最終決戦①


 ワイヴァーンの言葉通り、滝澤一行+‪αは玉座の間目指し、絶賛進軍中であった。


「そういや聞いてなかったけど、アイツの目的ってなんだ?わざわざ子孫の体乗っ取ってまで女の子集め?ソシャゲか……?」

「そういうことではないと思う。僕だけじゃなく、後も全て、アイツに乗っ取られる。僕の体で子孫を増やし、老いれば次の体へと交代。シンパを増やしてもう一度国を興すつもりなんだろうさ」


 ゲンガは賢い。血筋が故でもあるが、アルバートの策略を見抜いていた。


「……分からん。取り敢えず倒せば良いのだろう?」

「脳筋かよ」

まつりごとに関してはよく分からんのでな。むしろ滝澤は分かるのか?」


 滝澤は首を横に振る。右に同じく、滝澤も政治関係には疎い。精々歴史の授業で習った程度の知識しかない。


「君たちの為に簡単に言おう。アイツを倒さなければ、再び剣の魔王による世が始まる。ヒトにとっても、モンスターにとっても暗黒の時代が」


 ゲンガの声色に滝澤は唾を飲む。暗黒時代、というのは常に最悪を示す。魔王アルバートの治める世がどんなものになるか、滝澤は想像したくもなかった。


「そいつは良くねぇ。絶対にぶっ倒さないとな」


 決意を新たにする滝澤。その時、難解な話で完全に空気と化していたルナが翼を広げた。


「なんか来る!」


 迫り来るは、剣、剣、剣。アルバートが操っていた七本の剣が真っ直ぐ滝澤に目掛けて飛んできていた。


「遠隔操作とかありかよ!?」

「まずいな。アイラ、鎧蜥蜴を」

「ええ」


 アイラが鎧蜥蜴を召喚したかと思えば、滝澤の体から飛び出したゲンガが鎧蜥蜴の中へと飛び乗った。


「君達は僕が守ってみせる!」


 鎧蜥蜴、もといゲンガは七本の剣を盾と剣で捌ききった。床に転がった剣は床へと沈むように消える。


「さぁ、走るぞ!第二陣が来る前に玉座の間へ辿り着くんだ!」


 ゲンガが先陣を切り、一同はその後に続く。玉座の間まで、残り数メートル。長い廊下を沈黙と共に走り抜ける。


「ヴィル、大丈夫か!?」

「この装備でなら大丈夫だ!準備運動に過ぎんさ」


 とは言うものの、ヴィルは既に肩で息をしていた。苦笑しつつ、滝澤は足を止める。


「何をしている!?」


 滝澤の奇行に思わずヴィルも足を止めた。滝澤は無言のままヴィルを抱える。お姫様抱っこ、だ。


「や、やめろ滝澤!何か恥ずかしいぞ!」

「問題ない!ヴィルは軽いからな!」


 ……想像以上に鎧が重く、滝澤は話を聞く余裕もない。


「うおぉぉぉ!」


 滝澤、廊下を全力疾走。そして、ついに……。


「到着ぅ!」


 滝澤は扉を蹴り開けた。


「うおっ!?」


 滝澤は仰け反ると共に床に尻もちを着いた。その上を剣が裂く。背後でゲンガが剣を弾いた。


「……なんだ、お前も来たのか」


 玉座に座ったまま、魔王アルバートはゲンガを見下した。


「体を取り戻しに来た。君の世は来ない。アルバートの血筋……ニンゲンの世界は僕自身で繋げる」

「平穏な世界など幻想に過ぎない。圧倒的な支配者がこの世を統治する。力を持ってニンゲンを平定するのだ」


 両者は互いに睨み合う。一触即発の雰囲気に破壊者クラッシャーがゲンガを蹴って割り込んだ。


「お前らだけで話してんじゃねぇよ!話聞いてりゃニンゲンの世だかなんだか、モンスター達はどうなんだよ!」


 途端にハッとするゲンガ。アルバートは表情を変えない。ビシッと滝澤は床に転がったゲンガとアルバートを指さした。


「お前らがモンスターのこと見てねぇのはよーく分かった!俺が魔王になってニンゲンもモンスターも平等にしてやる!あとアルバート!お前はナスカ返せ!」

「笑わせる!モンスターなど格下の存在に気を払うものか!」


 玉座から立ち上がったアルバートは滝澤に向かって七剣を飛ばす。一切の躊躇なしに滝澤は駆け出した。


「いつまで同じネタ使ってやがる!ルナ!」

「うん!」


 風弾によって障害物七剣は的を外す。

 ─だが、同じ技が囮であるとは読ませないのも技量。床から突出した槍が滝澤の頬を掠める。咄嗟に後退した滝澤は叫んだ。


「ルナ!廊下に戻れ!」


 滝澤に呼応してヴィルが廊下に向けてルナの背中を押す。


「俺が何故ここで待っていたか考えたか?俺は玉座などに興味は無い。ここが俺の領域に最も近しいだけだ」


 壁、床、四方八方から剣が飛び出した。咄嗟に三人は背中を合わせ、降り注ぐ剣を弾き続ける。


「どうなってんだよ!聞いてた話と違うぞ!体内の鉄使って剣作るんじゃないのか!?」

「僕に聞かれても!アイツが僕の体を使って色々試してたのは知ってるだろ!?」

「集中しろ!一発でも受けたら全滅するぞ!」


 味方の背中を守っている以上、一人が倒れれば他の二人も倒れる。まさしく絶体絶命の状況だった。


「……温いな」


 背後からの拳を受け止めながらアルバートは呟く。の拳に嵌められた指輪の感触を彼は笑う。


「今はこのような姿になったのか……ヒトであることを選んだ結果か」

はヒトの世に生きることを選んだ。貴方とは逆に」


 アイラはアルバートの手を振り払った。アルバートは滝澤達への攻撃を止める訳にはいかない。溜め息を一つ吐くと、アルバートはアイラに向き直った。


「来い。ヒトの身を選んだことを後悔させてやる」


 剣の雨が弱くなったことで滝澤達にも周囲を確認する余裕が出来る。ゲンガは単身で戦う婚約者へ祈る。


「頼むぞ、アイラ……!」


 体内より錬成した大剣を握ったアルバートはまず大きく横に一振り。アイラはそれを木の葉のようにひらりと躱した。


「次は!」

「縦だ」


 身長程もある大剣をアルバートは軽々と振り回す。避けては、横。避けては、縦。大振り、小振り。斜め45°右への振り下ろし。左へ振り上げ。

 それぞれを間一髪で躱しながらアイラの拳はアルバートへ少しづつ迫っていく。


「(あと一歩……!)」

「……と、思っただろう」


 大振りを仕掛けたかと思えば、大剣はアイラではなくゲンガの方へと放たれた。咄嗟にゲンガの下へと足が出たアイラをアルバートは蹴り上げる。


「お前らは変わらんな。かつての女も男を守るために窮地に陥ったが、血は争えんか」

「黙れ」


 アルバートは放った大剣が帰ってこない事に気が付く。ゲンガの手がしかと大剣を掴んで離さないのだ。


「大した生命力だな」


 剣を全身に受けながら、ゲンガは一人陣を抜ける。急所を外し、鎧で負傷を抑えながら大剣を引き摺ってひたすら進む。


「彼女を侮辱することは許さない!うぉぉぉぉ!」


 ゲンガが気を引いた隙にアイラは立ち上がった。


「はぁぁぁぁ!」


 大剣を振り上げたゲンガ、合わせて拳を引いたアイラに挟まれ、尚アルバートは嗤う。


「……〈皇帝〉」


 大剣と拳が空を切る。その存在を知っていても、対策など行いようがない。それがスキル〈皇帝〉である。


「がっ……」

「かはっ……」


 二人は腹部への衝撃で床を転がった。ゲンガに至っては全身に剣を受けた状態である。そう簡単には戦闘に復帰できない。


「ヴィル、同時に跳べるか?」

「任せろ。私は妻だぞ」

「その話まだ続いてんのか」


 息を合わせ、二人は同時に床を転がった。剣の雨の中、二人はアルバート目掛けて快走する。アイラによる妨害が退けられた今、攻撃が激しくなるのは明白だった。


「良い!コイツらより楽しませてくれる!」


 剣を止め、ゲンガの手から大剣を奪い取る。ここからは剣戟の時間だ。

 まずは先に辿り着いたヴィルが斬り込む。〈夢幻封影〉を警戒し、視線を切りつつアルバートは剣を振るう。


「鈍いな、我が力がそれほど恐ろしいか!?」

「奇襲とはいえ一度喰らった身としては、警戒せざるを得まい。道理だろう?」


 ヴィルが相手をしている間に滝澤も合流。再び挟み撃ちの構図になる。しかし、アルバートは恐れない。怯まない。


「〈皇帝〉」


 アルバートが呟く。空気が凍る。そして時が……


 止まらない。


 滝澤の木刀が、ヴィルの剣が迫る。


「余所見しちゃってさ。僕のスキルなんだから自由に使わせるわけないだろ」


 アルバートの口からゲンガの声が漏れた。アルバートが状況を理解すると共に胴を庇った両腕が切り落とされる。

 ゲンガを見くびっていたアルバートは彼の魂にトドメを刺すことをしなかった。その油断を突き、ゲンガは背後を見せたアルバートに


「出ていけ!」


 空中へと離脱したアルバートは身体からゲンガを追い出す。再び魂になったゲンガは滝澤の中へと身を潜めた。復帰したアイラもそこに加わる。


「アイツ、魂が強すぎる。ちゃんとトドメを刺さないと取り返せないぞ」

「浮遊まで使いだしたけどアレ倒せる?今度はスキル使われるんだぜ?」


 宙に浮くアルバートは四人を睨む。ボトボトと腕から黒い血を垂らしながらも、殺気を放ち続けるその姿はまさしく強者であった。


「この力を使うのは久々だ。俺を怒らせたからには簡単に死んでくれるなよ?」


 アルバートの身体へ床を転がっていた剣が集まっていく。明らかに喰らってはいけないだろう攻撃を止めるべく、滝澤とヴィルが駆け出……そうとした。


「「何っ!?」」


 二人の足首を切り落とされたアルバートの腕が掴んでいる。


「げぇ、しぶとすぎだろ!」


 慌てて腕を振りほどくが、時既に遅し。力を溜め終えたアルバートの周りを無数の剣が回転していた。


「風が、吹いている……!」

「なんだ、アレは……!?僕も知らない力だ」


 回転する剣によって空気が乱され、滝澤達は立っていられなくなる。台風の目の中でアルバートは手を上げた。


「刮目せよ、[暴風雨ストーム]」


 回転する剣が風を纏い、向かい来る。立つこともままならず、彼らはただただ突然の死を受け入れるしかない。


「くそ……ヴィル、立てるか!?」

「無理だ!せめてルナを逃がさねば……」

「アイラ、君だけでも逃げろ!グリフォンなら逃げられる!」

「嫌です!ここで諦める訳にはいきません!」


 剣の嵐は風を裂き、轟音を響かせながら四人の下へと到達する。

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