第2話 竜理と学校と東大阪と

 ―数十分後・二国ヶ丘高校職員室―


 職員室に連れて来られた竜理は、刈谷から説教を受けるのであった。


 「お前、いつもこうだな!嫌いな授業になると逃げるって、小学生か!?いや、今どきの小学生でも、している子はいないはずや。」


 「私だって、逃げたくないんです!」


 「は?何言ってんの?」


 「だから、私だって、逃げずにゆっくり大阪市内を飛んで・・・」


 「だったら授業が終わってからにしろ!!授業を抜けてまでするな!!」


 「でも門限が5時なんです・・・」


 「早く学校が終わる日もあるやろ!!とにかく、授業はちゃんと受けろ!!どうしても学校に行きたくないとか、そういう時は早めに連絡くれたら、休ませるし、対応はするから頼むよ!!」


 「は、はい・・・!!」


 「先生も毎日怒りたくないねん。分かるよな?お前の気持ちも分かるけど、先生の気持ちも分かってほしいんや!!」


 「気持ち・・・ですか?」


 「ああ!先生が怒るのは、ただ抜け出すからだけじゃないんだ。これを見てくれ。」


 厳しく注意する刈谷と、言い訳をしたり・・・かと思えばちゃんと話を聞く竜理。その注意の途中で、高性能スマホを取り出し、あるネットニュースの記事を見せる刈谷。


 『空中散歩中の女子中学生を誘拐。逮捕の男、過去にも数十人誘拐の疑い』


 「この事件、知ってます。」


 「知ってるやろ?こういうこともあるんや。それに、誘拐されるのは女子に限らず、男子もありうるんや。だから、そうならないためにも、むやみに空中散歩に行かないようしてほしいんや。大阪市内に行きたいなら、保護者か友達数人と行きなさいや。」


 「は、はい・・・」


 刈谷が厳しく注意をするのは、生徒を思っての部分があると知り、少し涙を流す竜理。それを見た刈谷は、自分の席に置いている歴史の本を取り出して、ページを開けるとサブビジョン(空中ディスプレイ)が表示され、街のイラストが描かれた画面が出てきたのである。


 「これは・・・?」


 「これは、あれや。1990年代に描かれたイラストや。」


 「え!?1990年代ってだいぶ昔ですが・・・どうして今の街並みを描けたんですか!?」


 「実はな、この当時は近く21世紀を迎えるにあたって、どのような未来になるか、たくさんの人がこのような未来を描いていたんだよ。」


 「未来を視ているようですね。」


 「時代によっては、オーパーツと思われかねないな(笑)。」


 「確かに(笑)。でも古代の人達が、こうして想像していたのは、すごいですね。」


 「それはこの人達もそうだし、その後の時代の人達の努力もあって、今が有るんだよ。」


 「本当ですね!」


 「まあ、実際は、21世紀に今のような街並みにはならなかったけどね。」


 「こんな昔から、今の街並みを想像していたなんて・・・!!」


 「実際には、1910年頃から、乗り物が飛ぶなどといった未来を、想像している人がいたんだ。」


 「さらに昔じゃないですか!?」


 「すごいでしょ!?そんな昔から、人々は今の時代を想像していたんだよ。先代の人々の思い、努力を我々現代人は理解をしていくことが、彼らの想いに答えることなんだ。」


 「素敵な話ですね!」


 「歴史の授業は受けられなかったが、先生と上条だけの授業だぞ?」


 「先生、ありがとうございます!!」


 刈谷が竜理に話したのは、古代の人々が描いた、想像していた未来についての話だが、日本史の授業が受けられなかった竜理のための、特別な授業でもあったという。


 「本当に長い歴史の中に、色々なことがあって、それらは一つ一つ、我々も記録・記憶・伝統などを受け継いでいくんだよ。じゃあ、問題!!」


 「え!?」


 深い話をしていたかと思うと、突然クイズを出してきた刈谷に、戸惑う竜理。


 「1987年の出生数は何人かな?」


 「134万6658人!!」


 「正解!やるじゃないか!!どこで調べた?」


 「ちょっと創作サイトで、古代を舞台にした小説を描いていて、1980年代の出生数の掲載された資料を見つけて、それを何度も読んでいたので分かりました!」


 「素晴らしい!!これからもしっかり勉強してくれ!!上条なら出来る!!」


 「は、はい!!ありがとうございます!!」


 「では教室に戻りなさい。」


 「はい!!」


 難しいはずのクイズに正解し、刈谷に褒められた竜理は嬉しそうであった。クイズが終わると、刈谷は竜理に、教室に戻るように言ったのである。


 「刈谷先生、横から聞いてましたが、いい話でしたね!」


 「おか先生、いい話でしたか?」


 「先生の人柄が、伝わってきますよ!」


 「いや、そんなことないですよ。私もまだまだ。でも・・・」


 「でも?」


 「上条の姿に、自分もなにか思うことがあったり、彼女の行動から学ぶことも、少なからずあるんです。」


 「私もあります。そういうことが。」


 「教師をしていると、色々学べますからね。」


 竜理との話を横で聞いていた、同僚のおか利幸としゆきが話しかけてきたので、竜理のことを話す刈谷であった。



 ―放課後・堺市上空―


 「今日は学校も終わったし、これからどこかへ行こう!!」


 学校が終わり、部活も休みのため、どこかへ行こうとする竜理。


 「さあ!!どこへ行こうかな!!」


 竜理は、ジェットパックで堺市から、東大阪市へと移動したのである。



 ―大阪府東大阪市―


 東大阪市にやってきた竜理は、市内を歩いていると、黒い財布を見つけたのだ。


 「あれ?財布だ。わ!大金が入っている!早く、交番に届けよう。」


 財布を拾い、近くの交番(とは言っても、3階建てのビルである)に行くと、受付で男性が、もう一人の男性を連れて、男性職員と話をしていたのである。


 「あの〜、黒い財布は届いてないでしょうか?」


 「まだ届いていないみたいですね。」


 「どうしようナオキ!!あの財布に大金が入っているんだ。」


 「ちょっと、さっき歩いたルートをもう一度探してみる!!最悪見つからなかったら俺が、お金を貸す!!」


 「ありがとう!!」


 どうやら黒い財布を、男性の一人が落としたというのだ。連れの男性が、何とかしようとしているときに、竜理は財布を二人のもとに持っていく。


 「あの〜、すみませんが、財布ならここにあります。」


 「あ、その財布!!お嬢ちゃん、ありがとうよ!!」


 「本当に良かったです!!」


 拾った財布は男性のものらしく、感謝されて、嬉しそうな竜理であった。その時、男性職員が竜理に声をかけてきたのである。


 「ちょっと君、いいかな?」


 「はい、何でしょうか!?」


 竜理を呼ぶ男性職員。一体なぜ呼ばれたのか、分からない竜理であった。



 【第2話・完】

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