第6話 (その4)
そのまま、もう一方の手も同じようにねじ上げられ、頭を上からぎゅっと押さえ込まれてしまった。立ち上がることも、それ以上身をよじることさえ出来なかった。
「手加減は無用だぞ。あの錬金術師の身内だ。一体何をしでかすか、分かったものではないからな」
冷たい口調で静かにそう言い放ったのは、軍服ではなく黒っぽい背広姿の中年の男性だった。四十半ばといったところか、やせても太ってもいない、際だって印象に残るような特徴がこれといって見あたらない、物静かそうな男だった。胸ポケットから覗く懐中時計の鎖がやけにぴかぴかと目を引いたが、それだって際だって高価でもなければ珍しい品物というわけでもない。役場の片隅で黙々と帳簿でもつけていそうなこの男が、意外にも屋敷に踏み込んできた兵隊たちの指揮官であるらしかった。
「兄に何か用なの? ここにはいないわよ?」
「君たちは兄妹ではない。ローズマリー・ヴィッセル。君がこの町に身分を偽って滞在していることは、きちんと調べが付いている」
静かな口調だったが、私にはそれがまるで勝ち誇ったような尊大な物言いに聞こえた。それが少し癇に障ったけれど、私は兵士に取り押さえられたまま、出ていけとも言えずに黙って成り行きに任せるしかなかった。
見たところ、兵士はざっと二十人程度と言ったところだろうか。今さっきの背広姿の男とは別に、部隊の直接の指揮官と思しき年かさの兵士が一人。また、背広の男の後ろに、彼自身の直接的な配下なのか、同じような黒のスーツに身を包んだ若い男が三人ほど、その場に同行してきていた。
兵士達は銃を手に、屋敷のそこかしこに散らばっていく。彼らは何かを探している様子だった。
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