第4話 (その11)

 本人が隠し持っていた拳銃で自決したことが、罪の所在を雄弁に物語っていただろう。書斎の隠し部屋から、証拠というにはあまりに充分過ぎるさまざまな押収品が見つかった。その委細を深く知りたいとは私は思わなかったけれど……叔父の犠牲になっていたのは私や妹だけではなかったらしかった。町の名士という名に隠れて、叔父はずっと以前からそういった事を繰り返していたらしいのだ。過去十数年の間に少なくとも三件の失踪事件に関与。いずれも年端も行かぬ少女達だった。その一番新しい犠牲者になるところだった私に、とある捜査官――その人は女性だった――が一度だけ捜査状況の説明にやってきて、そのさいに何枚かの写真を見せてくれた。

 それは叔父が撮りためていた「被害者」たちの写真だった。その頃の私と大して年格好も違わない女の子達の、見るに堪えないあられもないさまを、叔父は克明にフィルムに記録していた。

 そして……その中に、私が写っている写真があった。

 私は愕然とした。いや、そこに私が写っているはずはないのだ。それは私ではなく、血を分けた片割れ――妹の写真だった。

 私が動揺しているのをみて、女性の捜査官は写真を片付けようと手を伸ばした。きっと彼女は、私が大事な肉親の写真を目の当たりにして心を痛めていると思ったのだろう。私はそんな彼女の手を払いのけるように制止して、自分が――自分と同じ顔をした妹が写っているその写真にじっと見入った。

 記憶にある妹はいつもあふれんばかりの笑顔だったのに、写真の中で、彼女はにこりとも笑わずに目を伏せたままだった。視線をついと逸したその横顔は、どこからどうみても彼女には見えなかった。

 どうみたって、それは私だ。

 私と彼女は、やはり紛れもなく血肉を分けたかけがえのない姉妹だったのだ。

 私はいつの間にか泣いていた。その写真をみて今更のように、自分が何を失ったのかを知って、それで泣いたのだった。


(第5話へつづく)

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