第31話 復讐(義弟)
俺はユリウスの首根っこを掴むと、持ち上げた。
そのまま崖の外に突き出す。
「!?!?!」
途端にユリウスの顔から血の気が失せた。
「じょじょじょ冗談だよな!? バルク! 俺はたった1人の義弟なんだぞ!? まさか殺すわけがねえよな!?」
必死になって言ってくる。
「さっきの話を聞いていてな。俺もお前と同感なんだ。お前さえ死ねばそれでいい」
そう脅しつけてやって、軽く体を揺さぶってやると、
「ふひひゃあ!?!」
ユリウスの俺を見る目から、一瞬で涙が溢れた。
おもしれ。
「やめ……やめやめやめてええええ!!? う、ウソだよなバルク!? だって俺らは家族なんだぜ!? なにも命まで奪わなくたっていいだろうが!!!」
「家族だから殺すんだろ? だって俺が飛空艇から突き落とされた時、醜態を曝してばかりのお前が俺らと同じ家族だなんて耐えられねえって言ってたもんなあ。お前」
「そ、それは……!」
いつかの意趣返しをしてやった。
立場が逆転するといかにも小気味いい。
「あの時俺もお前に言ったよな? だがお前は助けてくれなかった」
言って、俺は軽くユリウスの頬をビンタしてやった。
「ぶぶう!?」
一発でユリウスのイケメン面が台無しになる。
「俺もストレス溜まってんだ。な? 解消に付き合え」
言って何発も引っぱたく。
高かった鼻が折れ、赤く腫れあがった顔はまるでオークのようだ。
「よくも俺のことをイジメてくれたよな。楽に死ねると思うな」
俺が言うと、
「ずみばぜんずびばぜん! でもそれには事情があったんだああああ!!」
「事情?」
いちおう聞いてやる。
「あ、ああ!!
全部ガスターが悪い!!
俺は、あいつからお前をバカにするようにって言われたんだ!!
ロートリアの不始末はロートリア人のお前がつけろって!!
だから俺は、心にもないような事をお前にしたんだよ!!
心苦しかったさ!!
でもやらなきゃ殺されるから!!!
それに、昔お前を突き落としたときだって!!
あれも全部母さんが仕組んだことなんだ!!
俺は内心じゃお前のことを愛していた!!!」
ユリウスがポロポロ涙を零しながら言う。
『愛していた』って、よくもそんな口が利けるな。
「だからバルク、この俺がお前の味方になってやる!! 俺は暫くガスターの下に居たから、アイツのクセからアレックスターの軍の配置まで何でも知ってるぜ!!
な!?
一緒にアレックスターを倒さねえか!?」
「結構だ」
俺ははっきり断ると、またユリウスの体を空中へと突き出した。
細身の体がプランプラン揺れる。
「ふひふひふっひぃいいいいいん!!??」
足元を見るなり、ユリウスが目の玉をひっくり返した。
そして股間から大量の液体が漏れ出す。
その清浄ならぬ液体はズボンを伝って雲海に落ち、汚い虹を作った。
おいおい。
昔の俺でさえションベンは漏らさなかったぞ。
こいつどれだけ小心者なんだ。
「バルクうううう!! お願いだああああ!!! 助けてくれよおおおおお!
俺にできることならなんでもするからよおおおお!!!!!
そ、そうだ!
女だ!!
リアーナだ!!
リアーナはどうだ!?
あいつヤらせてくれなかったんだ!
ガスターもまだヤってねえ!
【聖女】としての使い道が先だからとか言って、軍の秘密の施設に居るんだよ!!
だからアイツまだ処女だぜ!!
どうだ!?
聖女の処女とか興味あるだろ!?
だからあいつを連れてきて、あの黒髪の女と青髪とで4Pしよう!!
そうだそれがいい!!
それでこそ偉大なるロートリアの国王ってもんだ!!!」
ユリウスの鮮やかなクズっぷりに、俺は久々に吹き出してしまった。
いちおう恋人だっただろうに。
言ってる事がベルダンディどもと変わらねえ。
マジで生粋のロートリア人なんだなあ、こいつも。
……。
まあ、俺にもその血が混じってるわけだが。
こういう風に命乞いされるとつい意地悪したくなる。
血は争えねえ。
「オラ。いちにのさん、でバンザイつって飛べ」
俺は一旦ユリウスを離すと、崖の端に立たせた。
そしてトン、と軽く背を押す。
「うひへええええっ!!?!?」
すぐにトトト、と戻ってきた。
「頼む頼む頼むうううう!!! ば……バルク……いやバルク様ぁ!! 奴隷でも召使いでも便所用の雑巾でも何にでもなりますからどうぞお慈悲をおおおおお!!!!」
俺が暫く無言でいたのが怖かったのか、ユリウスがついに様付けで呼び出した。
その場に座り込んで、俺の足元に縋りつく。
「お前、俺がそう言った時どうした?」
いつか、兵士にも言った言葉を俺は繰り返す。
「こんなゴミ誰も要らねえ、つって俺を捨てたろ? 俺もそうさせてもらうよ」
「ひぇひぇひぇっ!?」
「永久に消えろ無能」
俺はどこまでも広がる雲海に向かってユリウスを蹴り飛ばした。
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