第4話 (その3)

 そんな叔父が、葬儀のさなか時折ちらちらと、無言のまま私に視線を向けてくるのが分かった。

 私は元々、この叔父が少し苦手だった。父の弟にあたる人で、その父の亡き後に私たち一家を何くれとなく支えてくれている恩人だとは頭では分かっていたけれど、気持ちの上でどうにも好きになれないのは仕方のない事だったし、だからろくに口をきくこともなかった。

 だから私はついと視線をそらすしかなかったし、叔父も、その場でそれ以上私に何か言うでもなかった。あとはただ母のみっともない泣き声ばかりが、やけに耳障りに響き渡り続けていた。

 それからしばらくは、悲嘆にくれる母のさめざめとした泣き声ばかりを聞いて過ごしていたような気がする。

 母親なのだから子供の死に衝撃を受けているのは分かる。けれども、そんな母なのに不思議と同じ娘である私には、昔からあまりかまおうとしない人だった。元からそういう調子だったので、今更放っておかれても私は特に何とも思わなかったのだが。

 妹の死から一月ほどが過ぎた辺りで、叔父が久々に自宅でパーティを開くと言い出した。名目は、愛娘の死にすっかり気落ちしている母を元気付けるため、というものだった。

 その様に言われてしまうと、残されたもう一人の娘である私が出ないわけにはいかない。そういった社交的な集まりに顔を出すのはもちろん初めてではなかったにせよ、妹の影に隠れていればよかったそれまでとは違って、私自身が主役としてにこやかにしていなければならないのは、それなりに難儀だった。叔父としては、妹を欠いても私たち一家の絆が固いことを社交界に対してアピールする狙いがあったのだと今にすれば思うのだが、けどそれは私たち一家の本当の姿ではなかった。

 もちろん、私がかくあれと望んだ姿でもない。叔父も正直なところそういった家族像をことさら周囲に強調する意図もなく、それを私たち母娘に強要しているわけでもなかった。妹の生前から、そのように望んでいたのは、見る影もなくふさぎ込んでしまった、当の母自身だったのだ。

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