第6話 (その7)

「新聞に出ている程度のことであれば」

「あのいくさはあまりに長く続きすぎた。戦うことが、当たり前になりすぎていた」

「……」

「王都に、戦略科学研究所という王立の研究機関があります。新しい兵器を考案したり、民間で軍需転用出来そうな新技術が研究されていないかどうかを調査したり……旧世紀の遺構から見つかった技術の解析を行ったり、といった事をしている機関です。彼らは戦争があまりに長期化しているのをいいことに、戦場であるクアルダル河の源流域を、開発された新兵器の体のいい実験場として利用していたのです。……そういう行為が戦線を不必要に拡大、長期化する要因のひとつになっているのではないかと、査察の手が入ったのですよ。そこで初めて、具体的に彼らがどのような研究を行っていたのか、色々と明るみになった」

「……それと、この娘にどんな関係が?」

「彼らの研究テーマの一つに、死なない兵士をつくる、というのがあってですね。彼らは死んだ兵士を蘇生させる技術や、《ホムンクルス》や《キメラ》と呼ばれる怪しげな魔術のたぐいの産物を、科学的に検証、究明し、旧世紀のテクノロジーを応用するなどして、将来的に工場で大量生産しようともくろんでいたようですな」

「ホムンクルス……?」

「そうです。つまり、ここにいる《イゼルキュロス》こそはそのプロトタイプとしての被験体であった、ということになるわけです」

「……」

「錬金術師が今頃何に奔走してここに不在なのか、そこまでは私には分かりかねます。いわゆる錬金術師と呼ばれる同業の他の連中にとっても、戦科研のこういった試みには大きな関心が寄せられていたようですが……彼は我々の把握していない第三者から間接的にこの依頼を受けていたようで、その直接のクライアントとの接触に難儀しているのか、あるいは単に保身のためあなたを見捨てて一人で逃げたのか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る