第42話 国外追放
黒いドラゴンとして王都を襲っていたルリは命からがら助かった。
彼女が助かったことを確認した僕は、寝ている彼女をつよく抱きしめる。
ルリから勇気を分け与えてもらい、そして、僕はその足で王城へと向かった。
「エッグオブタイクーン・ウィルです、今回の騒動について話し合いしに来ました」
王城を守っていた騎士に告げると、僕は牢屋に叩き込まれた。
三日三晩、何も与えられず牢屋の中で待っていると、僕の裁判が始まったんだ。
王都に唯一ある裁判場には、大勢の知り合いの傍聴人がいた。
みんな心配そうな目で僕を見ている。
「では、これより先日の王都壊滅未遂事件についての裁判を始める。被告人エッグオブタイクーン・ウィルには弁護役としてギルド組合本部所員のマケインをつける。今回の検察役には騎士団の監督役であるヴィッヘムに一任する」
マケインは向こう側にいる検察役のヴィッヘムとかいう男をこう評していた。
「ヴィッヘムは王室の犬です、つまり今回のウィルの相手は王室ということになりますね」
うん、わかった。
「ヴィッヘム、被告人への質問を認めます」
「あ、はい、今回、王都が壊滅の危機にさらされたことについてですが、ウィル殿は事前にこうなることを予測できていましたか?」
その質問に対し、僕は頭を横に振った。
「いいえ、その日は僕が主催する祭りの当日で、朝早くから準備のために会場へ向かっていた所、嫌な空気を感じたので従魔のファングと一緒に港町に向かいました。そしたらドラゴンが出現し、王都に向かっていくのをこの目で見ました」
「そのドラゴンがどこから出現したのか、貴方はご存じなのでしょうか?」
「いいえ、知りません」
「我々の調査によりますと、ドラゴンは港町の船に積まれていた卵から出て来たとのことですよ、エッグオブタイクーン・ウィル。貴方がタイクーンドラゴンに接触をはかり、ドラゴンの卵を生成したんじゃないんですか?」
「知りません、僕はそれについて関与しておりません」
「ともあれ、貴方と今回襲来したタイクーンドラゴンは何かしらの因果関係があると私は睨んでいます。エッグオブタイクーン・ウィルは今回の王都襲撃によって被った損害を賠償するべきだ。貴方が持っている財産ならそれが可能です」
今回の事件で出た損害の賠償?
と言われても、僕は無実を主張したい。
隣にいた弁護役のマケインは手を上げて発言権を得ると、すぐさま反論してくれた。
「今回の事件とウィルの因果関係を結びつける根拠のご提示を願います」
「エッグオブタイクーン・ウィルは、致命傷を負ったタイクーンドラゴンを庇うようにどこかに隠した。今もそのタイクーンドラゴンの消息は不明のままですが、双方の間に特別な関係があってこその行動でしょう。その後、ウィル殿は自分の罪の呵責にたえ切れず、王城まで自首しに来た。これが証拠となる証拠なのでは?」
「異議あり、ヴィッヘム殿の仰った内容は彼の憶測の範疇でしかありません」
とまぁ、その後もえんえんとヴィッヘムの質問が続き。
僕はマケインと一緒に弁解したんだけど、その裁判はやらせだったんだ。
ヴィッヘムの質問が終わると、彼は冷淡な顔つきで求刑内容を口にした。
「以上により、エッグオブタイクーン・ウィルには王都の損害賠償を請求するものと、国家転覆を計画した重犯罪者としてヴァリアブル王国からの国外追放を求刑いたします」
王国からの国外追放、その求刑が口に出された瞬間、傍聴人がざわついた。
「にゃー、ウィルは王都でも評判の商人だったのににゃ」
「あ、あんまりだ! ウィルが今までこの国にどれほど貢献したと思ってるんだ!」
ミーシャやトレントは憤りをあらわにするように、沈黙を破っていた。
ざわつく場を、裁判長が木槌をダンダンと打ち鳴らし、静粛にするよううながしていた。
「弁護役マケイン、そなたからは何かあるか?」
「はい裁判長、ちなみにヴィッヘム殿が請求する賠償額はどのくらいなのでしょうか?」
「ウィル殿が所有している王立銀行の口座の差し押さえが打倒かと」
「いくらなんでもそれは横暴が過ぎます、王立銀行にはウィルの財産のほとんどが預けられているはず。これは何だ、私たちは一体何の裁判に立ち会っているのでしょうか、この裁判はウィルの良心を穢し、更生の機会すら奪うつもりなのですか」
「ウィル殿ならここからの人生再建も可能ではないだろうか、それとも、エッグオブタイクーン・ウィルの尊称は飾りだったのであろうか」
「よく言う、ウィルの財産を没収し、王国から追放するというのはつまりウィルに野垂れ死ねと言っているのですよ貴方は」
マケインとヴィッヘムの口論がヒートアップすると、裁判長はやはり静粛をうながす。
「結論から言おう、被告人エッグオブタイクーン・ウィルは有罪。財産の八割を王都再建の賠償にあてると共に、国家転覆罪をになったものとして王国からの国外追放を命ずる。これは最終判決である」
こうして、僕は王国から追放されることになった。
はじめは兄弟子たちによるギルド追放だったけど。
今回の追放処分にかんしては心を引き裂かれる思いでしかなかった。
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