第44話 OneNight

 それにしても、船旅の夜って異常な寒さだ。


 今が真冬の時期であることもそうだろうけど。


 僕の生きる毛皮のコートであるファングはルリによって独占されているみたいだ。


 毛布に包まって客室で寝ていたんだけど、寒すぎて目が覚めてしまった。


 思い切って甲板にでると、ジニーが来た道をじっと眺めている。


 夜空には異世界ティル・ナ・ノーグの美しい天の川が色あせることなく輝いていた。


「ジニー、何見てるの?」

「ウィル? 私は……やっぱり引き返そうか迷っていて」

「優柔不断だな、君らしいよ」


 戻るにしたって、どうやって? まぁその話は置いといて。


「……寒いのですか?」


 彼女は僕が身体をふるわせていることに気がつき、そっと手を握った。

 手から伝わって来る彼女のぬくもりに感謝する。


「ありがとう、いくぶんかましになったよ」

「貴方は体が強くないのですから、無理は禁物ですよ」


 そうだねと返すと、ジニーは微笑んで僕と寄りそうんだ。


 こうして暖をわけあっている光景は、まるで夫婦みたいだな。


 想起した矢先から恥ずかしさが込み上げて、体温が上がる。


 今にして思えば彼女と出会ってから、色々あった。


 ささいな喧嘩から恋人のようなひと時まで。


 一緒に暮らしていればそれも当然だったけど。


 ふと横を見ると、彼女と視線が合って、気まずくなって目をそらした。


 今の反応を見るかぎり、彼女もこの状況に何かしら思っているようだ。


 僕は彼女とどうなりたいのだろうか?


 結果的に彼女は故郷をすててまで僕の旅について来たんだから。


 ふたたび横を見ると、紅蓮色した彼女の毛髪が夜の帳によってかすんでいた。

 船の後ろを見詰める青い瞳も、かすんでいる。


 きっと、もっと距離をつめれば、彼女の輪郭がよく見えるんだろうな。


 なら、彼女と距離をつめるために声を掛けてみてはどうだろう。


「ウィル、音楽かけていい?」

「どうぞ」


 彼女は異世界のジュークボックスをいじり、軽快なラブソングを掛けた。


 さっきの話に戻ろう、僕は彼女とどうなりたいのだろうか。


 僕は彼女と、このラブソングに出て来る二人みたくなりたい。


 なら、そうなれるよう動けばいい、行動を起こせばいい。


 今から声を掛けて誘ってみてはどうだろうか。


 僕たちが、惹かれあう仲になれるように。


「ジニー、そ、そのさ、僕と」


 一夜だけでも。

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エッグオブタイクーン~スキル【卵】に覚醒した商人はハーレム・モフモフをあつめて、いざ世界へ~ サカイヌツク @minimum

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