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――レミとユリがイスタンブール空港から日本行きの飛行機に乗ろうとしていた頃。
サゴール遺跡から移動していたスキヤキたち調査隊とディスケ·ガウデーレの面々は、トルコ共和国の首都アンカラのある屋敷へと来ていた。
首都アンカラは、人口約500万人を抱え、イスタンブールに次ぐ同国第二の都市であり、中東、西アジア有数の世界都市である。
彼ら彼女らがいる屋敷は調査隊の協力者のもので、その人物の別荘のため、普段はほとんど人が使っていないのもあって休ませてもらっていた。
調査隊とディスケ·ガウデーレを合わせて総勢五十人はいるかなりの人数だったが、余裕でくつろぐことができる広さのある建物だった。
「それで、スキヤキ……いや、スキヤキ先生と呼んだほうがいいか?」
「どちらでも構わんよ。好きなほうで呼ぶといい」
皆を休ませている間、スキヤキはツナミと共に、クレオ·パンクハースト亡き後のディスケ·ガウデーレを率いているソドと話をしていた。
その話し合いの席には、当然彼の相棒というべきシルドもいる。
ソドは突然サゴール遺跡から逃げ出したレミを追いかけようとしたが、スキヤキによって止められた。
シルドはそんな老人を無視して追いかけようとしたが、ソドが考えがあるという彼の話を聞くために、仲間を引き連れてアンカラまでついてきたのだった。
「遺跡での後から、うちの者らもずいぶんとお前たちと仲良くなったな」
「非常事態を協力して乗り越えたんだ。それとも、お前は他の者たちとは違うのか?」
スキヤキの何気ない言葉に、ソドは答えた。
いくらディスケ·ガウデーレの面々が暗殺組織とはいえ、アルバスティのような化け物との戦いは初めてだった。
たとえそれでも殺し合っていた者同士とはいえ、そんな恐ろしい敵を互いに力を合わせて打ち破ったのだ。
気を許し合うのも当たり前だろうと。
「そうか、それをお前の口から聞けてよかったよ」
「そんなことよりも、一体何を考えているのか聞かせてくれ」
「まあ、そう焦るな。飛び出して行ったレミたちの居場所なら想像がつく」
「焦るなと言われても、それは難しい。オレたちには新しいボス……レミ·パンクハーストが必要だ」
ソドは一見して冷静に見えたが、今すぐにでもレミを追いかけたいとその身を震わせていた。
慕っていた自分たちのボスであるクレオ·パンクハースト。
彼女が亡くなった今、その娘であるレミにディスケ·ガウデーレを継いでもらい、それについて行くのが自分たちの生きる意味だと、彼は静かながら力強い声で言った。
生き残った仲間たちも彼と同意見で、傍にいるシルドももちろん同じ気持ちだ。
「いい加減に話をしてくれないか。こちらも組織を再編する時間が惜しいんだ。黙ってここへ来たのはあんたらに敬意を払ってのことだが、それにも限界がある」
「では、訊こう。ソド、お前は本当にレミが暗殺組織のボスになると思っているのか?」
スキヤキが訊ねると、ソドは苦い顔をした。
シルドもまた、彼と同じようにその表情を歪めている。
ツナミはそんな二人が同じ顔になっているのを見て、声を殺して笑っていた。
「難しい、だろうな……。だが、ディスケ·ガウデーレを率いるのはお嬢しかいない。オレかシルドが仕切ったところでもって一年、いや半年がいいところだろう。ボスの血を引く彼女でなければ誰も従おうとはしない。最初はよくても後で必ず不満が出てくる……」
ソドは歯切れの悪い言葉で、スキヤキに説明した。
ディスケ·ガウデーレの人間は、ボスの忘れ形見であるレミ·パンクハースト以外には従わない。
それは自分もシルドも同じで、もし彼女がいなければ組織はバラバラになってしまうだろうと。
スキヤキはそんな彼の言葉を聞くと、身を乗り出して口を開く。
「そのことは理解しておるよ。そこで遺跡でのパーティーで話そうとした提案なのだが――」
「まさかあんたがボスなるなんて言う気じゃないだろうねッ!」
シルドがスキヤキの言葉を遮り、突然声を張り上げた。
そんな彼女の態度に、先ほどまで笑っていたツナミが身構えたが、老人はそんな彼を右手で制す。
「そんなつもりはない。そもそもお前たちディスケ·ガウデーレの者らはレミ以外には従わないのだろう? だったらわしがボスになってもすぐに組織は崩壊だ。それに暗殺組織のボスなんて肩書きは、好き勝手に生きてる年寄りには重すぎる」
「なら何を考えている? レミお嬢が納得する形で、オレたちを率いてくれる案があるというのか?」
「あるさ。ただし、かなり形を変えることにはなるがな。暗殺組織としてはもう終わりになるだろう」
「なッ!?」
ソドが驚愕すると、シルドはS字形を描いているサーベル――ヤタガンを抜いた。
彼女はその切っ先をスキヤキの眼前に突きつけたが、すぐに動いたツナミが棍でヤタガンを払った。
「落ち着け、シルド。わしは何もディスケ·ガウデーレを解散させたいわけじゃない」
「暗殺組織として終わりなんて、そんなのディスケ·ガウデーレが無くなるのと一緒じゃないのッ! アタシらは殺し以外の生き方なんて知らないんだ! 組織が無くなったら世界に居場所がなくなるッ!」
ソドは椅子から立ち上がると、シルドに剣を収めるように促した。
相棒に見つめられた彼女は、渋々ながらヤタガンを下ろす。
「そこまでいうからにはオレたちが、そしてレミお嬢も納得する形があるのだろうな、スキヤキ先生」
「ある。レミがボスになり、お前たちのアイデンティティも保つ方法がな」
「では、そいつを聞かせてくれ」
「ああ、それは――」
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