エピローグ
数ヶ月後。
「いってきまーす!」
私はマスターと奥さんに声をかけ、エステル様と一緒に王宮に向かっていた。
なんとあのあと、王妃様付のお針子として私にまでお声がかかったのだ。
ちなみに、レストランの部屋には住み続けている。作業用のアトリエが必要だし、家賃を払うことで、マスターと奥さんにちょっとでも恩返しになればいいなと思っている。
おそばに仕えるようになってわかったけど、王妃様は本当に柔軟な方だった。
あの日私とエステル様が着ていた、コルセットも着けない簡易な服を気に入って、お召しになるようになったのだ。
王妃様がコルセットを脱ぎ捨てたとあって、王宮は一時騒然とした。他国から来た人間が、伝統をないがしろにしたように見えたのだろう。
けれど人間、機能性には勝てないものだ。
コルセット無しのドレスはあっという間に浸透し、最近の女性は活動的になったと言われている。
そんなわけで、結局私はこっちの世界でもまた、お針子として生きている。
前世で流されるままお針子の人生を選んだこと、ずっと後悔していた。
でも、こうして誰かの役に立てたなら、前の人生も無駄じゃなかったのかもしれない。
なにが無駄で何が得かなんて、そのときにはわからないものなのかもしれない。
王宮にたどり着くと、勤務中のアラン様と目が合った。
勤務中だから、目配せするだけだけど、アラン様がエステル様を大事にしているおかげで隣にいる私までファンサがもらえてラッキーだ。
私がそう言うと、エステル様はなぜか「可哀相なお兄様……」と呟いた。
〈了〉
221010
感情乱高下お針子はイケメン騎士に見い出され、王宮に花開く 安城いふ @jiu
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