明かされる正体


「……まったく、情けない」


男は誰に向けてでもなく

ただぽつりと、そう零した


その姿からはもう何処にも

脅威を感じない、完全降伏だ


見た限りではまだ

戦える力は残っていようものだが

本人にその意思は、無いのだと言う


「正体、目的、手段

全て話してもらおうか」


崩れ去った屋根や

穴の空いた壁から光が入り込み

床の木はギシギシと音を立てた


今にも崩れそうだ

なぜ彼はこんな所に?


確かに人は寄り付かないだろうが

お世辞にも快適とは言えないだろうに


「……まず、正体からだが

つい数週間前の事を覚えてるか

雪山で1人の吸血種を殺した時の事だ」


男はすっかり観念した様子で

洗いざらい話そうという様子で

ゆっくりと語り始めた


「もちろんだとも」


「お前が殺したあの吸血種は

もう1人の吸血種を匿っていた


現場から遠く離れた

小さな洞窟の中にな」


「……なるほどね」


ボクは己の認識が間違っていた事を知る

そうか、そうだったのか、勘違いしていた


あの吸血種がわざわざ

人間と戦った理由は


殺されたかったからじゃない

守るべきものがあったからなのか


ボクもまだまだと言えよう

その可能性を考慮出来ないとは


「匿われていた経緯は大して特別でもねえ

好きに想像してくれ、ありふれた話だ」


「そうさせてもらおう」


正体は理解出来た

で、あれば自ずと目的も

分かったようなものだろう


「……次に目的、これまた

ありきたりな理由だがな

当然、恩人への仇討ちだ


1度目の奇襲で

あわよくば撃破

最低でも威力偵察


2度目の襲撃で交渉

隙を見て背中を刺す


……そんな計画だったが

結果はご覧の通りだ」


と、くれば

ボクを見つけた手段は


「そうか、血を吸ったんだな

あの吸血種の記憶を見たな?」


「そうだ、なぜか残っていたからな

手掛かりとしてはこれ以上ない


俺はお前の容姿と能力

そして気配を覚えた」


通常、人間の血を吸っても

そのような事は起こりえない


しかし

それが同族間ならば

また話も違ってくる


吸血種の身体の中に流れる血は

人間のそれとは大きく違っている


血液とは名ばかりの

高エネルギー物質だ

血の一滴一滴全てが


吸血種その物なのだ、それ故に

記憶や経験の引き継ぎが可能となる


あの場に残していったのは

間違った判断だったか


まさかもう1人

吸血種がいるとは


いや、それよりも驚くべきは


「キミは間違いなく吸血種だ

……が、それはそれで不可解だ

ボクはキミのことなんて知らない


その辺の事情は

話してくれるのかな?」


現世に生きる吸血種は

ボクは全て把握している

顔や居場所を含めて


だが、ボクの記憶回路は

彼の存在を認めていない

全くのイレギュラーだ


「……何事にも例外は存在する

俺が言えるのはそれだけだ」


「ふむ」


聞き出すのは骨が折れそうだ

それに時間を取られるのも不満だ

ならばここは1度そういうモノとして


受け入れるのが効率的だろう


「では、さっきの能力は?

テレパシーのような力と

死体が消えた秘密だ」


そんなことよりも

今1番聞き出すべきなのは

さっきの未知の能力についてだ


これだけは何としても

聞かせてもらわねばなるまい


これもはぐらかされるだろうか

もしそうなら、この男は用済みだ


答えるのを拒否

または情報を隠す素振りを見せたら

その時は、即刻始末してくれよう


などと思っていると


「……妖精の力だよ」


意外にも男は

素直に語り始めた

それも衝撃的な内容を


「妖精だって?」


力が抜けるのを感じた

あまりにも突拍子がなくて


つい


男はこう続けた



「そうだ、俺はな

妖精と吸血種の混血なんだよ」


悠久の時を超えてボクは


「——そんな馬鹿な」


あまりにも

有り得ない話の内容に

固まってしまうのだった。

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