ショート・2 ……ごめん

 キーンコーンカーンコーン。


(……お腹、空いた)


 つぐみは無言でお腹を撫でた。


 朝食はきちんと食べたというのに……。


「………………」


 次の授業が終われば、昼休みが始まる。


 ここまでお腹が鳴らなかったのなら、四限目も恐らく大丈夫だろう。


 そんなことを考えていると、


「おいおい……っ」

「マジかよ……」

「嘘でしょ?」


 突然、教室中がザワつき出した。


 有名人でも来たのかというと、どうやらそうではないらしい。


「――――ねぇ」


 声が聴こえて顔を上げると、机を挟んで“彼女”が立っていた。


「…………私に何か用?」


 空き教室での一件以来、会話はおろか目も合わせていない。


 そんな彼女がどうして――


「ちょっと……あたしに付き合ってくんない?」

「?」


 一瞬、言葉の意味がわからず、つぐみは首を傾げた。




 それから一時間後。


「せんぱい、まだかな~♪」


 昼休みは凛々葉にとって、学校で未希人と一緒にいられる貴重な時間だ。


 学校に来る理由がこの時間のためだと言っていいくらいに、充実感と幸せに満ち溢れていた。


「ふんふんふ~ん♪」


 ベンチに座って足をブラブラ揺らしていると、ガチャリと扉が開く音がした。


「あっ♪ せんぱ……い……」


 扉の方に顔を向けると、そこに立っていたのは、


「………………」


 空き教室でつぐみにコテンパンにやられていた人だった。


 ちょっぴり盛った部分はあるが、これくらいやっても問題はない。


 なぜなら、今、目の前にいるケバい格好の人こそ――


「……あたしのこと、憶えてる?」


 ………………………………………………………………。


 長い沈黙の後、




「えっと……名前はなんでしたっけ?」




 凛々葉が言った一言に、彼女は目を丸くした。


 そして、「はい?」と声を漏らすと、大きな声を上げて言った。


「あたしの名前は! 毒島ぶすじま幸夏ゆかッ!! 忘れたとは言わせねぇぞッ!?」

「そう言われても……うーん……」


 毒島ぶすじま……幸夏ゆか……。


 と心の中で呟いてみても、全く思い出せそうにはなかった。


 それから凛々葉が「うーん……」と考え込んでいるところを見て、毒島ぶすじま幸夏ゆかは目を見開いた。


「もしかして、あたしのことを憶えてないわけ……ッ!?」

「なんて言うか……その……はい……」

「!!?」


 正直に答えた途端。ポカーンと口を開けたまま固まってしまった。


 どうやら、思っていた以上にダメージがあったらしい。


「えっと……」




「……ごめん」




「へっ?」

「…………ごめん」


 と呟きながら彼女は頭を下げた。


 彼女の性格上、人に頭を下げることに抵抗があるはず。


 それなのに……。


「……わたしの方こそ、ごめんなさい」


 そう言って頭を下げると、顔を上げた毒島が信じられないものを見るような目で見てきた。


「どうして……あんたが謝るわけ?」

「別れるときに……もう少しちゃんと説明していれば、ここまで話がややこしくなることはなかったから……」

「……は、はぁ? あたしは、ただ謝りに来ただけだからッ!」

「………………」

「……っ。ちゃ、ちゃんと謝ったからなッ!」


 彼女は扉の方に体を向けると、顔を真っ赤にしながら駆け足で去っていった。


 ………………。


 その後。


 凛々葉がベンチに座ると、


「り、凛々葉ちゃーん……」


 まるで今来たかのように未希人みきとが屋上へとやってきた。


「ま、待った?」

「……もしかして、今の話、聞いていたんですか〜?」

「な、なんのことかなー……?」


 目を逸らすということは、さっきの話を聞いていたというなによりの証拠だ。


 ほんと、わかりやすいんですから……っ。


「聞いていたんですよね〜?」

「……は、はい」

「ふふっ。素直でよろしい♪」


 そう言って、凛々葉りりはは軽く背伸びをして未希人の頭を優しく撫でた。


「…………っ」


 恥ずかしそうにしている未希人を見つめながら、凛々葉は彼の手を取った。


「凛々葉ちゃん?」

「もうお腹もペコペコですし、お昼にしましょうか♪」


 ぐぅううう~。


「あ。あははは……そうだねっ」


 未希人のお腹から鳴った可愛らしい音を合図に、二人のお昼休みが始まった――。

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今カノと元カノが〇〇なんて聞いてないんだが? 白野さーど @hakuya3rd

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