始めていた。

 それは悠希が製作を進めているスクラッチモデル 100分の1サイズのシルヴァリオンのプラモデルであった。

 

 ◇


 惑星ニル・リーサ


 アンドロメダ銀河の伴銀河であるM110に位置するとされている惑星であった。

 シリウス、レクティル、アヌンナキらの星系連合国家が幾度となく調査を行ったが、星の大気や外殻、さらには周辺宙域にまで広がる謎の粒子 通称オルナ粒子による干渉により立ち入ることすらできぬ 幻想秘境とされてきた。


 オルナ粒子はほぼすべての科学的装置を浸食してしまうため、降下ユニットすら大気圏内で分解してしまっていた。

 厳重なシーリングやエネルギーフィールドを駆使しなんとか地表まで探査ユニットを展開できたとしても、数分で精密機器や駆動装置が浸食を受けデータ送信すら困難になってしまう。

 それでも各星系軍が必死に調査を実行してきた理由は、この星が次元回遊惑星であるためだ。


 多次元並行世界に同時に存在していると想定されているため、この星を制すれば無限の可能性を手にすることができるのだ。


 だが、惑星ニル・リーサに対し、レプティリアン種の軍が強大な軍事力を展開し周辺宙域を制圧。


 レプティリアンによる強引な調査と惑星侵攻が開始された。


 だが、先日のこと、衛星軌道上で大規模降下作戦を準備中であった無人探査艦隊が謎の攻撃を受け壊滅。


 それが地表から放たれた収束ビーム砲であることが判明。


 レプティリアン軍は一時撤退の憂き目にあったという……

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