5

「なんだ、お前」

「邪魔するな」

 

 見れば、双子は緊張した表情で男を睨み付けていた。

 

「『何だ』じゃないだろ。むしろそっちが何なんだよ」

 

 そう答えた背の高い少年は、頭をガシガシ頭を掻いた。

 

 若干パーマっぽいクセのある赤い髪。

 着ている制服は、間違いなくうちの学校のものだ。

 背が高い。間違いなく180cm台後半はある。

 ひょろ長くてモデルみたいにスタイルがいい。

 

 うちの学校に、こんな奴いたっけか。

 こんな目立つ風体の生徒、一度見たら忘れられないと思うんだけどな。

 

「お前、魔術師か」

「お前も、魔術師か」

 

 双子が警戒した面持ちで相対する。

 

「ぼくのことなんてどうでもいいじゃない。ていうかさ、わかってる? キミたちがやってることって、犯罪だぜ」


 お? お、おお……?

 そうだな。犯罪だな。

 今更すぎてポカンとしちまったじゃねぇか。

 

 しかし、双子は意にも介さない。

 

「人の法など、あたしたちには関係ない」

「どんなものであれ、僕たちには関係ない」

「ふぅん。じゃあ、仮にここで君たちを殺してしまっても、どこからも文句は出ないってこと?」


 赤毛の少年の言葉に、双子にピリッと緊張が走る。


「やれるつもりか、お前」

「やれるならやってみろ、お前」

「やらないさ。仮に、って言ったろ?」


 赤毛の少年は肩をすくめる。


「なら、なぜ邪魔立てする」

「なぜぼくたちの楽しみを邪魔する」

 

 非常識だぞお前、と双子が憤慨している。

 

 ……え、拷問の邪魔をされてキレてんの?

 ヤダ、こいつら絶対頭おかしい!

 

「や、最初は邪魔するつもりなかったんだけどさ」


 しかし赤毛の少年はちらりと俺(達)を一瞥して、

 

「あまりに不公平だからさ。ゲームのルールもだけど、ほら、実力差がありすぎる。こうなるとやっぱりハンデがないとさ」

「何の話だ」

「何を言ってる」

「魔術師が一般人とゲームするんだ、そりゃハンデくらい必要だろ」


 肩をすくめて「やれやれ、当たり前だろ」とでも言うふうに首を左右に振る。


「不要だ」

「どうせ結果は同じだ」

「そう? でもさ――」

 

 ――もう、5分経ってるぜ?

 

 赤毛の少年がそう言うと、双子はバッと顔を見合わせる。

 

「経った? 本当に?」

「経ってる……5分と、今6秒、7秒、8、9」

「ね?」

「お前が邪魔したからだ!」

「お前が邪魔さえしなければ!」

「ルールはルールだ。お引き取り願おうか」


 そう言って、赤毛の少年は胸のあたりから何かを取り出す仕草をする。

 何かを掴む。

 ゆっくりと取り出すと、だらりと手を伸ばす。

 

 あれは――鋏? 独特な形の……そう確か枝切り鋏とか言ったっけ。

 赤毛の少年はシャキシャキ、と二回鋏を握る。

 

 双子は悔しそうな顔で、赤毛の少年を睨みつけた。

 

「覚えていろ」

「忘れない」


 もはや、俺のことも、荷物(もう普通に「女生徒」でいいか)のことも眼中にない。

 

「ま、覚えて入られたら覚えておくよ」

 赤毛が言うと、

 

「―― ▜▗▟▖▗▘▝▚▖▗▘▛▞▙▛▜▟」

「▘▝▚▖▗▘▛▞▙▛■▜▗▟▖▗▘▝ ――」

 

 双子は機械音のような声で何事かをつぶやいた。

 耳障りな音に耐えられず思わず耳を塞ぐ。

 

 二人の輪郭がぼやける。

 一瞬目が合う。

 まるで汚いものでもみるような目で、しかしすぐに目が逸らされる。

 興味なんて端からなかったよとでも言うように。

 

 そして姿が消える。

 風景に解けるように。

 初めから誰もいなかったかのように。

 

 それは一瞬の出来事だった。

 

 それを見届けると、赤毛は振り返って、ニッと笑った。

 その顔を見て、俺は思った。

 

 何こいつ。むかつくくらいの超絶イケメンじゃねぇか、ふざけんな。

 このご恩は一生忘れませんコンチクショウ。

 

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