22

黒人東アジア系の女性二人がいうように、そこまで難しいものではなかったので、なんとか流れを覚えたユリ。


その後は二人に連れられ、大広間へと移動すると、食事の準備を終えた調査隊のメンバーが集まっていた。


ステージらしきものはなかったが、そこには各テーブルについている者らと、民族衣装に身を包んだ人間に分かれていて、ユリは当然これから踊るであろうほうへと手を引かれる。


「なんだユリ? お前、ダンスなんてできたのか?」


「えッ!? ツナミさんも出るの?」


そこにはアコースティックギターを抱えたツナミがいた。


どうやら彼は楽器担当だったらしく、道着のような服から白いワイシャツに着替えている。


彼以外にもブズーキの奏者などがおり、打楽器はないが一応バンド形式で生演奏をするようだ。


ユリはツナミが出し物に出演することに驚いていた。


それは、彼のお固い性格からして、こういった浮かれたイベントが嫌いだと思ったからだ。


「なんか余裕はないとか言ってなかった?」


ユリが意地悪く訊ねると、ツナミは特に気にせずに答える。


「こういうときだからこそだ。一ヶ月後には皆死ぬかもしれない。その前に英気を養うのは大事だろう。それに、これは前夜祭だ。生きて戻ったらもっと大規模な宴をやる」


「そんな堅苦しいこと言って、本当はやりたくてしょうがなかったんじゃないの?」


「まあ、否定はせん。お前も存分に楽しめ。乾杯の後に音楽とダンスが始まる」


ニヤリと笑みを見せたツナミに、ユリは彼にもこういうところがあるのだなと思っていると、ざわついていた会場が静かになった。


そしてとある人物が立ち上がり、グラスを片手に皆に声をかける。


「皆、今夜は来るべき戦いに向けての宴だ。いつも以上に存分に楽しんでくれ」


そのとある人物とはスキヤキだった。


スキヤキはその白髪を手で払いながら皆に言葉を続ける。


「ディスケ·ガウデーレとの決戦は凄まじいものになるだろうが。それでも長年世界中の遺跡を守り続けてきた我らが負けるはずがない。敵味方と誰一人と犠牲を出すことなく、今回も我々が勝つ。これまでもそうだったようにな」


ユリはスキヤキの話を聞いて思った。


ここにいる調査隊のメンバーは、これまでもずっとディスケ·ガウデーレのような組織から遺跡を守って来たのかと。


それはきっとインパクト·チェーンのような超常的な力を個人のものにしないためなのだと、改めて理解していた。


ユリは後で知ることになるのだが。


この調査隊は、富豪であるスキヤキがスポンサーになっているようで、そこから資金を出して活動をしている。


メンバーは皆、自国で仕事を持ちながらも互いに協力し合い、すすんで参加しているようだ。


自主的に集まっている者らの結束は強い。


目的が同じというのは、生まれや肌の色などを超えて繋がることを、スキヤキはこの民間団体で示していた。


「知っている者も多いと思うが、ここで紹介しておきたい人物がいる。レミ·パンクハースト。前に出てきてくれ」


スキヤキに言われ、レミが人混みからノソノソと出てきた。


その顔は完全に委縮しており、彼女がこういったイベントごとが苦手なのがわかる様子だった。


大広間に拍手が響き渡ると、レミはさらにその身を縮めていた。


「彼女は母であるクレオ·パンクハーストを止めたいと、今回の戦いに参加してくれることになった。そしてもう一人、ユリ·ヤマダ。君もここへ来てくれ」


「えッ!? あ、あたしもッ!?」


「何をしている? さっさとこっちへ来てくれ。君ももう我々の仲間だ。早く皆にその顔を見せてやってほしい」


ユリが驚いていると、周囲にいた調査隊のメンバーが、彼女の背中を叩いてスキヤキのところへ行くように急かした。


まさか自分が呼ばれるとは思ってもみなかった彼女だったが、慌てて向かうと、途中でグラスを渡されてスキヤキと身を縮めているレミの傍へと立つ。


「この日本人女性ユリは、友人の力になりたいと言ってこの場に残った。帰ることもできるというのに、危険な道を選んだのだ」


スキヤキがそう言うと、大広間に再び拍手と歓声が巻き起こった。


皆がレミとユリの勇気を称え、声をあげている。


「もちろん。ディスケ·ガウデーレとの決戦までに彼女がものにならなければ日本に帰ってもらうが、その辺はツナミに任せてある。ユリは大丈夫そうか、ツナミ?」


「意外と動けるので大丈夫でしょう。それよりも、これから彼女がやるダンスのほうが心配です。今日のしごきで、全身が筋肉痛になっているようですから」


「そいつはたしかに心配だな。皆の前で転んだりしなければいいが」


スキヤキとツナミのやり取りで、調査隊のメンバーらからドッと笑いが巻き起こった。


これにはレミも思わず笑ってしまっており、その横ではユリが顔を歪めながら歯を食いしばっている。


「ツナミさんめ、余計なこと言って……」


「ハハハ。でも意外だったなぁ。ユリが踊れるなんて知らなかったよ」


「いや違うんだよ、レミ。これには複雑でもない事情というか勘違いというか、言葉の壁やあたしのボディランゲージが招いたというか」


「ユリのダンス、僕も早く見たいな。でも、転んでケガしないでね」


微笑みながらそう言ったレミを見て、ユリは思わず顔をそらしてしまった。


なんだか気恥ずかしい。


ずっと一緒に暮らしていただけに、まさかこんな状況を――自分が踊るところを見られるなんてと、頬を赤く染めていた。


「さあ、乾杯だ。今夜は新しい仲間と大いに楽しもう!」


スキヤキが音頭を取ると、ツナミたち楽器隊による生演奏が始まり、調査隊のメンバーらはグラスを重ね合わせ始めた。


大広間が盛り上がっていく中で、レミとユリも互いに顔を突き合わせて乾杯をする。


乾杯チアーズ、ユリ」


乾杯チアーズ、レミ」

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