第6話 (その8)
それはどうだろう。いかなる手段をもってか、逃げろと警告してきた人だから、それは違うと思いたかったが……。
「いずれにせよ、彼女は我々が連れて行きます。たとえヴィッセルテウス家のご令嬢の言とあっても、これを曲げるわけにはいきません」
「では私も同行します」
「それもご容赦を」
「……せめてどこへ連れて行くのかぐらいは、教えては貰えないの?」
「貴族であるあなたには当然ながら拒否権がありますが、もし一般の人間であれば、参考人として身柄を拘束するぐらいの権限は我々にもあるのですよ」
言外に、お目こぼしをしてやるのだからそれ以上面倒な事をいうな、という主旨の事を言いたいのだというのはそれとなく伝わってきた。
私はぐるりと周囲を見回した。その場にいる兵士達が、皆一様に私をじっと注視していた。私からすれば彼らの方が平穏な日常を軍靴で踏みにじった無粋な侵入者だったけれど、彼らにしてみれば私の方こそ、錬金術師のような輩と近しい間柄にある氏素性怪しき者だった。今しがた兵士達に力づくで取り押さえられていたように、本来であれば問答無用で引っ捕らえられていても何一つおかしくない立場なのだった。きっと目の前のこの男も、本来であればそうしたくてうずうずしているのを、どうにか我慢しているに違いなかった。
私は無言のままにただうなだれるより他に無かった。
「ここで見たこと、聞いたことはくれぐれもご内密に。……我々の事も、そこの人造人間のこともです」
「……」
「この先もしかすると、正式にあなたの身柄を取り押さえ、詳しく事情をお聞かせ願う事もあるやも知れません。……私だったら、そんな召喚状が届くよりも前に、さっさと国外にでも逃げ出しますがね」
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