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巨大なアルバスティに対して、棍や刃物で戦うなど無謀でしかなかったが。


それでも調査隊とディスケ·ガウデーレの面々は、力を合わせて化け物の動きを止めていた。


一斉に両足へと武器を振るい、その動きを止めながら上手く立ち回っている。


だが、その程度ではもちろん止まらない。


アルバスティは痛みに絶叫しながらも手を伸ばし、調査隊とディスケ·ガウデーレの面々を掴むと次々にその魂を喰らっていく。


軽自動車ほどはありそうな手で向かって来る人間たちを掴んでは、その頭から光を吸い上げる。


干からびた死体が次々に放り捨てられていったが、スキヤキやソドたち誰も怯んでいなかった。


むしろ仲間を殺された怒りに身を震わせて、さらに化け物へと向かう勇気を上げていく。


「全員一度下がれッ! 奴は魂を喰らって力を増している! 引いて陣形を立て直すのだ!」


スキヤキが皆に指示を出した瞬間、彼の隣にいたソドが赤い布に巻き付かれた


魂を喰らって力を増したアルバスティが、全身からその包帯のような赤い布を放ち、まるで何本も足を持つ軟体動物の触手のように動かして次々と人間を捕えている。


それを見ていたシルドが走る。


この人だけは守ると言わんばかりに、彼女は相棒の体に巻かれた布を切り裂こうと剣を振るったが、逆に彼女も捕まってしまった。


「くッ!? ツナミッ! 彼女を守れッ! わしは他の者をッ!」


スキヤキが吠え、赤い布に捕らわれていた者たちを助け出す。


高齢とは思えない見事な動きで棍を振っては、仲間たちを助けていく。


彼に続いたツナミも負けてはいない。


落ちていたヤタガンを拾ってシルドを助け出すと、彼女と共にソドを救い、それから三人で仲間たちを赤い布から解放していく。


それでもジリ貧状態は変わらない。


いくら布を切ろうがアルバスティにダメージはないのだ。


数人の命を救おうが、このままではやられる。


調査隊のメンバーもディスケ·ガウデーレの面々も戦意こそ失っていなかったが、化け物に殺されるのも時間の問題だと思っていた。


「やはり無理だったか……。せめて足の一本でもと思ったが……」


スキヤキがそう呟くと、崩壊した遺跡から眩い光が飛び出してきた。


その光は鎖の輪――バラバラになったリンクを周囲に纏ったレミだった。


レミは自分と母のインパクト·チェーンを使いながら、アルバスティの顔面に突進。


無敵と思われた化け物がその一撃で倒れ、その場に大地震が起きたかのような衝撃が走った。


「レミッ! やっぱり生きてたッ!」


ユリが歓喜の声をあげる。


彼女の側にいたソドとシルドも戸惑いながら口を開く。


「あれはボスのインパクト·チェーン……?」


「お嬢が使いこなしてるの……? なんで……?」


ソドとシルドには、レミが纏っているインパクト·チェーンが、クレオ·パンクハーストのものも含まれていることをすぐに理解した。


しかし、二人は思う。


肝心のボスは、クレオはどうなったのだと。


「おいお前たちッ! 今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう!? ようやくあのバカが本気になったってだけだよッ! こっちも立て直すぞ!」


そんな黒人の男女に、ツナミが声を張り上げた。


ソドとシルドは戦闘のプロだ。


世界的な暗殺組織ディスケ·ガウデーレのボス――クレオ·パンクハーストの両翼を担う。


そんな自分たちがまた我を忘れてしまったと、そのことを恥じ、二人はツナミと共に仲間たちと一度後退する。


一塊となった彼ら彼女らと一緒に走りながら、ユリはあることを思いついていた。


棍や剣でダメージを与えられないのならばと、その大群から離れていく。


「どこへ行くんだユリッ!」


「ちょっと考えがあるんだ! ゾンビとかが出てくる映画とかで、よく化け物を倒すときとかに使っている方法ならあれにも効くでしょ!」


そんなユリをツナミが止めようとしたが、彼女は大声で返事をすると、何故だか停めてある車の方へと駆けていった。


そして停めてあったジープへと乗り込み、今さらながら動かすための鍵がないことに気が付いた。


「なんとかなんないかなッ!? 映画だと鍵なしでもドライバーとか突っ込んで動かしてたような……」


「おい一人で勝手に動くな!」


そこへ彼女のことを追いかけてきたツナミが現れた。


彼は烈火のごとく怒りながら、ユリを運転席から連れ出そうとする。


そんなツナミにユリは、この車をアルバスティにぶつけるのだと説明し、鍵を持っていないかと訊ねた。


ツナミは顔を強張らせながらもユリを運転席から連れ出し、近くにあった自分の車へと移動した。


そして、運転席に乗り込んで電子キーのスイッチを押してエンジンをかける。


「ほら、これでいいんだろ」


「うん。じゃあ、このまま化け物に突っ込むよ」


いつの間にか当たり前のように助手席に乗っているユリを見て、ツナミが鬼のような形相になって叫ぶ。


「なんでお前まで乗ってんだ!? さっさと降りろ! あとはオレがやってやる」


「これはあたしの考えた作戦だよ! むしろあたしに運転させてッ!」


ツナミは、喚き始めるユリに苛立ちながらも、今は時間が惜しいとばかりにハンドルを操作して発進した。


急発進したことでユリがひっくり返りそうになったが、慌てて態勢を戻して叫ぶ。


「あたしがやるってッ! 運転変わってよツナミさんッ!」


「いいからじっとしてろ! こいつをアルバスティにぶつければいいんだろ!? だったらいつでも飛び出せるようにしておけッ!」


ツナミはそう叫び返すとアクセルをさらに踏み込んだ。


こんな方法でアルバスティを倒せるとは思わないが、今は藁にも縋る気持ちで車を走らせた。

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