第25話


「デッドエンドはダメ。あなたが一番ここに居るべき」


 ナナとキーラは別にここから離れても問題ない。

 しかし、一番星持ちとしてまともにならなければならないデッドエンドが修行をほったらかしにして村の復興作業に手を貸すなど許さない。


 そう言外に告げるイリア。

 無論、デッドエンドとしては不服でしかなく――


「てめざっけんなよ!? さっきからなんの成果も出てねぇなんちゃって修行やる価値なんてねぇだろうが!? それなら外で建築の土木の一つでも運んでた方がよっぽど――」


「デッドエンド行くなら……イリアの部下、全員復興作業から手を引かせる」


「ぐっ――」


 口答えするデッドエンドをたったそれだけで黙らせるイリア。

 現在、リ・レストル村の復興作業は共生国軍の第49番隊と、一般の作業員、そして100人程度のイリアの部下たちによって行われている。


 そして何を隠そう、この中で一番復興作業に貢献しているのがイリアの部下たちだ。

 彼らは帝国でどのような教育を受けていたのか、周辺の作業員や第49番隊の者達に的確な指示を与え、テキパキと復興作業を進めていた。


 負傷者達への扱いも手慣れたものであり、もはや彼らなしの復興作業などあり得ないと言っても過言ではないほどになっていたのだ。


 そんな彼らが突然復興作業から手を引けば、確実に作業は滞ってしまうだろう。

 彼らの代わりにデッドエンドが作業に加わったとしてもそれは変わらない。

 なにせデッドエンドは戦闘のプロであって建築や治療のプロではないのだ。

 彼に出来るのは指示通りに木材を運んだり、邪魔なものを片づける程度。


 そんなデッドエンドとイリアの部下達。

 どちらの方が復興作業の役に立つかなど、火を見るより明らかである。





 だからこそ、デッドエンドはイリアの言葉に止まらざるを得ない。

 なにせ自分が復興作業に手を貸せば民衆の為になるどころか邪魔にしかならない。そう言われているのだ。

 現在復興作業に最も尽力してくれているイリアの部下。それらを復興作業から取り除くなど復興作業の邪魔、もとい妨害でしかない。

 

 それが分かっていて動けるデッドエンドである訳もなく――


「ちっ――」


 そう舌打ちしてその場に留まるデッドエンド。

 あからさまに不服そうではあるが、それでも修行に専念する事にしたらしい。


「イリアさん……デッドエンドの扱い方が分かってるなぁ……」


「ん……デッドエンド……分かりやすい。行動原理……一貫してる。だから……そこを突いたら簡単」


 まだ日も浅いのにデッドエンドの行動原理を完全把握するイリアに、ナナは関心すると共にそう言葉を漏らす。

 そんな散々な言われようのデッドエンドだったが――



「ちっ――」



 舌打ちするのみで、特に言い返したりはしなかった。

 残念な事に全てイリアの言う通りであり、反論の余地がないからである。

 さすがのデッドエンドにもその程度の事は理解できていた。


 そんな圧倒的優位に居るイリアだが、

 

「でも――だからこそ困ってる。デッドエンドの特性は理解できた。だけど、デッドエンドの星持ちとしての力……どうすれば発揮できるか分からない」



 デッドエンドの事を良く理解できたからこそ、どん詰まりなのだと悩むイリア。


 いっその事デッドエンドが抱いた願いを彼自身に告げてしまうか、はたまた告げずにこのまま続けるか。もしくは別のアプローチを考えるべきか……凄まじい勢いで彼女の頭の中でどうするかという計算が行われていく。


 ――だからだろうか?


「ところでイリアさん? シェロウの星って結局なんなんですか?」


「デッドエンドの星は『諦めない事』。どんな困難でも最後まで立ち向か………………あ――」


 他の事にあまり気を割いていなかったイリアは、ナナの疑問に無意識で答えていた。



「へぇ……確かにシェロウらしいかも。ま、精々頑張って――」



 隊舎から出る間際、シェロウに労いの言葉をかけるナナ。

 その時だった――



「なぁんだ。それを早く言えよ」



 ――カッ



 隊舎の中を赤い眩きが支配する。



「気合を入れろ気合を入れろって言うもんだからそうしてたけどよぉ。それ(気合)とこれ(諦めない)とは全然違うだろうが。なぁアギト?」



『――同感だな。しかし、その娘の考えは理解できる。おそらく、お前を案じての対策だったのだろうよ。もっとも、意味はなかったようだがな』


「ああ? どういう事だ?」


『簡単な話だ。お前が自分自身の願いを自覚した時、その輝きが損なわれる事を危惧したのだろうよ。つまり――』


 そう言ってデッドエンドに宿った星であるアギトは自らの見解を述べていく。

 それはイリアが懸念けねんしていた通りのものだった。


 諦めないという星の性質上、先に諦めない事で状況が打破できると知ってしまえばデッドエンドが『諦めない』と強く想えない可能性が出てくる。

 ゆえにイリアはデッドエンドの星の性質を今まで言わなかったのだろう。アギトはそう語った。


『――と。私の考えではこの通りだが……何か異論はあるか、滅びに魅入られし娘よ』

 

「――ん。合ってる。でも、余計な心配だった」


 ほっと一息をつくイリア。

 拍子抜けした感もある彼女ではあるが、上手くいったのであれば言う事はない。

 

「な、なんか上手くいったみたいね……。今のを見てたらやっぱり簡単に星持ちになれそうな気がするけど……」


「――無理。これ、デッドエンドだからと言う他にない。少なくともイリアはこんなに単純になれなかった」


「おい」


 やり遂げたデッドエンドに対してもどこか辛辣なイリア。

 さすがのデッドエンドもジト目で抗議の声を上げるが、


「――そうよね。コイツだからそう見えちゃうだけって言われたら納得するしかないよね」


「………………(おーい)」


 誰もデッドエンドに味方してくれる者はおらず、その抗議の声は黙殺される。


「それじゃ、私は行くから。キーラも程ほどにしときなよ? シェロウは……まぁ……うん。私が何を言っても頑張るんだろうから何も言わないわ」


「それもう言ってるのと同じだろうが」



 隊舎から去るナナにデッドエンドはそう突っ込むが、しかしナナは「ふふっ」と微笑むだけで、そのままリ・レストル村の復興作業の方に向かったのだった――


 そして――


「心配してくださりありがとうございます、ナナさん。しかし――このままではわたくしの存在価値はないのと同義。わたくしの愛するデッドエンド様。彼が戦う戦場にて傍で尽くす事こそがわたくしの望み。それでこそわたくしは自身に価値を見出せるのです。だから――」



 誰もが気づかぬ中、キーラは儚げな笑みを浮かべるのだった――



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