第6話 (その6)
男はええい、と舌打ちをして、私を自由にするように背後の兵士達に告げた。ようやく私は拘束を解かれ、さっきまで腕を捩じ上げていた後ろの兵士達に助け起こされて立ち上がる。
スカートの裾についた埃を払う私に、男が苦し紛れな口調で弁解するように言った。
「初めからそれを提示して下さっていれば、高貴な血筋の方に非礼を働く事はなかったのです」
「むろん、名を伏せていたのは私の方ですから、それくらいは承知しています」
「……何故です? 差し支えなければ、理由をお教えいただきたい」
これは別段このような局面でなくとも、身分が明らかになれば当然問われるであろう質問なので、私は普段から用意していた通りに答えた。
「このような落ちぶれた暮らし向きで、今更名を誇るのもむなしい話です」
事実、私の身なりは質素そのものだったので、その一言で誰でも納得するはずだった。だがもちろん、この場に関して言えばその一言ですべて丸く収まるはずもなく、男はまるで突っかかるように私に問いかけてくるのだった。
「そもそも、何故あなたのような方がこの場に居合わせていらっしゃるのですか。この屋敷のあるじは、錬金術師などと自称する、得体の知れぬ男なのですぞ?」
「父の古い知人です。多少氏素性の知れぬことは充分に承知しているつもりです。……それで、あの娘はどうするのです? お役目上明らかに出来ぬことも多かろうとは思いますが、出来うることなら、是非納得のいく説明が欲しい」
男はひとつため息をついて、渋々といった様子で答えた。
「分かりました。出来うる範囲でお話ししましょう。……辺境域での国境紛争が、停戦に至ったことはあなたもご存じかと思いますが」
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