第26話


 デッドエンドが自由自在に星持ちの力を使えるようになってから数日が経過した。

 コツを掴んであっさりと星持ちの基本である『宿星』状態になれるようになったデッドエンドだが、その先の力である『共星』状態には安定してなる事が出来なかった。


 『共星』状態への移行成功率は約五割といった所だろうか。

 自身の意志のみで『共星』状態へとなれる確率が五割。

 まだまふぁ安定した力とはとても言えない代物だった。


 まだまだだと自嘲するデッドエンドだったが――



「そんな事は……ない。あなたの性質上……通常時で五割も成功率があれば……上出来。あなたの場合……戦いの最中の方が成功率は上がる。だから……問題ない」



 イリアは五割の成功率でも問題ないと断じた。

 デッドエンドの星であるアギトは『不屈』という願いによってその力を発揮する。

 不屈の想いは戦いの中、特に窮地きゅうちの中でこそ最も輝く。

 だからこそ、イリアはデッドエンドの仕上がりを問題ないと断じたのだ。



 もっとも、戦いは何があるか分からない。

 五割という確率が上出来だろうと、不安定である事には変わりない。

 ゆえに、イリアはデッドエンドに更なる仕上がりを要求していた。


 幸いな事にリ・レストル村の一件以降、メテオレイゲンに動きはない。

 向こうが攻めてこない限りこちらから動く必要はないだろう。

 それがイリアの考えであった。


 これらの考えはデッドエンドやその他の者にも伝達されており、その全員が納得済みである。


 ゆえに、デッドエンドとイリアはいつものように隊舎に籠って星持ちの修行をしていた。

 たまに村の外で星持ち同士のバトルをしたりと、意欲的な訓練を行っている。

 お互い本気でやり合う訳でもないので、いつものようにデッドエンドが急成長する事はなかったのだが、それでも順調な仕上がりである事は誰の間にも明らかだった。



 しかし――



「キーラ副隊長……本当にいいんですね?」


「構いません。遠慮など無用です。本気で打ち込んできてください」




 リ・レストル村の北部に存在する森林地帯。

 そこでは黒の軍服を身にまとう者達が武器を構えていた。



 身の丈ほどもある長刀をその手に構えるキーラ。

 対するは彼女の部下でもある共生国軍第49部隊の男達だ。

 


「あなたたちもこのままなど嫌でしょう? ハッキリ言ってわたくしも、そしてあなた達も今のデッドエンド様の背中を守る事は出来ません。共に戦うなど出来るはずがないのです。だから――」


「ああ、分かってますよキーラ副隊長。今の俺たちじゃ大将の足元にも及ばねえ。それくらいの差が出来ちまった。なら――」


「――差が出来たのなら埋めればいい。いや、埋めなければならない。それがあの人の部下たる俺達の使命だ。幸いというべきか、方向性は既に見えている。ならば――」


「ええ、その通りです。星持ちへと至る方法。可能かどうかは別として、道筋は見えています。イリアさんは不確実な星持ちの訓練など無駄と一蹴していましたが……今のわたくし達にはそれしかないのです。

 なにせ今はかの組織『メテオレイゲン』との戦いの最中。即戦力が求められています。

 そして、この共生国においてかの組織に対抗できるのはデッドエンド様とイリアさんのみ。他にも騎士団長のルクスさんなどもいらっしゃるかもしれませんが……それを加えたとしても戦力が圧倒的に不足している現状です。

 さて、ここであなた達に問いましょう。――――――この現状を、あなた達は良しとしますか?」


「「「するわけがないでしょうっ!!」」」


「右に同じだ。このままでいいはずがない」


「このままじゃ何のために軍人になったのか分かりゃしねぇ。俺達はあの人と一緒に戦う為に軍人になったんだっ。なのに足手まといにしかならねぇなんて……耐えられる訳がねぇだろっ!!」



 キーラの問いに当然の如く否と答える第49部隊の面々。


 この場に居るのは第49部隊の中で特にデッドエンドを慕っている者達である。

 その数キーラを除いてちょうど20名。200人以上居るデッドエンドの隊の一割程度の人数だ。


 デッドエンドの生き様に魅せられた彼らだからこそ、ただの足手まといになるなど耐えられない。

 そんな彼らの叫びに――


「――わたくしも皆さんと同じ想いです」



 心の底から同じ想いだと真摯に答えるキーラ。

 それはこの場に居る誰よりも強い想いだと言っていいだろう。

 誰よりもデッドエンドを慕い、帝国の時からずっとデッドエンドの傍から離れなかった女。それがキーラ・ブリュンステッドだ。


 経た年月の長さ=想いの強さとまでは言わないが、それでもその想いの強さたるや並々ならぬものであることがうかがえる。


「このままではわたくしもデッドエンド様と共に戦う資格のない足手まといとなるでしょう。そんなの、わたくしはごめんです。だからわたくしは強くなりたい。いつかではなく、今すぐに強くなりたいのです。ゆえに――」



 瞬間、キーラの姿がぶれる。

 デッドエンドに及ばないまでも、既に人間離れした身体能力をキーラは獲得していた。

 それらを駆使し、相対する数十人の第49部隊の仲間達へと長刀を構えながら突貫し、


「――互いに全力を尽くし、限界まで死合しあいましょう。無論、互いに加減は無用です」



 ――ブォンッ




 その巨大に過ぎる長刀を横に振るい、キーラは第49部隊の者達を打ちのめさんとする。

 だが、それで大人しくやられる彼らではない。



「させるかっ!! おい、やるぞっ!!」

「ったりめぇだっ!!」

「――ああっ!」



 ――ギィンッ

 


 横に振るわれるキーラの長刀を、三人がかりで止める第49部隊の隊員達。

 無論、それで終わる彼らではない。


「――狙い通りだっ!」

「ああ。そこまで言うならやってやるよ。悶絶しても恨むんじゃねぇぞ姐さん!!」

「言われた通り手加減はしねぇぞっ!!」


 これは20対1の戦い。

 ゆえに、当然のように兵たちはその数を活かしてキーラを攻める。

 長刀による一撃を振るった事で、キーラは致命的な隙を見せていた。


 キーラが横殴りに長刀を振るうであろうことは分かっていた。

 多人数相手にはかなり高い確率でキーラは敵を一掃すべくそうする。

 それを彼女の部下であった隊員たちは読んでいたのだ。


 ゆえにこそ、隊員たちはその隙を見逃さない。

 計算通り。上手くまってくれたと痛烈な一撃をキーラに与えるべく彼女へと肉薄する隊員達。

 だが――



「――甘いですっ!!」


 何の躊躇ちゅうちょもなく自身の獲物である長刀から手を放すキーラ。

 そうして彼女は自らに迫る兵達を徒手空拳にて相手取った。




「なっ――ぐほっ」

「ぐへっ」

「うがっごぉっ」



 多人数とはいえ、個々の身体能力ではキーラより大きく劣る彼ら。

 それは戦闘技能の面でも同じであり、だからこそ隙を狙っていた数人の隊員達は徒手空拳のキーラの一撃を喰らってしまう。


 そうして迫る数人の隊員達に有効打を与えたキーラだったが――


「――足りない」


 その表情に宿るのは達成感などではなく、焦燥だった。


「足りない。そう……足りないのですっ! この程度では全くもって足りません。戦略を練るは実に結構。素晴らしい事でしょう。

 しかし――この場ではそんな知性など必要ありません。今はただ獣のように、本能のままに戦うのみ。そうする事でわたくしは自分自身ですら知り得ない想いを知ることが出来るような……そんな気がするのです。

 だから――あなた達もなりふり構わず全力で来なさいっ! その胸に秘めた想いを高めて高めて……さすればわたくし達の強き想いは星持ちへと至り、デッドエンド様の隣で戦う資格を得るでしょう」

 

 勝つか、負けるか。

 それはとても重要な事だろう。

 勝利の為に様々な工夫をすることは当たり前の事であり、それを愚かと言うつもりは毛頭ない。



 しかし、今はそんな事どうでもいい。

 今この時に限り、勝利や敗北などどうでもいいのだ。


 ―――求めるは熱。

 知略など今は不要、今はただ星持ちとなるために必要な熱を互いに求めるのみ。

 ゆえに――


「――了解したよ副隊長殿。そう言う事ならば仕方ない。柄ではないが、隊長のように魂を震わせてみようか。ハアァァァァァァァァァァァァァァっ!!」


 第49部隊の隊員であるエルフの男。

 その男が手のひらを突き出し――そこから突風が巻き起こる。


 それは亜人種でも一部の者しか扱えない力。

 ――魔法である。


「くっ――」


 その風を真っ向から受けるキーラ。

 自身の獲物である長刀を手放し、徒手空拳にて数人の隊員達へと打撃を与えたキーラは、だからこそ成す術もなく体勢を崩される。



「しかし、あまり我々を舐めるなよ副隊長殿っ! 我らとて隊長の意志に元に集まったのだ。そんな我らを相手に一人で対抗しようなどと……本当に舐められたものだっ!! なぁ? みなもそうだろう」



「「「ったりめぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」



 雄たけびを上げながらキーラへと迫る第49部隊の隊員達。

 彼らは仲間のエルフが生み出した突風の中へと嬉々として入り、豪速でもってキーラへと迫る。


 そんな光景を見ながらキーラは薄く笑みを浮かべ――



「それでこそデッドエンド様の部下です。ですが――そのセリフはわたくしを倒してから言ってもらいましょうか!!」


 突風によって満足に体勢も整えられない中、キーラは自身の部下達に向かってそう吠えるのだった――

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