37

皆が慌てて道を開けると、ユリが乗っているジープがアルバスティの足へと突っ込んでいく。


ぶつかる寸前で運転席にいたツナミが声を張り上げた。


「今だ! 飛び降りろッ!」


その言葉と共に、ユリはジープから飛び出した。


もちろんツナミもだ。


二人は地面に転がり、猛スピードで走っていくジープを見送りながらアルバスティのほうへ視線をやる。


そして、無人のジープが化け物の右足へと衝突。


まるでアクション映画に出てくるような大爆発を起こし、その衝撃で赤い布を纏った化け物が絶叫しながら怯んだ。


「レミッ! やっちゃってッ! そいつを倒してッ!」


地面に倒れたままユリが叫ぶように声をかけると、レミはインパクト·チェーンを自身へと戻し、拘束していた赤い布を引き千切る。


それから地面へと着地すると、再び跳躍。


飛び上がった彼女は、怯んだアルバスティの頭上にインパクト·チェーンを放った。


「ウギャァァァッ!」


その一撃はアルバスティの額を貫き、ついに化け物が身をよじって崩れる。


足にジープの突進を喰らい、顔面にインパクト·チェーンの衝撃をもろに受けたせいで、もはや赤い布を放つことできなくなって今にも倒れそうになっていた。


放ったインパクト·チェーンの余波で、レミはさらに宙へと飛び上がっていた。


アルバスティの頭上よりも高い位置にいた彼女は、放ったインパクト·チェーンを変化させ、化け物の巨大な身体に巻き付ける。


二本の大きく太い鎖が、身動きを奪い、レミは空中を落下しながら両腕を広げて円を描いていた。


そして、自分を庇って命を落とした母――クレオ·パンクハーストと亡き父であるヤイバ·ムラマサのことを想いながら、インパクト·チェーンを動かす。


すると、巻き付いた二本の鎖は輝き始め、アルバスティの身体を縛り上げた。


その巨大ながら女性的な丸みをおびた体つきに食い込んでいく。


周囲には風が吹き荒れ、嵐――いた竜巻が発生し、宙から落下していくレミと拘束されたアルバスティを包んでいった。


「母さん、父さん……。二人とみんなのおかげで、なんとかなりそうだよ……。ハァァァッ!」


レミが笑顔で呟くと、アルバスティを拘束していたインパクト·チェーンの輝きが増し、ついに化け物の肉へ喰い込んでいく。


そして、赤い布を纏った化け物は悲鳴もあげることなく、二本の鎖に絞められてそのままバラバラになった。


飛散した赤い布と、インパクト·チェーンの放っていた光がここら周囲へと飛び散り、辺りに幻想的な光景を創り上げていた。


それを地上から眺めていた調査隊とディスケ·ガウデーレの面々が大歓声をあげ、中には互いに抱き合う者たちの姿も見える。


「や、やった……。レミがやった……。あの化け物を倒したよぉぉぉッ!」


ユリはジープから飛び出し、地面に落ちた衝撃で腰が抜けてしまったのか。


その場に屈しながら声を張り上げていた。


そんなユリにツナミが肩を貸し、彼女をスキヤキやソドとシルド――仲間たちのところまで運んでやる。


「頑張ったよ、レミィィィッ! みんなもあたしも、ホント死ぬかと思ったぁぁぁッ!」


「おい、勝ったのになに泣いているんだ? 笑え、こういうときは思いっきり笑うもんだぞ」


「だって、だって、涙が止まらないんだもんッ!」


スキヤキが大声で泣きわめくユリに泣くなと言い続けたが、彼女は涙が止まらなかった。


すべてが終わり、一気に張りつめていた気持ちが弾けたのだろう。


まるでダムが決壊したかのごとく、涙を流している。


そんなユリに肩を貸していたツナミは呆れ、、ソドとシルドもやれやれとでも言いたそうな顔をしながらも微笑んでいた。


「ユリッ!」


そこへ宙からレミが降りてくる。


物凄い速度で落下してきたが、彼女はインパクト·チェーンを使って落下の衝撃を和らげ、問題なく着地。


それから慌てた様子でユリへと駆け寄った。


「レミッ! レミレミレミィィィッ!」


ユリは自分が腰が抜けているのも忘れ、駆け寄って来たレミに抱きついた。


二人がガッチリと抱き合うと、ユリは先ほど以上に泣き出した。


それはレミも同じで、二人は他人の目など気にせず、大声で泣きながら互いを称える。


「すごかったよッ! レミはマジですごかったッ!」


「そんな……みんながいなかったらッ! 僕だけじゃ無理だったよぉッ!」


「うわーん! レミィィィッ!」


「うわーん! ユリィィィッ!」


まるで子供だなと、その場にいた誰もが思った。


しかし、犠牲者を出しながらも、彼女たちはサゴール遺跡に封印されていた魔物――アルバスティを倒すことに成功したのだ。


感極まってもしょうがないと、次第に涙を流す者も大勢出てきていた。


調査隊のメンバーは自分たちの使命を果たせたと目を拭い、ディスケ·ガウデーレの面々もまた歯を食いしばってその身を震わせている。


「全員聞けッ! この後は、世界のために命を投げ売った者たちを称えよう!」


皆が感傷に浸っているとき、突然スキヤキが大声で語り始めた。


調査隊もディスケ·ガウデーレの面々も敵味方など関係なく身を寄せい合い――いや、もはやそんなことは誰も気にせずに、老人の言葉に耳を傾ける。


「彼ら彼女らは単なる同士ではない。親友であり、兄弟であり、姉妹であり、そして家族だった! そんな者たちが心地よく眠れるように、皆で称えて弔うのだ!」


スキヤキの言葉に、その場にいた全員が歓声をあげた。


その通りだと声を発し、この戦いで亡くなった者のことを想って、また涙を流しながら叫ぶように声を返していた。


「今夜はこの場でフューネラルパーティーだ! 敬意と愛情を持って、勇敢なる者たちを盛大に送り出してやろう。数時間後には食事や酒を用意する! それまでゆっくり休んでおいてくれ!」

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