第4話 スカウト
成人の儀から二ヵ月が過ぎた。
俺は、狩人として村に貢献していた。
獲物はともかく、毎日なにかしらの収穫を持ち帰ったので、村人達も喜んでくれた。
不思議と獲物に出会えた。それも毎日だから、不思議なんだけど、今はそんな時期なのかもしれなと思って、自己完結する。
朝、朝食の用意をして、素振りの練習を行う。
日が真上に登ったら、狩りに出かける。
この村の周囲には、草原と山がある。川も流れており、歩きで十日程度の距離に海もある。まあ、村から出た事のない俺には、内陸部としか分からない。
俺は、始めに草原で狩りを行っていたのだけど、欲が出て山に入った。
森と言った方がいいかもしれない。視界が悪く、薄暗い空間……。
山菜採り以外には、用のない場所だったけど、今日の俺は目的が違かった。
精神を研ぎ澄ます……。
『最近出たと聞いたのは、この辺のはずだったんだけど……』
不意打ちさえ避けられれば、俺には十分な勝機がある。
背を樹に合わせるようにして、森を進んだ。
そして……、唸り声を聞く。
反射でその方向に脇差を向けた。
「いた、熊だ……」
山菜採りの邪魔者。危なくて、村人も山に入れずにいた。冒険者に依頼を出すも、帰って来ない人が出たくらいだ。その後、冒険者達は、受けてもくれない。
熊は、この辺りに巣を作ったんだと思う。
追い払う事は、無理があった。
誰かが、討伐するか、移動するまで待つしかなかったけど、俺ならばできると思ってしまった。
ちなみに、森に入る事は、誰にも相談はしていない。
俺が考えていると、熊が立ち上がった。
3メートルはある身長……。丸々と太った体格。
まともに対峙すれば、あの爪で俺は真っ二つだろうな。防具があっても役に立たないと思う。
逃げない俺を見て、熊が威嚇して来た。
それでも俺は退かない。
そうすると、熊が近寄って来た。
『後少し……』
自分の射程距離は、完全に把握している。
熊は、あの体格でかなり素早いと聞いているけど、今はゆっくりと歩いて来る……。俺は、獲物としては認識されているけど、脅威とは見なされていないみたいだ。まあ、まだ距離もあるしね。
熊は、俺から視線を外さない。距離はあるけど、警戒もしている。
そして、俺の射程距離に踏み入った。
「相手が悪かったな!」
俺は、脇差を振り下した。
飛ぶ斬撃と表現すべきだけど、速度が分からない。俺が振り下した目の前の空間は、切断されていた。
そう……、空間を切っている感覚だ。
俺の防御不可能の遠隔攻撃……。なにも考える必要がなかった。いや……命中率が問題かな~。
今日も村は、大騒ぎだ。
熊の肉は重すぎるので、小分けにして持ち帰ったのだけど、驚いた村長が荷車を貸してくれた。
それと、村人が数人手伝ってくれて、熊の肉は全て回収できた。
熊は一匹とは限らないけど、これで山菜採りが行えるかもしれない。
少なくとも、俺が護衛を行えば、被害など出ないと思う。
俺の考えを伝えると、明日に山菜採りが行われることが決まった。
午前中は、素振りの稽古を行いたいので、午後から山菜採りだ。
俺は、森の中での狩りかな。兎でも鳥でもいい。
順調だった。順調だと思えた。
ここで、冒険者達の視線を気にしなかったのが、俺の失敗へと繋がって行く。
◇
山菜採りが始まり、数日が過ぎた。
今日は熊も出なく、俺は別な獣を持ち帰った。大猪だ。
まあ、山菜は数ヵ月採らなかったので、大量に手に入った。荷車一杯の量だ。
一ヵ月は、山に入らなくてもいい量だろう。山菜は、干せば日持ちする。
今日も収穫があったので、俺は胸を張って村へ帰った。
そして、その人物が待っていた。
「ハンナ?」
「ルーク……。二ヵ月振りだね? 元気だった?」
そこには、全身を防具に身を包んだ、ハンナがいた。
背中に背負っている大盾が印象的だ。
隣にいた村長が前に出て来た。
「ルーク。お前にスカウトが来たのぅ~……。ハンナのパーティーだそうだ~。また、他のパーティーからも来ておるがのぅ~」
え? スカウト? 俺に?
ハンナは、嬉しそうだ。
経緯を聞くと、近くの都市で俺の話が、出回っているらしい。
『飛ぶ斬撃を放つ村人』が現れたと言う話みたいだ。これだけなら、『必中』を持つ狩人の方が、まだ優秀だと思う。
だけど、熊を一撃で屠れるとなると話が変わって来る。
その話を聞いたハンナが、急いで来てくれたらしい。
「ハンナは……、その……、順調なの?」
「私は
俺が、冒険者か……。想像もしてなかったな。
でも、俺の
それに、村から出てみたいと言うのもある。
もっと言うのであれば、ハンナと一緒にいたい。
断る理由がなかった。
「村長……。スカウトを受けたいと思います!」
拍手が鳴った。
ハンナは、抱き着いて来た。嬉しい意外に言葉が出ない。
この時の俺は、輝かしい未来しか来ないと思い込んでいた。
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