第6話 (その5)
「一階は無人です!」
「地下にも誰もいません!」
次々と報告が寄せられてくる中、背広の男は私の前に立って、このように言ってきた。
「どこに隠した? 庇い立てすると、ためにならないぞ?」
「あ、あなたたちはっ……! しばらく前からこの屋敷を見張っていたのはあなたの仲間か何かでしょう。一体何をしていたの。兄が出かけていくところを、見ていなかったの?」
「錬金術師が不在なのは最初から分かっている」
男の言葉に、私ははっとした。兄が狙いではないのなら、他に目的と言えば……。
「いました!」
二階から、兵士が叫ぶ声が響いてきた。私は慌ててそちらをふり返ろうとするが、しっかりと取り押さえられているので首を回す事も出来なかった。それでもどうにか横目でそちらを見やると、階段の上に、ちらりとメアリーアンの姿が見えた。
「……あの子をさらいにきたのね?」
「さらいに来たというのは人聞きが悪い。そもそもあれは違法に製造されたものなのだ。その存在があらぬ形で露見するよりも先に、我らは一足先んじて回収にやってきたのだ」
男が言ったとほぼ同時に、男の部下らしき背広姿の若い男が、彼に何かを手渡すのが見えた。
それは、私の身分証だった。……普段は滅多に使わない、本物の方の。
それを目にした男の表情がさっと変わった。
「……どうしてこのようなものがここにあるのだね。これは偽造したり、本人以外の人物が所持しているだけでも充分に重罪なのだぞ?」
「ついでに言えば、偽造も簡単には出来ないと聞き及んでいるわ。……多分あなたのような人の方が、その辺りには詳しいと思うけれど」
男は苦虫を噛みつぶしたような表情のまま、しばし黙りこくっていた。そんな彼に私は告げる。
「あなたの部下に、私を今すぐに開放するように命じなさい。そうすれば、この場での非礼には目をつむります」
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