第43話 いざ世界へ
僕の裁判は終わり、下されたのは国外追放処分だった。
くわえて王都が今回の事件で負った損害の賠償も命じられてしまった。
踏んだり蹴ったりっていうのは、まさにこのことじゃないだろうか?
国外追放の日が決定されるまで、僕はずっと牢屋生活しなくちゃならないらしい。
ある日のこと、旧知の仲であるミーシャとトレントが僕に面会しに来た。
「ウィル、俺はウィルにどこまでついて行くからね!」
「ありがとうトレント、店の方は今どうなってる?」
問うと、ミーシャは困った様子で両耳に手をやっていた。
「お店は閉めてあるにゃー、ウィルが国外追放になるのに開いててもしょうがないからにゃ」
「まぁ、それもそうだね。こうなったらもう次に進んだ方がいい」
トレントは僕の台詞に気をよくしたのか、さすがはウィルだね! と元気な声で言ってくれた。
「ミーシャ、余った僕の財産で船を買いつけてよ」
「ふ、船? ウィルはどこに行く予定なのかにゃ?」
「予定はないけど、せっかくなら僕は師匠の後を追ってみたいな」
「はにゃー、わかったにゃ。トレントと協力して飛びっきりの船を買って来るにゃ」
「うん、頼んだ」
なんて、言ってみたのはいいものの。
王都とはもうお別れか、王都にはジニーがいるし、エンジュやビャッコもいるし。
彼女たちは面会に来ないみたいだけど、これ限りでお別れなのかな。
「はぁぁ、寂しい。そうだ、国を立ち去る前に父さんたちに手紙を出さないと」
結果的に両親には親不孝しかできなかったけど、二人の幸ある人生を祈っているよ。もしもこの先、僕のエッグオブタイクーン・ウィルの二つ名がまた輝くときは、両親のもとに帰って来れると信じて。
それから数日の時が流れ、僕がいる牢屋に騎士がやって来た。
「ウィル、わかってると思うけど、本日付でウィルは王国から立ち去ってもらう」
「誰かと思えばジニーか」
「まさかこんなことになるなんて、思いもしなかった」
「それは僕の台詞だよ、でも、最後の水先案内人が君でよかった」
「って言うと?」
牢屋から出て、地上に出る階段を上っている最中、僕はジニーの手を引っ張った。
「僕と一緒に目指さしてみない? 世界を」
「……ごめんなさい、私は王都で騎士道をまっとうしたいの」
ふられちゃったか。
彼女とは色々あって、婚約まで進んでいたけど、結局うやむやになった。
その後、ジニーは港町へと向かう馬車に僕を乗せ、同行した。
彼女の任務は僕が国外へ向かったのかどうかを確認することだった。
「もしよければ、父さんと母さんのこと頼んでもいいかな?」
「……そうですね、お二人のことは私に任せてください」
「ありがとう」
「今の私はウィルと、ウィルのご両親あってですから」
して、僕たちを乗せた馬車は街の港に着いた。
港には見知った顔がいて、みんな見送りに来てくれたのかと思っていたけど。
エンジュが一歩前に出て、ジニーにお辞儀すると僕の胸に飛び込んだ。
「ウィル、心配かけさせないで」
「う、うん、ごめんね」
「私、ウィルについていくから」
「……ありがとうエンジュ」
そこにビャッコとレオも現れて、ビャッコは元気よさげにしていた。
「ウィル、ちなみに私と兄さんも同乗するからね」
「はっはっは! 俺様について来い」
「いや、この船はウィルのものだってばよ。ってことでOK?」
「OKだよ、二人ともありがとう」
返答すると、ビャッコは破顔して僕に抱き着いた。
「ウィルは私の一生のお得意様、私なしでは生きられない体にしてあげる!」
で、他にも港にはロイドとマケインがいて。
二人も僕について来てくれるのだろうか?
そのような視線を送っていると、マケインは両手で握手してきた。
「ウィル、今回はここでお別れですが、また会えることを切実に願ってますよ」
「マケイン、君にはよくしてもらって、お礼しても感謝しきれないよ」
「いえいえ、私の方こそウィルには大変お世話になりました。どうか旅先でもご壮健でいらっしゃってくださいね」
「また会おう」
「ええ、また」
マケインとはお別れか、じゃあロイドは? と見ると、ロイドはもうすでに船に乗り込んでいた。僕は頼もしい仲間がまた一人増えたことが嬉しくて、次第に気分は晴れて行った。
空は僕の心と同調したのか、薄くかかっていた雲は次第に晴れていく。
「フレイヤ様、今までお世話になりました、ママも今までありがとう」
港には教会のメンバーが集っていた、聖女のフレイヤにママに子供たち。
心残りがあるとすれば、王都に残る彼女たちの今後の行く末だ。
「えっと、みんなに言っておきたいことがあるんだ。もしよかったら王都に残った僕の店は、好きに使っちゃっていいよ。ただし、売り上げが低迷するようだったら即座に店をたたむこと。そのためにもナッシュ、ママの言うことはちゃんと聞くんだぞ」
「最後まで俺を引き合いに出すなよ!」
「ははは……みんな、今までお世話になりました。不肖ウィル、行ってきます」
そう言うと、ママは頭を垂れる僕を抱きしめる。
「いってらっしゃい、みんなもウィルにこう言ってやってね」
「いってらっしゃいウィル」
「王都のことは私たちに任せて」
「お土産期待してるよウィル」
お土産ねぇ? 僕は国外追放処分なの、知らないのかな? まぁいいけど。
「頼んだよ、みんな」
みんなとのお別れをすませると、船上からミーシャが声を掛けた。
「ウィルー、もうすぐ出発するにゃ! 早く乗ってくれにゃー」
「わかったー、じゃあねみんな」
きびすを返し、桟橋から伸びる船へのタラップを渡ろうとした。
名残惜しいけど、これで僕はもう、王国の土を踏みしめることはない。
寂しい思いでタラップに足を掛けようとしたら、ジニーが僕の手を引っ張っていた。
「どうしたの?」
「あ、いや、その……ねぇウィル、私どうすればいい?」
「どうすればいいって、君は王都で騎士道をまっとうする予定で」
「そ、それもそうなんだけどね……私、ウィルとやっぱ離れたくなくて」
「そ、そうなんだ、じゃあ一緒に行こうよジニー」
と、手を差し伸べても、彼女は素直に手を取ってくれなかった。
「ウィルが王都に残ってくれる選択肢はないの?」
「国の最高機関である王室が決めたことだから、それは無理だよ」
「ならもう一回、アナベル様に直談判しにいかない? だってウィルは――」
ジニーが桟橋でまごついていると、背後からファングがやって来て。
ファングは三歩引いて、少し勢いをつけるとジニーに後ろから体当たりしていた。
「まごまごするな、旅に影響が出るだろ」
僕とジニーは体勢を崩しながら乗船し、最後にファングがルリを連れて乗って。
船は見計らったかのように出航してしまった。
「出発にゃー!」
船が港から離れると、ファングとジニーは早速口論し始めた。
レオはどこからか取り出した酒を飲んで、二人の喧嘩に笑っている。
僕が描いていた、旅立ちの景色とはちがうが、とにもかくにも、さぁ、行こうか。
――いざ世界へ。
「ウィル、嬉しそうだね」
エンジュが海風に髪を撫でられながら僕に近寄っていた。
彼女の言葉や反応でわかったことがある。
「嬉しいというか、ずっと夢見てたからさ」
今の僕は大望を抱き、花がほころぶように笑っていることだろう。
師匠ルドルフの背中を追うかたちで見た夢、世界一の大商人になるために。
その第一歩を、仲間たちと共に踏み出そう。
そしていつの日か、世界中の人々から愛される店を持って。
エッグオブタイクーン・ウィルの名が、誰からも認められるように頑張ろう。
世界が僕を待っている。
そう信じてやまなかった。
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