第4話 (その10)
一夜明けて、私は少し下流にあるボート小屋の桟橋に引っかかっているところを発見された。
身元を確認するまでもなく、私が誰なのかは皆の知るところだった。そのまま医者のところに運び込まれ、医師から官憲へ、官憲から叔父の元へとすぐにでも連絡が回るはずだったが、そうはならなかった。意識を取り戻した私が、それだけは止めてくれと頑なに拒んだからだった。おかげで、せっかく逃げ出した屋敷にむざむざ連れ戻されるという、最悪の結末は回避することが出来た。
あるいは、妹の変死に続いてのことなので、何か大いに訳ありであろうと人々の興味をかき立てるには充分だったろう。どうして戻りたくないのか、一体何があったのかと問われて、私は答えた。
叔父が、妹を殺したのだと。
私も危ない目にあったから、そこには戻りたくないのだ、と……普通だったらそれは子供の悪質な冗談と片付けられていても仕方のない物言いだった。だが妹の事故からどれほど間を置かないうちであったので、官憲はそれをまじめに取り合い、すぐに動いてくれた。
……あるいは、最初から彼らは叔父が怪しいと踏んでいたのかも知れない。妹が何をされていたのかについては検死の段階である程度は分かったのかも知れないし、あとは屋敷に踏み込むために決定的な証拠なり証言なりを、彼らは待っていたのかも知れなかった。
何と言っても叔父は町の名士であるから、手を回せば官憲の動きを封じることもたやすかったはずだ。そうなるより前に彼らは迅速に事を運び、私から証言を引き出した翌日には、屋敷に令状を持って踏み込んでいたのだった。
私の無事が知らされるよりも、それは早かった。夜中に屋敷を飛び出し、そのまま行方が分からなくなっていた私の捜索で浮き足立っていた頃合いであり、屋敷の者達は捜査官がやってきたことに面食らうばかりだったようだ。
叔父が覚悟を決めたのはすぐだった。令状を見て、一言分かったとだけ告げると、身支度を調えると言って彼は自室にいったん引き下がった。そこで一つ銃声がして、それきり彼が二度と自分の足で部屋から出てくる事はなかった。
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