第30話 迷宮脱出

「脱出……!?

 ぐははははははは!!

 バカが!!

 てめえはどうせこれでもうお終いなんだよおおおお!!!!」


 急にユリウスが笑い始めた。

 振り返れば、いつの間にやら立ち上がって、俺に向かい中指を一本立てている。

 感情の起伏が激しい奴だ。


「クソバカなてめえにも分かるように教えてやる!!!

 この迷宮はな、天空迷宮ってんだ!!

 超古代文明が作り上げた大迷宮で、中からは永久に出られねえって魔法が掛けられてある!

 制作者すらも出られなかったってお墨付きのシロモノなんだ!!

 ただ出られねえってだけじゃねえぞ!?

 中にはミノタウロスやらリッチーやら骸骨龍やら、特Aランクのモンスターがゴロゴロしてやがんだ!!

 どんな卑劣な手段を使ったのか知らねえが、たとえこの俺を倒したってここからは抜け出せねえぞ!!!」


 なるほど。

 壁の魔力組成を見て単なる反発の魔法だけではないと思っていたが、そういう仕組みだったか。


「これでお前もロートリアもあの女どももみんなお終いという訳だあ!!!!

 ギャハハハハア!!!!!」

「で、お前は帰れんのか?」


 俺はずばり聞いてやった。

 転移石がまだ使えるなら奪ってもいいが、俺の見立てではもう使えない。

 石の魔力が失せている。


「!?!?!?」


 すると、ユリウスの全身が硬直した。

 てっきりこいつだけは助かる手段があるものと思っていたが、そうじゃないらしい。


「そ、ぞんなあああああ!!? どぼぢてですがあああ!!! ガスターざまああああああ!!! このユリウスうううう!! 貴方様に忠誠を誓ったではないですかあああ!!!!!」


 大の男が、ガチで泣いてやがる。


 こいつ、アホだな。

 自分が捨て駒に使われたことすら気付いてなかったのか。

 まあいい。

 復讐ついでだ。

 命だけは助けてやる。

 簡単に殺しちまうよりも、俺の手下にして雑巾代わりに使ってやった方が面白えからな。


 なあ義弟。

 俺も性格悪いんだぜ?


「ユリウス。世界一簡単な迷宮の攻略の仕方って知ってるか?」


 俺の問いにユリウスが、


「ひゃへ?」


 涙と鼻水でふにゃふにゃに蕩け切った顔で返事をする。


「壊す」


 俺は言って、雷と同じくらいのスピードで壁の表面を軽く小突いた。

 すると俺の拳から衝撃波が生まれる。

 その衝撃波は俺たちが居た部屋の壁を打ち破って次の部屋、その次の部屋と、一気に5つの部屋を貫通した。

 更に迷宮全体がズズンと揺れる。

 今の一撃で、どこか別の場所まで崩れたらしい。


 大黒柱か何か砕いちまったか?

 モンスターどもの悲鳴が聞こえる。


「ばかな!? おっ……俺の魔剣はもちろん、どんな現代魔法兵器も歯が立たねえってシロモノなんだぞ!?

 超古代のテクノロジーが詰まってんだ!

 それをどうやって!?」

「圧倒的な暴力の前には、小細工など無意味ってことだ。アレックスター(お前ら)いつもやってんだろ?」


 俺は言いながら5つ先の部屋まで歩き、また部屋の壁を殴った。

 シャンデリアをまとめて落下させたような、派手な音がする。

 砕けた壁と内部に溜まった魔法陣、それから部屋に居たと思われるモンスターが機能停止したことにより分解してできた魔力結晶の破片が散らばったのだ。

 踏むとガラスみてえにシャリシャリ鳴る床の上を、俺はユリウスを引きずりながら歩いて行った。


「痛い痛い痛いやめてえええええ!!

 お尻キレちゃううううう!!!!」


 ユリウスがズボンを押さえながら叫んだ。


 こいつを連れてく理由としては、召使いにして一生コキ使ってやろうってのもあるが、重要なのは道案内だ。

 脱出したにしても、ここがどこか分からねえと戻りようがねえ。

 まあ携帯できるレベルの転移石だったから、それほど遠くに飛ばされた訳ではないと思うが、それでもこいつが居た方が便利だろう。








 5分後。

 今度は10部屋まとめて壁を打ち破る。

 するとついに外が見えた。

 意外とラクだったと思いながら俺が迷宮の外に出ると。


「ん……?」


 外だと思ったそこは、断崖絶壁だった。

 しかもかなりの高度があるらしい。

 下は一面真っ白な雲海で、地面が見えなかった。

 ここはどうやらかなり高い場所にあるみてえだ。

 その割には風もそんなに強くねえし、空気もたっぷりあるが、それは恐らくここの魔力機構が関係しているのだろう。

 うちの飛空艇にも同じ機能が備わっている。


 雲海を見下ろしながらそんな事を考えていると、


「ギャハハハハハハ!!!」


 ユリウスがまた笑い出した。

 元気な奴だ。


「どうだあああ!!

 ここは空中1万メートルにあるんだぜえ!!?

 流石のお前でもどうにもならねえだろ!?

 お前はここで死ぬんだよ!!

 ざまあみやがれ!!!!

 ギャハハハハ!!!」

「俺が帰れねえってことは、お前も帰れねえってことなんだが大丈夫か?」


 俺が冷静に突っ込むと、


「ああ!! お前さえ死ねばそれでいい!!!!」


 ユリウスが、泣いてるんだか笑ってるんだか分からない顔で言った。

 こいつ自暴自棄になってやがる。


 しかし1万メートルか。

 そういえば、こいつが俺を突き落とした高度もそれぐらいだったな。

 何の因果か知らねえがちょうどいい。

 少しからかってやろう。


 俺はユリウスの首根っこを掴むと、持ち上げた。

 そのまま崖の外に突き出す。


「!?!?!」


 途端にユリウスの顔から血の気が失せた。

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