第2話 スキル

 俺の名前は、ルーク。平民なので、ただのルークだ。

 外では、生れた村の名前を付けて『シクラサ村のルーク』と名乗っている。


 この世界には、十五歳で成人の儀がある。

 "神様からの祝福"を得る儀式だ。祝福は、職業であったり、技能スキルであったりする。一様ではないと聞いているけど、俺は良く知らない。


 有名どころだと、『剣聖』や『賢者』かな?

 『狙撃手』なんてのもある。異世界人が持ち込んだ、銃と言う物で、戦争を終わらせた人が有名だったな。

 それと、『魔導師』は、この世界では特殊なんだとか。

 これまた異世界人の知識なんだけど、この世界の魔法は、バフ・デバフ特化に変わったらしい。この辺は、俺には分からない。俺は、魔法が使えないからだ。

 でも、熊に会って、ちっぽけな火を撃ったり、切れない風を撃っても意味ないか。とにかく、魔法を授かった人は、直接攻撃は行わないらしい。

 それと、『魔法剣士』かな……。国を救った英雄だった。皆、憧れてもいる。


 魔王が出現した場合は、『勇者』を授かった者もいたそうだ。

 これらは、職業でもある。

 だけど、人によっては技能スキルの場合もある。

 どちらが良いとは言えないけど、『農民』と出た場合は、人生が終わってしまうらしい。

 でも、人によるとも聞いている。開拓村で広大な農地を得て富豪となった『農民』もいたそうだし。過去に一人だけ……ね。


 次に技能スキルだ。

 有名なのが、『転移・転送』『収納』『言語理解』『鑑定』らしい。

 過去に成功を収めた人が発現した技能スキルだ。

 こちらは、職業に比べると特化型と言える。

 比較的ハズレである、『炎操作』であっても、発現初日から、鍛冶場で働ける人もいるし。

 技能スキルの場合は、初期から活躍できるけど、成長の余地がないとも聞く。

 こちらは、"発想力"や"師匠"の存在で、成功するかどうかが決まるらしい。



 そんなこんなで、本日成人の儀に、俺は臨んだ。

 順番に、神様からの祝福を授かって行く。流れ作業だな、これ。

 そして、俺の番だ。

 教会の女神像の前でお祈りすると、頭に声が響いた。


『あなたの技能スキルは、〈絶対切断〉です』


 なんだろう? 聞いたことがないんだけど。

 これ、アタリなのかハズレなのかも分からない。

 その後、教会で調べて貰ったのだけど、過去に発現した者がいなかったみたいだ。

 未登録の技能スキルの可能性が出て来た。


 教会も暇じゃないみたいだ。

 一年後にまた来るので、『報告書を纏めておけ』だった。

 面倒としか感じない。

 それと、村から数人が選ばれた。彼等は、有用な技能スキル持ちとして認められた者達だ。職業かもしれない。

 王都で、特別な訓練を行い、育ったら村に帰れるらしい。

 でも知っている。

 戦闘系の技能スキルだった場合は、兵士として戦場行きな事を……。

 俺は……、正直選ばれなくてホッとしていた。


 ──バン


 ここで背中を叩かれる。そちらを向いた。


「アスランとハンナ……。二人はどうだったの?」


 俺の幼馴染だ。男性のアスランと女性のハンナ。三人で支え合って村で生きて来た。

 孤児院で共に育った、義兄弟だ。


「俺は、追跡者チェイサーだったよ。まあ、順当かな。これから、弓と弩、それから銃の特訓だ。森の中を疾走する訓練も行わないとね。狩人になれば、そこそこ貢献できると思う。師匠も紹介されたよ。村を出ることになりそうだ」


「私は、守護者ガーディアンだったわ。男性だったら王都行きだったみたい。衛兵か冒険者が妥当かな~。とりあえず、装備を揃えてから決めるわ。それと、師匠を探さないとね」


「ふ~ん。二人共、職業だったんだ……」


「「でっ、ルークは?」」


 言いづらいな……。


「……スキルの〈絶対切断〉」


「「なにそれ?」」


「教会の人も知らないんだって。一年後に報告しろってさ。まあ、修道女シスターの言った通りになったね。アンヌさんの〈未来視〉で俺は、『理解されないモノを授かる』だったから」


 二人共に大笑いだ。

 この未来も聞いていたんだけど……、ため息しか出ないよ。



 その後、三人で孤児院へ戻った。

 アスランは、狩人に師事すると言っていたな。

 ハンナは、冒険者にスカウトされたみたいだ。

 二人共、村から出ることが決まった。

 俺には、なにも来ないんだけどな……。


「三人共に明日から別れることになるけど、定期的に連絡は取り合おうぜ」


 全員が頷く。

 血は繋がっていなくても、俺達は兄弟だ。

 その日は、遅くまで言葉を交わした。





 次の日にアスランとハンナは、孤児院を出た。

 認められたからだ。これからは、他の街で生活する。

 俺はと言うと、残り一年の猶予しかない……。


「これならば、『農民』でも良かったかな……」


 わけの分からない技能スキルの場合は、理解する前に死亡する確率が高いと聞いたことがある。

 この世界では、無理をしてでも、技能スキルの開花を行わないと生きて行けない。

 それほど、"神様からの祝福"の恩恵は大きかった。

 それと、俺には一年以内という制約もある。弟と妹達に場所を譲らないといけない。


「ルーク。朝御飯の下準備をお願いね。あと……、ジュンが怪我をするかもしれないわ。見ていてあげてね」


「はい。修道女シスター、アンヌさん。この場合は、火傷かな?」


「う~ん。そこまでは、視れないかな……」


 アンヌさんの、不思議ちゃんが発動した。これも、スキルによる恩恵だ。

 でも、大怪我ではないみたいだ。まあ、避けられるのであれば、避けた方がいいよな。


 さて、日課を終わらせてしまおう。

 俺は、芋の皮むきに取りかかった。

 刃物を握る。


 ──シャリシャリ


 皮と芽を取り終えた。湯を沸かして、簡単なスープを作る。

 アンヌさんは、パンを焼いていてくれた。

 ちなみに、ジュンは、滑って転んで膝を擦りむいた。これは、避けられない未来だよ。

 弟と妹達に食べさせてから、俺は畑の世話だ。


 くわを持った時だった。


 ──キーン


 耳鳴りがした……。

 なんだこれ?

 体内の……、魔力が暴れている? いや……。


技能スキルが発動している?」


 まずい。暴発などさせて、孤児院に損害を与えなんかしたら、面目丸つぶれだ。それに自爆するかもしれない。

 働けなくなったら、今の俺に行き場などない。

 俺は、慌ててくわを放り出した。

 魔力の暴走が止まった。

 どうやら、俺の技能スキルくわに関係していそうだ。


「ふう……。危ない危ない」


 背後で、ジュン達が見ていた。数人の弟と妹も一緒だ。

 アンヌさんの、〈未来視〉は、俺の行動に関連していたのかもしれないな。ジュンのコケたことは、関係がないのかもしれない。

 そして、悪い未来を、上手く回避できたかもしれない。

 もしかしたら、放り出したくわが当たっていたのかもしれなかった。

 俺は、くわを拾い上げた。


 だけど、スキルについて分かったのは助かったかもしれない……。

 そして、調べない訳にもいかなかった。

 アンヌさんに事情を説明して、離れて見てて貰う。

 もう一度、くわを両手で持った時だった。

 また耳鳴りがした。そして、魔力の暴走が始まる……。


『今は、アンヌさんもいるし、大丈夫だろう……』


 俺は、くわを地面に振り下した。


 ──ドゴーン



「……ルーク。なにをしたの?」


「これが、俺の技能スキルみたいです……」


 地面が揺れたので、騒ぎを聞きつけてか村人が数人集まって来た。

 俺は足元の地面を見る。


 地面には、大きな穴のような亀裂ができていた。

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