21

 帰り道。時刻は 22:30 。ずいぶん長い時間動いていた気がしていたけど、三十分くらいしか経っていなかったんだ。まあでも、よく考えればぼくらの時間は十倍に加速していた時もあったんだから、そんなものなのかもしれない。


「なあ、シオリ」


「なに? カズ兄」シオリがぼくを振り向く。


「お前……実はすごい勇気の持ち主だったんだな。あの、今にも家が焼け落ちそうだった時、ぼくは足がすくんで動けなかったのに、お前は家の中に飛び込んで行ったんだもんな……」


 そう。シオリにあんな勇気があるとは、ぼくは全く思っていなかった。


「でも、そのせいで死ぬかと思ったけどね」照れたようにシオリが言う。


「それはそうだが……」


「あの赤ちゃん、大二郎って言っとったよね。実はね……ウチの母方のじいちゃんのじいちゃんが、大二郎って言うげん。一代で財を築いた、伝説の先祖ねんよ」


「ええっ!」


 それは初耳だった。


「だからぁ、ひょっとしたらウチの先祖かもしれん……って思ったら、ウチ、いてもたってもいられなくなってしもてんね。ほんでぇ、手のひらにボールペンで『時間加速して』って書いてぇンね、『神』様に加速してもろうてぇ、家の中に飛び込んで赤ちゃん助けてん」


 そう言って、シオリが左の手のひらを広げてみせる。そこには確かに走り書きで「時間加速して」と書かれていた。なるほど……こんなことは、やはり直接「神」とコンタクト出来るシオリ以外にはできそうにない。


「そうか……」ヤスがあごを引く。「その話が正しければ、お前は母方のひいひいひいじいちゃんを助けたことになる……ひょっとしたら、運命のような不思議な力がお前を動かしたのかもしれないな」


「そうなん? お兄ちゃん……ウチ、よう分からんけど……」


「それがホントかどうかはおれにも分からん。ま、でも、どっちにしてもお前はよくやったよ。赤ん坊の命を守ったんだからな」


 そう言ってヤスがシオリの頭を撫でると、シオリの顔がニヘラとほころぶ。


「えへへ……ありがと、お兄ちゃん」


「でもな、シオリ」ぼくはポツリと言う。


「ん? なに?」


「ぼくは目の前でお前が崩れてきた天井の下敷きになったあの時、心臓が止まるかと思ったよ……もう、あんなことは絶対やめてくれな」


 とたんに、シオリがシュンとした顔になる。


「うん……ごめんね、カズ兄……心配かけて……でもぉンね、ウチだって死にたくないしぃ……あんなこと、もう絶対にせんわいね」


 そう言ってシオリは、朗らかに笑った。


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 こうして、時を超えたぼくらの大冒険は無事に終わった。ぼくはそう思っていた。


 そう、この時は、まだ……


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