11.舞踏会

 王宮にたどり着き、大広間に通される。

 そこは、着飾った人たちであふれかえっていた。


 天井から吊された二十灯以上のシャンデリアは、クリスタルのひとつひとつを輝かせている。その輝きを、至る所に貼られた鏡が反射する。反射した先の壁紙も燭台もなにもかもが金色だから、その明るさといったら、まるで昼間みたいだ。


 煌びやかなドレス、結い上げた髪。羽根つきの扇の陰で交わされる会話も、何百人分も重なると、もはや騒音だった。

 その全員が、ちら、ちら、とお互いを牽制しながら、王妃が現れるのを待っている。

 うーん、これは、集団面接というより、大就職説明会だな。規模的に。

 慣れないリクルートスーツに身を包み、有明ビッグサイトや幕張メッセに通った日々を思い出してしまう。


 その頃作った靴擦れの痛みまで思い出して顔を歪めたとき、縞のドレスに身を包んだ令嬢が、こちらを見ているのに気がついた。

 髪もひときわ高く結い上げている。

 なるほど、あれがエステル様のライバルか。

 エステル様が、不安げに呟いた。

「やっぱり目立ってる……」

 たしかに。縞なんてカジュアルになっちゃうんじゃ? と思ったけれど、無地か、せいぜい小花の柄の生地の中で、黒と金茶の縞のドレスは、高級感もあって目を引いた。

 着ている本人も自信に満ちあふれ、背筋を伸ばして「どやあ!」っとデコルテを見せつける姿勢をとっているから、惹きつけられるのだ。

 他の令嬢たちも、負けじと「どやあ!」「どやあ!」とデコルテを見せつけるため胸を張って歩いている。「どやあ!」が大渋滞だ。


 そんな中、縞のドレスの令嬢は、エステル様と私のほうを見て、ふっ……と鼻で笑った。

「ああら、エステル様、そこにいらしたの。まったくわかりませんでしたわ。壁と同化してらしたから~」

 おほほ、と取り巻きが一斉に笑い出す。

「まったくですわ~。どうしてまたそんな色をお選びになられたの~」

「あんたたちが買い占めたからだろうよ」という言葉は、すんでのところで飲み込んだ。


 そう、私がエステル様のために仕立てたドレスの色は――パステルイエロー。

 そんな色でこの大広間に佇んでいると、まったく目立たない。完全に壁と同化して、背景

 の一部だ。

 

 私はエステル様の手をそっと握る。

 エステル様も握り返してくる。


 ――成功を確信して。

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