同情 02

 ・・・・・・・・どうやら今回は僕の番らしい。


 分からないなら無視してくれて構わないが、あちらにも事情があるみたいだ。


 時々僕じゃない誰かが語り部をやるみたいだから、臨機応変に対応してほしい。


 未だに4日間のことをだらだらと語っているが安心してくれ。


 今回はなんと4年前の話になるらしい。


 先に進まねぇのかよ!


 僕もそう思う。


 だけど仕方ない。


 仕方ないんだ。


 ・・・・・・・・これ僕が言っていいのかな?



 

 彼女とは昔からの仲だった。


 小さい頃は毎日一緒に遊んでいた記憶がある。


 彼女と僕の関係はいわゆる幼馴染というやつで、そして『運命』的だった。


 いいや。それは宿命といっても過言ではない。


 もちろん親同士の仲がいいこと、通っていた幼稚園が同じという条件は意外と普遍的な気がする。


 それは幼馴染としての最低条件と言わざるを得ない。


 だが、それに加えて僕たちは家が隣という今となってはとんでも厄介な事だけれど、当時は毎日とっても過言ではないくらいに通い合っていた。


 まるで女の子に抵抗のない小さい頃は無邪気に女の子の部屋に行っていたことを考えると、実は僕の中には潜在能力としてプレイボーイの素質があるんじゃないかと勘違いする。


 現状を見れば、勘違いどころか見当違いも甚だしい限りなんだけれど。


 女の子どころか男のことも、総称して人と会話した記憶が小学5年生のあの時から無いに等しいのに。


 幼少期はこうなるなんて微塵も思っていなかったなぁ。


 閑話休題。


 

 僕たちは順調に時を重ね、成長を続け、小学5年生になった。


 その時から、というかそれ以前、小学4年になる頃くらいから僕たちが遊ぶ機会は減り、それと同時にお互いの家へ行く機会もなくなった。


 女と遊ぶと同級生にからかわれる。


 「お前ら付き合ってんのか?」なんて冷やかしが飛んでくることなんて火を見るよりも明らかだった。


 それはお互いに感じていたみたいで、僕は自然と男友達と、彼女は女友達と一緒にいることが多かった。


 だけど忘れてはいないだろうか。


 どれだけ頑張って避けようとも、どれだけ離れている時間が長くとも僕たちの家が隣同士であるという事実だけは変わらないという事を。


 家が隣。それは帰路が同じである。そして家を出て学校へ行く道筋も同じであるという事。


 できるだけ避けても、彼女がランドセルを背負う姿を目にする。


 どれだけ離れても行きつく先は彼女の隣。


 毎朝鉢合わせになり、夕方になればどこかで彼女を目にする。


 朝の鉢合わせは登校時間をずらせば回避できるが、帰りはそうもいかない。


 心配性な母は道草を食う事なんて許さず、僕はそんな母に従順だったためまっすぐ家に帰っていた。


 従順というか、従わざるを得なかったというか・・・・・・・・小学生にとって母親なんて恐怖の象徴でしかないんだから従うことが当然だった。


 怒れば般若の様な形相を浮かべ、地の底まで響くような声を出し僕を叱責する。


 何度も叩かれ、叱られたけれど1度たりとも愛を感じなかったことはなかったなぁとしみじみ思う。


 まぁそもそも道草を食うほど学校と家の間に何かあるわけでもなく、また学校から家の距離は遠くなかったんだけど。

 

 だからこそ帰路のどこかで彼女と遭遇し、お互いに目を逸らし、その時間は時が止まったのかと錯覚するほどに緩やかな時間が流れ、心臓はバクバクと音を奏でた。


 まさか恋?僕はあいつを好きなのか?と自問自答してみたことは何度かあったけれど、結果はいつも同じで心の底からそれは違うという結論が出る。


 強がりでも何でもない。


 紛れもない本心だと思えるようになったのは何度かの検証の末、納得のいく結論が出たからだろう。


 正直、自分自身の矮小さに改めて気づかされるため思い出したくもないんだけれど、簡潔にまとめるならば自己防衛となる。


 僕の心臓の音が恋のドキドキとして機能していたわけではなく、警鐘として機能していたのは紛れもない事実だった。


 昔のように彼女と仲良くすれば僕の立場は危うくなる。


 僕の築き上げた地位は崩れ、周りにいる友達が敵に変わり、学校での生活が息苦しいものへと変貌してしまう。


 それは嫌だ。それだけは辛い。


 過程は違えど苦しそうにしている奴はクラスに何人かいる。


 そいつらと同じようなことになるのは耐えられない。


 休み時間、一人で読書なんて無理だ。


 班活動で苦しむことを想像するだけで吐き気がする。


 ご飯だって仲のいい奴とくだらない話をしながら笑顔で食べたい。


 黙々とつまらなさそうに食べるなんてまっぴらごめんだ。


 つまり僕の心臓が鳴らす警鐘は、今いる景勝の地を守れないと破滅するぞという独りよがりの自己保身で、みっともなく矮小でつまらない音なのだった。


 だからこそ僕は彼女と目を合わせられなかったのかもしれない。


 自分がこんなにも俗物でひたすらおびえながら暮らすような人間だったから。


 だけどそんなことにおびえる生活は終わりを迎える。


 終わりは何かを始めるための合図だなんて言葉を聞けばまるでポジティブな事のように思えるかもしれないが、僕が始めたのは『惨憺』な境遇だった。


 こんなことなら人間関係におびえていた方が何倍もマシだと思うのは後出しじゃんけんだろうか。


 そんなはずはない。


 そんなはずはないと思うことが何よりも現実逃避できる。


 たまには逃げたっていいじゃないか。


 最後のあっち向いてほいで勝てれば僕の勝ちなんだから。


 

 


 

 


 


 

 






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る