未来時代、西暦12022年の世界をエンジョイする竜理の冒険記

市川雄一郎

第1話 竜理と西暦12022年

 ―西暦12022年10月10日・大阪府堺市―


 古代の時代となる令和時代から365万2426日経過し、大きな発展を遂げ、21世紀の前に当時の人達が描いていた未来の通りとなった西暦12022年。車や、バイクに、自転車とさらには人までが、飛べるようになったのである(人は背中に背負えるジェットパックで飛べる)。


 それだけではなく、市の掲示板や、駅の発車標などは、本体とは別に、その近くで表示される空中ディスプレイ(通称は『サブビジョン』)があり、学校で教科書を開いても、そのサブビジョンが、教科書の上で表示されるなど、ハイテク化がかなり進む未来となっていた。今回の物語はそんな時代に生きる、ある女子高生の冒険記である。




 ―同日・堺市立二国ヶ丘にくにがおか高等学校―


 あるクラスの授業中、担任の教師が苛立った口調で言う。


 「おい!上条かみじょうはどうした!?また授業に出てないぞ!」


 「先生!さっきの休み時間に、ちょっと行きたい場所があるからと、飛んでいきました!」


 「あ、あの野郎!?またなんか!?どこへ行ったか分かるか?つばさ!」


 「いや、分からないです。なあ?長崎ながさき!」


 「そうです先生!俺も分からないし、佐々木ささきにも分かりません!」


 「そうか。さっきの休み時間に、ずっと教室にいた翼なら、分かると思ったんだが。」


 「あ、先生?」


 「どうした?遠山とおやま?」


 「さっき、上条さんでしたら、僕にこんなことを言ってました。」



 ―数分前―


 教室で、本を読んでいた遠山は、本の内容を解説するサブビジョンを見ていると、一人の女子高生が、ジェットパックを背負いながら、話しかけてきたのである。


 「ねえ、遠山くん!」


 「どうしたの?上条さん?」


 「私、次の授業の教科が苦手だから、その間だけ大阪市の方に行こうかな〜?」


 「行きたい気持ちは分かるけど、勉強も大事だよ〜!」


 「そうだね!遠山くん!」


 女子高生は、遠山にそう話すと、自分の席へ向かうのであった。彼が再び本を読んでいると、別の男子高生が遠山に声をかけてきたのだ。


 「おい!遠山!ちょっと面白い話があるから来てくれ!」


 「二階堂にかいどうくん!?え!?わ、分かった!」


 男子高生がそういうと、遠山は教室を出たのであった。そして彼が戻ると、既に女子高生はいなくなっていたのだ。


 「(あれ、上条さんいないぞ。まさか・・・)」


 遠山は、女子高生がどこに行ったのか、だいたい予測をしているようであった。



 ―現在・教室―


 「ほぉ〜、なるほど。」


 「刈谷かりや先生、僕が知っているのは、これくらいです。」


 「ありがとう、遠山。帰ってきたら、上条と話をする。」


 「は、はい。」


 遠山の話を聞き、いなくなった理由を知った担任教師は、呆れた表情をするのであった。



 ―同時刻・大阪市内上空―


 その頃、ジェットパックで空を飛ぶ女子高生がいた。名前は【上条かみじょう竜理りゅうり】(16歳・高校2年生)といい、前述の学校のクラスの一人で、授業中に飛び出して、大阪市内の上空を飛んでいたのである。


 「ふぅ〜!!楽しい!!」


 「上条さ〜ん!!」


 「げっ!尾室おむろ先生だっ!?」


 「授業中に抜け出したら、いけないでしょ〜!?」


 「先生!私だけ、校外学習なんです!!」


 「そんなわけないでしょ!?逃さないわよ!!」


 空中散歩?を楽しむ竜理だったが、違うクラスの担任教師である【尾室おむろ美璃みり】(34歳・高校教諭)が、ジェットパックを装備して、追いかけてきたのである!!変な屁理屈をこねる竜理だが、当然それは通用せず、追いかけられるのであった。


 「先生、早すぎる!!」


 「高校生にしては、やけにジェットパックを使いこなしているわね。」


 逃げようにも、あまりの尾室の速さに焦る竜理。一方で、ジェットパックを使いこなしている竜理に、色々な意味で感心しながら追いかける尾室。


 「に、逃げられないか!?いや、地下鉄の駅に逃げよう!!」


 竜理は、尾室が、自分のいる方向とは別の方向を向いた途端、サッと下へと移動するのであった。


 「あ!上条さん!?ちくしょう!!見そこなったわ!!」


 そこは『見失った』という言葉が正しいのだが・・・は置いといて、竜理を見失った尾室は、そのまま空中を飛びながら探すも、突然ジェットパックからブーブーというサイレンが、鳴り始めたのである。


 「しまった!燃料切れかけているわ!!仕方ない、一旦学校へ戻るか。」


 どうやらジェットパックのサイレンが鳴ったのは、燃料切れ寸前だったという。仕方なく学校に戻る尾室だが、彼女は呟いた。


 「次の授業は、上条さんの好きな日本史なのになあ。」


 竜理は、どうやら日本史が好きなようだ。



 ―大阪市内・地下鉄御堂筋線新大阪駅―


 竜理は、とりあえず地上駅ではあるが、地下鉄の新大阪駅へと下りてきたのである。


 「尾室先生、追いかけてこない。ふぅ〜、良かった。」


 彼女は安心をしたのか、ホームのベンチで、静かに座っていると、1番線のりばの発車標の横のサブビジョンが表示され、発車標に表示されている『なかもず』行きが、江坂駅を出て、東三国駅へ向かっていると言うことが分かったのだ。


 「電車、乗ろうかな?あ、でも改札通ってないから、一度通ろうかな?」


 「見つけたぞ〜!?上条っ!!」


 「わっ!!刈谷先生っ!!」


 何と、竜理の後ろに彼女の担任である【刈谷かりや信吾しんご】(38歳・高校教諭)が、いつの間にか居たのである。竜理は逃げようとしたが、刈谷が両手の中指でバツを作ると、なぜか竜理は動けなくなったのだ。


 「逃さへんぞ。」


 「先生、許して・・・」


 「あかん。」


 刈谷は、竜理の動きを止めると、超高性能スマートフォンを取り出し、空中ディスプレイで表示された電話帳を竜理に見せて、そのまま『二国ヶ丘高校緊急連絡先』という連絡先に電話をかけたのである。


 「学校帰ったら、たくさん話をしようか。」


 「次、日本史なのですが・・・」


 「あかん。受けさせへん。」


 「そんなぁ〜!」


 「お前が抜けたから悪いんや。仕方ないやろ。あ、すみませんが刈谷です。上条を見つけたので、連れ戻します。送迎の手配をお願いします。」


 少し怒り口調で竜理と話す刈谷だが、話し中に電話が繋がったため、気さくな感じで、学校に送迎をお願いするのであった。



 ―同時刻・竜理のクラスの教室内―


 「みなさん、3時間目の授業は、日本史です。今日は『大化の改新』の『乙巳いっしの変』について、勉強したいと思います。」


 「先生!乙巳の変は、今から何日前ですか?」


 「いい質問ですね!松澤さん!え〜と、乙巳の変は、西暦で言えば645年7月10日なので、今から415万5453日前ですね!」


 同じ頃、竜理のクラスでは、日本史の授業が開始され、太古の昔と言ってもいいほどである、飛鳥時代がテーマであった。生徒の一人である【松澤まつざわ健彦たけひこ】(17歳・高校2年生)が、日本史担当の【小坂こさか和也かずや】(44歳・高校教諭)に質問をして、小坂がその質問に、空中ディスプレイに登録されていた日数計算サイトで調べて答えるという、ほのぼのとした雰囲気で授業は行われていた。


 「・・・で、討たれた蘇我そが氏ですが、長らくは悪役となっていましたが、古代・・の平成時代に、再評価の声も出て、乙巳の変は中大兄皇子なかのおおえのおうじ藤原ふじわらの鎌足かまたりのクーデターだったとされています。」


 「古代ってオモロー!!日本史やっぱ好きやわ〜!」


 「市川いちかわさん!!歴史って、面白いですよね!!先生はそう言ってもらえて、すごく嬉しいです!!」



 ―同時刻・地下鉄御堂筋線新大阪駅―


 その頃、新大阪駅のホーム上空に、車が空中停車し、窓からロープが垂れてきたのである。そのロープを刈谷が掴むと、竜理の右手首にロープを巻き、車内の教師に竜理を引き上げさせてから、自身も再び垂れてきたロープに掴まり、車内へと移動するのであった。


 「じゃあ、話をしようか上条?」


 「先生、ごめんなさい・・・」


 学校に連れもどされる竜理の顔は、非常に落ち込んでいるのであった。



 【第1話・完】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る