第3話 発現

 その後、村長が来て事の経緯を説明する。


「ふむ……。皮むき時には発動せずに、くわを持ったら発動したと……。条件かのぅ~」


 なんだ、条件って?

 その後、剣を渡される。

 騎士が片手で扱う物だけど、俺は両手で持たないと支えられなかった。結構重いな。


「ふん……」


 力を入れて、剣を鞘から抜いてみる。

 そして、鞘を地面に置いて、両手で剣を持ってみた。


 ──キーン


 また、耳鳴りがした……。


技能スキルが発動しました……。魔力は、さっきよりも制御できています」


「ふむ。発動条件は、両手で持つことかのぅ~」


 発動条件? そんなのがあるのか?

 とりあえず、剣を地面に降ろして、左手を放した。魔力の暴走が止まる。

 周囲は、好機の目で俺を見ている。

 早く披露しろと……、目が語っているんだけど?


 村で話し合いが持たれて、最終的にショートソードを選んで貰った。異国の脇差わきざしとか言う物らしい。

 なぜこんな物があるのかと言うと、この村の近くには、迷宮ダンジョンがあるからだ。

 挑む人も多いけど、戻って来ない人も多い。そんな人達の遺留品は、村の財産となる。


 脇差は、錆びており、長い事使われていなかったのが伺える。それと、短いので本来であれば、片手で扱う物だと言うのは、俺でも分かる。それを両手でしか扱えない俺……。

 まともな食事と、訓練さえ受けさせて貰えれば、俺も普通の武器くらいは扱えると思うけど、戦場には行きたくないので言わない。そして、藁の束を用意して貰った。


「それでは行きますよ~」


 村人達は、好機の目で俺を見ている。分かっている。失敗を笑いたいんだろうな。

 俺は、藁の束に脇差を振り下した。


 村が静まり返った……。

 目の前には、切断された藁の束……。いやそれだけじゃなかった。

 飛ぶ斬撃とでも言えばいいんだろうか?

 俺の前方の家が真っ二つになっていた。それだけでもなくて、地面にも亀裂が入っており、その先の岩も真っ二つになっていた。

 前方に人がいなくて助かった。危うく殺人を犯すところだったよ。


 どうやら、俺の技能スキルは、飛ばせるらしい。

 そして……、戦闘向きだと言う事が、知られてしまった瞬間だった。





 壊した家の損害賠償とかは、村長が受け持つことになった。まあ、そのために村長に付き合って貰ったんだし、この件はお願いする事にする。

 俺は次の日から、元冒険者の村人に稽古を見て貰う事になった。仮の師匠かな。

 戦場には行きたくないと説明したら、「気が早い」と言われてしまった。

 でも、それもそうか……。

 自分のスキルの解明からだな。


 分かったのは、まず刃物を持つ事だ。それが条件になるらしい。

 それと、両手で持つ必要がある事。皮むき用の料理包丁を両手で持つと技能スキルが発動したので、これは確定だ。村長の言葉は正しかった。


 それからは、素振りの毎日だ。ただし、剣も脇差も持たない。長い木の枝を渡された。

 俺のスキルは、かなり危ないので、まず技術を習得してから発動させた方がいいのだそうだ。

 剣術の型を教えて貰い、ひたすら木の枝を振る。手の皮が破けて血が噴き出るが、俺は木の枝を振り続けた。


「剣術は、斧とは違うんだな。叩きつけるのではなく、滑らせるように引く……」


 順調に基礎を学んで行く。不満なんかない。

 目的を言うのであれば、今の生活から抜け出したい……、それだけだった。

 それでも、俺には十分だった。

 生まれて始めて得られた目的なのかもしれない。

 ……単純に嬉しかっただけかもしれないけど、俺には十分な理由だった。


 村長も俺に協力してくれるようになった。

 まずは、体作りからだそうだ。

 肉を食べる様に勧められた。

 だけど、世話になってばかりではいられない。俺は脇差の錆を落として、ある程度研いだ。

 どうやら、俺の技能スキルは刃が付いていると認識すれば、発動するらしい。

 木刀でも技能スキルが発現したので、これも確定だ。要は俺が、〈刃が付いているモノ〉と認識すれば発動するみたいだ。木刀……木の刀であってもだ。

 少しずつだけど、前進している気がした。


「……行ける気がする」


 この時は全てが中途半端だったけど、俺は村から出て、獲物を探した。





「遠くに鹿がいるな……」


 俺の射程距離は、約20メートルだ。それなりに長い。

 ゆっくりと近づく……。

 鹿は俺を視認するけど、逃げなかった。まだ、鹿の警戒領域外なんだろう。

 俺は、脇差を振り下した。


「ふぅ~。初の獲物ゲットだぜ!」


 真っ二つになった鹿を見て、俺はガッツポーズを決めた。

 内臓を取り出して、血抜きを行う。

 落ちていた棒の両端に鹿の肉を括り付けて肩で担ぎながら立ち上がった。

 そして、村に帰る。

 村長と元冒険者の師匠に報告を行うと喜んでくれた。

 鹿肉は、切り分けて村人へ振舞う。

 ここで、迷宮ダンジョンへ挑戦している冒険者から声をかけられた。


「君は、将来狩人になるのかな? でも冒険者にもなれそうだね」


 意外な事を言われたのだと思う。

 考えてもいなかった未来が、開けた気がした。


「……戦場に行きたくないとしか、考えていませんでした。将来は……、村に貢献できれば、農民でもいいです。地面を耕すことはできますしね」


 一応、それとなく回答する。

 自分でも分かる。こんなの本心じゃない。


『もっと、もっとだ……。まだまだ狩れる。弟や妹達に食べさせてやれるんだ』


 この時の俺は、有頂天だったんだろうな。

 確かな手ごたえを得て、成果も出した。

 喜んで食べている弟や妹を見て、心が躍っていた。


 止まれない俺が、そこにいた。

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