第5話 迷宮1

 次の日にハンナが乗って来た馬車で移動する。

 俺の私物は少なかったので、すぐに出発だ。

 孤児院の弟達や村人から見送りを受ける。そして餞別だ。


「新しい剣……ですか? 本差?」


 師匠から新しい剣を受け取った。


「脇差では、短すぎるだろう? その本差がメイン武器になるらしい。まあ、使ってみてくれ」


 そうなんだ?

 鞘から刀を抜いてみる。


「長いですね、それと重い……」


 鈍い光を放っている……。脇差と同じ作りみたいだけど、なんか濡れてないか?


「錆取りと研ぎは済ませておいた。それと油を塗って錆止めするみたいだ。手入れを怠るなよ」


 錆止めか……。脇差は、毎日研いでいた。

 錆が止まらなかったからだ。本音を言うと、扱いに困っていた。

 油を塗ると錆が止まるのか……。いい事を教えて貰ったな。

 脇差で試してみよう。食用油ならある。


「ありがとうございます、師匠。使ってみます」


「元気でな」


 ここで、アンヌさんが前に出来てた。

 そして抱き締めてくれた……。


「……困難な道になると思うわ。でも、気を付けてね。頑張って生きて」


 アンヌさんの〈未来視〉か……。

 楽な人生を選べなくなったみたいだ。だけど、ハンナと一緒なんだ。俺に不満なんかない。

 こうして見送りを受けて、生まれ故郷の村……シクラサ村を後にした。





 道中は、馬車での移動だ。ハンナの話を聞く。

 まず、首都ではないが、迷宮ダンジョンのある発展した街で活動しているとのこと。

 五人の冒険者パーティーらしい。一人抜けて、補充要員を探していたのだとか。

 そんな時に、俺の話を聞いたんだとか。


「信じらんなかったよ。まさかルークが狩人の真似事をしてるなんてね。でも、獲物の切断面は、凄かったから、本当なんだなって。シクラサ村の人達も、山菜採りができる様になったとか、ルークのこと賞賛してるし」


「そうだろうね。俺も畑を耕して生きて行くつもりだったけど、気が付いたら熊と対峙してたし……。技能スキルの発現後は、生活が一変したね」


 ハンナが、呆れている。


「……死んだら、終わりなのは分かってるよね? 熊と対峙って、普通じゃないよ?」


「十分な射程距離があるからね。そして、一撃必殺の威力でもある。今まで、敗走した事はなかったよ」


「ふ~ん、いい"神様からの祝福"だったんだ?」


 『いい』……か。有用だけど、"なんでも切れる"のと"射程がある"だけだ。まだ、真価は発揮できていないと思うし。


「記録がなかったので、誰も気が付かなかったみたい。でも、有用だとは思ってるよ。でも、使いこなしているとは言えないかな。剣術の修行も続けないとね」


「……そう、良かったわね」


 含みのある言い方だな。なんだろう?





 ハンナが、拠点にしている街へ着いた。

 この地域の主要都市、辺境都市ロブエだそうだ。

 そして、パーティーメンバーの紹介を受ける。


「そいつが、熊を狩る村人か……。信じらんねぇが、まあ実力がなければ死ぬだけだ。死にたくなければ、必死に働け。今日は荷物持ちだからだな。余計な事はするなよ。それじゃあ、行くぞ」


 おいおい。開口一番それかよ?

 名前も聞いてないんだけど?

 それと、何処へ行くんだ?

 ハンナを見る。……萎縮していた。この冒険者達とは、どういう関係なんだ?



「ここが、迷宮ダンジョン入り口になる」


「へぇ……」


 禍々しい入り口が、俺の前にある。

 ハンナは、ここに潜っているのか。

 潜る前に、少し聞いてみることにする。


「ハンナは、どれくらいの頻度で迷宮ダンジョンに潜っているの?」


「えっと、一ヵ月ぶりかな……」


 そんな間隔を開けるんだ? 一回でそんなに儲かる?


「実は、前に所属していたパーティーが解散しちゃってさ。今は臨時で組んでいるの。ルークも同じ扱いなんだ」


 ……少し裏がありそうだな。時間ができたら聞いてみよう。

 まあいいや。最悪、ハンナと二人で冒険者パーティーを組んでもいいと思うし。

 無駄口を叩くと、パーティーのリーダーらしき男が、睨んで来る。

 黙ってついて来いってか。俺は荷物を背負った。

 まあ、逆らっても意味がない。従おう。


 今だけでも……。





「ハンナ! 前三匹!」


「はい!」


 ――ドゴン


 ハンナが、魔物の突進を食い止めると、残りの4人が一斉に襲いかかる。連携は見事だけど、ハンナの消耗が激しい。

 回復薬とかいうのを使っているけど、戦闘を続ける度にハンナの消耗が大きくなって行った。

 なんなんだ、このパーティーは……。

 俺は見ていられなかったので、射程距離に入った魔物に飛ぶ斬撃を放って行った。ここは、森とは違う。魔物に油断はなく、避けられてしまう事もあった。

 それでも、多少はハンナの負担を軽減できたと思う。

 それと、パーティーでの俺の評価も決まったみたいだ。ハンナは、驚愕の表情で俺を見ているし。


 五回目の戦闘で、ハンナが立てなくなった。


「ちっ。今日はここまでだな。こんなんじゃ深層攻略は、まだまだ先だな~。何時になることやら」


「そう言うなよ。リーダー。ハンナも頑張ってるんだしさ」


 無意味な会話が始まった。

 俺は無視して、ハンナに肩を貸す。鎧が重いな。


「ごめんね。足手まといで」


 いかに、守護者ガーディアンの"神様からの祝福"があろうと、レベルが合っていない。それに、複数の魔物の攻撃を一身に受けている。そもそも、戦法が滅茶苦茶だ。


「……とにかく迷宮ダンジョンから出よう。こんな事を続けてたら壊れちゃうよ」


「私は……、守護者ガーディアンなんだし……」


 その時だった。

 迷宮ダンジョン内に獣の声が響き渡った。

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