第6話 騎士様、王太子を殴る※ざまぁ回

「そうか、そうか。わたしに言いたいことがあるのか。ならば言え。わたしが寛大に受け止めてやろう」 


「わたしを散々地味だ地味だと言って、わたしの目の色まで変えろと言いましたね。わたしの目は黒いままですが、いいのですか?」 


「ああ、黒くていい。そなたの黒い瞳は美しい」


「嘘臭えな。バカ王太子」

 アルフォンスが突っ込みを入れた。


「わたしは大聖女として、人に見えないところで頑張ってきました。影であなたを支えてきたつもりです。それに気づいていました?」 


「気づいていた。そなたの働きはにはいつも感謝していた」


「嘘ですね。そうやって男らしく自分の非を認めないところも大嫌いです。とても王の器があるとは思えません。わたしのこと、可愛げがないと言いましたね?わたしは王太子殿下に意見する可愛げのない大聖女ですが、それではダメなんでしょう?愛がない女なのでしょう?」


「そんなことない。そなたは可愛い。世界一可愛いぞ」


「……世界一可愛いはずの婚約者の顔を殴りましたよね?」


「いや、殴ってない」

 王太子は嘘をついた。


「わたしが愛する婚約者を殴るわけないだろう。ははは。わたしがそんな酷いことをするわけない。わたしはそなたを愛している。だからわたしは殴っていない」


 アンナは怒りが湧くと同時に、恐怖が襲ってきた。

 もしかしたら、この男は本当に自分を殴った事実を認めていないのかもしれない。

 あるいは、自分に都合の悪い事実は忘却しているのかもしれない。


 背筋が凍った。

 こんな男を、王にしてはいけない。


「殴ったのか?」

 アルフォンスが身体を震わせていた。


「アルフォンス、そなたに関係ないことだ。……今までよく我が婚約者を護衛してくれたな。そなたには後で褒美をやろう」


「アンナを殴ったのか?」


「そなたに関係ない!」


「答えろ。バカ王太子。殴ったのか?」


「わたしがそんなことするわけないだろう」


「俺の目を見て、言え」


「しつこいぞ。わたしを誰だと思っている?」


「もう一度聞く。殴ったのか?」


「うるさいやつだ!ああ、殴ったよ!男が女を殴るなんてよくあるだろう!わかったらさっさとそなたは帰れ!」


「死ね!バカ王太子!」

 アルフォンスは王太子の顔を思いっきり殴った。


 王太子は吹っ飛んで、地面に倒れた。


「こんなクズは王にふさわしくない。……俺のアンナを殴るなんて、許せん。死ね!」


(今、俺のアンナって言った?)


 アルフォンスは王太子に馬乗りになって、顔を何度も殴った。


「痛い!やめてくれ!」


「死ね!クズ!」


「やめて。これ以上やると死んでしまうわ」


 顔を何度も殴れられて、王太子は気を失っていた。


「こんな奴は死んだほうがいい。アンナを殴るなんて許せない」


「こんなくだらない人のために、あなたの人生が無駄になるのは嫌だわ」

 アンナがアルフォンスの手を握った。


「はあ、はあ……」

 王太子を殴った右手から、血が出ていた。


「もういいから」


「よくない。俺は絶対に許せん。こいつがアンナを殴ったことは公表しよう。大聖女の顔を殴るなんて、民衆が許さない。こいつは王位継承権を奪われるだろう」


「うん……」


「今まで、辛かったんだな。こんなクズと一緒にいなきゃいけなくて」

 アルフォンスは、アンナを強く抱き締めた。


「もう大丈夫だ。これからは俺がお前を守ってやる。もう誰にも殴らせてたりしない」


「アルフォンス……」

 アンナはアルフォンスの腕に身を委ねた。


 誰かに強く守られ、大切にされている感覚は初めてだった。

 この人となら、今度こそ幸せになれる気がする。


「アンナ……。愛している」

 2人は口づけ交わした。


 それから長く、2人はただ抱き合っていた。


「俺はアンナを一生、幸せにする」


 完。

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俺様騎士の溺愛〜大聖女は婚約破棄されて嬉しい〜 水間ノボル🐳@書籍化決定! @saikyojoker

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