15――男子達との会話


「おー、お疲れ。女バスも休憩中?」


 5人で雑談していると、男子部の人が話し掛けてきた。全員背が170センチ以上ありそうだから、座ってるオレ達からすると結構な圧を感じる。


「お疲れー。今日は男バスも1年生は留守番なんだっけ?」


「そうそう、だから練習メニューもちょっと緩めにやってる。女子は先輩も監督もいないのに、なんか真面目にやってるよな」


「そりゃあね、ここにしっかり者のリーダーがいますから」


 男子と軽い感じで喋っていたあかりちゃんが、オレの両肩に手を置いた。ちょっと待て。その言い方だとオレが無理やり練習させてるみたいな感じに、聞こえるのではないだろうか。


「私は別に、監督と部長に言われたメニューを伝えただけです。それに真剣にやらないと、体力トレーニングなんか身につかないじゃないですか」


「あはは、ゴメンってば。そんなつもりはないのよ」


 ちょっとだけムッとして反論すると、あかりちゃんが笑いながら謝りつつも、今度は頭を撫でてくる。まるっきり子ども扱いなのが、ちょっと……いや、かなり悔しい。


 オレの方がホントは年上なんだからなー、と内心でつぶやく。まぁ自己満足でしかないんだけどな、どう見てもみんなと比べてオレの方が年下に見える。実際に細胞とか調べた結果では、中学生からやり直すのが妥当って話だったし。それはイヤだとゴネて本当なら肉体年齢は中学3年生程度なのだが、なんとか誤魔化して高校に入学することができたんだけどな。


 むーっとむくれていると、何故か男子たちの視線がオレに向けられているのを感じる。『何ガンつけてんだコラー』と座ったまま目を細めて男子たちを見上げると、揃って男子たちは目を逸らせて少しズレたところに視線を向けた。何故か揃って少し頬が赤い気がする、意味がわからん。


「ひなたちゃん、あざとい……」


「でも私も上目遣いであんな可愛い仕草されたら、腰砕けになるかもしれない」


 こころちゃんと柚凪ちゃんちゃんが何やら耳打ちし合ってボソボソと話しているけど、声が小さくて全然聞こえない。ただオレの名前が聞こえた気がするから、きっとオレのメンチ切った顔に迫力があるっていうようなことを話しているのだろう。黒髪で見た目は真面目っぽいけど、あいつ実はヤンキーなんだぜみたいな噂が立ったらどうしよう。後で違うんだよと、しっかりと弁明しておこう。


「河嶋さん、話すの初めてだよな。ひなたちゃんって呼んでもいい?」


 立ち直りが一番早かった、ちょっと顔の良いやつが馴れ馴れしく話し掛けてくる。まぁ別に名前で呼ぶぐらいはいいけど、と思って頷こうとすると後ろから誰かに抱きつかれて両手で口を塞がれた。


「私達だって今日やっと自己紹介して名前呼びを許してもらったんだから。男子は名字にさん付けしかまだ許さないよ」


「なんだよ、瀬名。お前に言ってねーよ」


「ふふん、私だったら名前呼びを許してあげるけど?」


「いらねーわ。お前みたいなヤツこそ、名字呼びでちょうどいいんだよ」


 口を両手を押さえられている間に軽快に交わされる会話に対して、目を白黒させるオレ。なるほどなぁ、よくわからないがオレをダシに男子と距離を詰めて、彼らと仲良くなろうとしているのかな? 女子って計算高いと思う反面、ちょっと怖い。


 オレの口から両手を離して立ち上がったあかりちゃんはイケメンとふたり、ほんの少し離れた場所で何やらギャーギャー楽しそうにじゃれ合っている。なんかいつの間にか他の子達も男子と話していて、オレだけボッチになっていたのにビックリ。別にいいけどな、元々ひとりでボーッと休憩するために外に出てきたんだし。


 賑やかな周りの話し声をBGMにしながら、遠くを見ながらのんびりと身体を休めていると、柚凪ちゃんと話をしていた男子のひとりが今度はオレに話し掛けてきた。


「河嶋さんって、イチ先輩と知り合いなの? 休憩時間とかに時々話してるよね」


 突然そんなことを言われてイチとオレが話しているところなんて、何故見ていたんだろうと不思議に思って小首を傾げた。友達や顔見知りならまだしも、話したこともないヤツのことなんて意識したこともないし、何をしていようが気にしたこともないオレからすれば、その目ざとさに若干引いてしまう。でもそんな気持ちは表に出さずに、彼の質問に答えを返した。


「イチ先輩は、バスケを教えてくれた従兄弟のお兄ちゃんの友達だったんです。だから色々と気を遣ってくれて男子部のマネージャーになってほしいと誘われていたんですが、私はバスケをプレイする方が好きだったので女バスに入りました」


 オレがそう言うと、何故か他の子達と話していた男子達も口々に『イチ先輩使えねー!』とか『もっとしっかり誘えよ!』とかイチを詰っていた。その言い草にムッとする。あいつはメチャクチャいいヤツなのに、知り合ったばかりのお前らに何がわかるのかと。でも後輩から気安く接してもらえるのも、イチの人徳なのかもしれない。こいつらも本気でイチをバカにしている感じはなさそうだしな。


 イチが後輩に慕われているのがなんとなく嬉しくて、オレは自然と浮かぶ笑みのまま女バスの4人に声を掛けた。


「さてと、そろそろ休憩も終わりですよ。皆さん、戻りましょうか」


 オレの顔になにやらチラチラとを視線を向けてくる男子達を横目に、立ち上がってパンパンとジャージのお尻部分に付いた砂を払う。そして4人もオレの言葉に『はーい』と聞き分けのいい返事をした。4人が男子達に『バイバイ』と手を振って体育館に向かって歩き出したので、オレも真似して小さく手を振ってみると全員振り返してくれた。


 おお、なんかこういうの懐かしいな。あんまり親しくない男子とのコミュニケーションなんて女になってからご無沙汰だったし、ちょっとだけ楽しく思いながら体育館の中に戻った。他の子達も休憩は十分取れたのか、ストレッチや準備運動をして練習に戻る準備はバッチリという雰囲気だ。


 首に掛けていたタオルを体育館の隅にある、これはなんて名前の器具なんだろう……いっぱいタオルを掛けられそうなところに掛けた。他にも水筒のヒモが結んであったり、着替え用のTシャツが掛かってたりカラフルな感じになってしまっている。っていうか、ここで着替えちゃダメだろ。隣では男子が練習してるのだから、ちゃんと部室で着替えるように言っておかないと。


 そんな事を考えながら、オレは部員全員に声を掛けた。さぁ、練習再開の時間だ。

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