36

――ユリとツナミがジープを動かそうとしていたとき、レミはたった一人でアルバスティと対峙していた。


アルバスティは跳躍したレミに向かって全身からその体に巻かれた赤い布を放ち、彼女を捕らえようとする。


無数の生き物のような布が物凄い速度で向かって来るが、インパクト·チェーンがそれを振り払う。


眩いばかりの光が赤い布を切り裂く。


けして触れさせないとばかりに、まるで強い意志を持っているかのように舞う。


そしてレミはアルバスティの巨大な肩に飛び乗ると、母クレオと自分のインパクト·チェーンを両腕にそれぞれ纏った。


肩から首までを駆け、その巨体のわりに細い顎を殴りつける。


左、右と連続で拳を放ち、その度にインパクト·チェーンの光が飛散していた。


この状況でもブレない。


基本にそった連打の嵐だ。


これは堪らないとばかりにアルバスティが咆哮すると、女型の化け物は身をよじってレミを振り落とした。


高さ十メートルはある体から振り落とされたレミだったが、両腕についたインパクト·チェーンから衝撃波を放ち、再び跳躍。


しかし、それを読んでいたアルバスティによって、まるでハエでも打ち落とすかのように手を振るわれた彼女は、そのまま地面へと叩きつけられてしまった。


「くそッ!? 動きが読まれてる!」


ふらつきながらも立ち上がったレミだったが、アルバスティはすでに次の攻撃に移っていた。


今度こそ魂を喰らってやると両手を伸ばし、レミの体を掴もうとする。


レミは慌ててインパクト·チェーンを変化させ、ロープのように伸ばしてアルバスティの肩口に引っ掛けた。


それから鎖を引っ張るように飛び上がると、襲ってくる赤い布をバラバラにしたリンクで防ぎながら、今度はアルバスティの頭上まで登る。


「これならどうだッ!」


頭上まで登ったレミは向かってくる赤い布を避けるためにその場で飛び、空中でインパクト·チェーンを球体のように固めた。


光の塊がレミの腕の中に集まり、それを脳天へ放とうとしたが、チェーンの守りがなくなったせいで赤い布が彼女の身体を拘束する。


身動きができなくなったレミに、アルバスティは手を伸ばしてその身体をガッチリと掴んだ。


「ヤバいッ!? このままじゃマジでヤバいッ!」


レミの脳裏にクレオの姿が浮かぶ。


穏やかな笑みを見せ、自分が死ぬことよりも娘の命を救えたことに安堵する母の表情が現れる。


「母さん……。うおぉぉぉッ!」


何もせずに死ねるかと思ったレミの咆哮と呼応し、球体となっていたインパクト·チェーンが破裂した。


その衝撃はアルバスティの手を吹き飛ばし、彼女の身体を拘束していた赤い布を引き千切る。


怯みながらも再び手を伸ばしたアルバスティだったが、しなる二本の輝く鎖がそれを遮った。


拘束を解いて落下したレミは、空中でくるりと回ると、猫のように四つの手と足で着地する。


「なんとかなったけど、あの赤い布が邪魔だな」


吠えるアルバスティの攻撃を躱しながら、そう呟いたレミ。


インパクト·チェーンをアルバスティの顔や心臓などの急所にぶち込んでやりたいが、攻撃態勢に入ると守りが薄くなる。


そうなると先ほどと同じ結果――あの全身から触手のように伸びている赤い布に捕まってしまう。


せめて、あの化け物の動きを一瞬でも止められれば――。


レミは、何か手はないかと走り回りながら襲ってくる無数の布を払い、ときには跳躍して飛び込もうとするが、なかなか上手くはいかなかった。


彼女もアルバスティも互いに手をこまねいている状況で、そこへ陣形を立て直した調査隊とディスケ·ガウデーレの面々が現れる。


皆が己と仲間を奮い立たせるため、それぞれ武器を掲げて叫んでいる。


そしてスキヤキを先頭にして後にソドとシルドも続き、全員が一丸となってアルバスティの両足に攻撃を開始した。


「全員赤い布に気をつけろッ! 捕まれたら魂を喰われるぞ!」


スキヤキの激が飛ぶが、アルバスティからすれば蟻が足に群がっているようなものだ。


不快感こそ覚えど、そんな攻撃で止まるはずもない。


何人もの仲間が赤い布に捕まり、アルバスティの顔まで引っ張られていく。


「やめろぉぉぉッ!」


その光景を見ていたレミは、堪らず飛び出し、インパクト·チェーンを放って皆を救おうとした。


彼女の両腕から衝撃波と共にチェーンが固まって飛んでいき、アルバスティの腹部に突き刺さる。


「ウギャァァァッ!」


だが倒れない。


赤い布を纏った化け物はこの程度では動きを止めない。


捕まえていた者たちこそ離してしまっていたが、アルバスティはさらに暴れ出した。


余程苛立っているのだろう。


怒りで魂を喰うことすら忘れ、調査隊やディスケ·ガウデーレの面々を次々に踏み潰し、殴り殺していく。


地面に赤い影が次々とでき、それを見たレミは再び飛び上がろうとした。


動きを止めるだとか、作戦だとか言ってられない。


こいつを止めないともっと人が死ぬと、インパクト·チェーンを喰らわそうとする。


「これ以上はやらせないッ!」


声を張り上げてインパクト·チェーンを放ったレミだったが、アルバスティは球体となった鎖の塊を受け止め、その衝撃に耐えた。


封じ込めるようにインパクト·チェーンを両手で潰すと、全身から無数の赤い布を放ってレミの身体を拘束。


そのままアルバスティの眼前まで運ばれ、今にも喰われそうな状況に追い詰められてしまった。


このままでは不味い、早く助けなければ――。


レミ·パンクハーストは唯一アルバスティを倒せる希望だ――。


スキヤキも、ソドもシルドも調査隊、ディスケ·ガウデーレとその場にいた誰もがそう思った瞬間――。


「みんな退いてッ! こいつをあの化け物にぶつけてやるんだッ!」


猛ダッシュしてきた一台のジープから、ユリの大声が聞こえてきた。

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