第24話


 ――リ・レストル村(復興作業中)隊舎内


 イリアとデッドエンドの衝突から数日後。

 幸いと言うべきか、デッドエンドの全力の拳を受けたイリアは重症を負いはしたものの一命は取り留めた。

 その後、彼女が帝国から連れて来たという一隊がリ・レストル村へと訪れ、その中に居た凄腕の治癒師によってイリアとデッドエンドの傷はものの数分で完治。


 そうして五体満足となったイリアとデッドエンドは今――


「星持ちにとって大切なのは……自身の想いを強く保つ事。だから……宿星状態のまま三時間くらい過ごして」


「――ったく。仕方ねぇな。行くぜ……むんっ――」


「……全然ダメ。宿星状態にもなってない」


 ――星持ちとしての修行をしていた。


 星持ちとしての力を自由自在に出来るイリアと、なんとなくでしかその力を行使できないデッドエンド。

 ゆえに、完治するなりイリアは言ったのだ。


『イリアがデッドエンドを鍛える。あなたは戦力になる。けど……まだ不安定。だからそこを矯正する』



 そうしてデッドエンドの星持ちとしての修行が始まったのである。

 始まったのだが――


「あぁ? これもダメか。なら……はぁぁぁぁぁぁっ――」



 イリアにダメ出しをされたデッドエンドが、両の拳を固く握り、雄たけびを上げながらその全身に力を入れる。

 しかし――何も起こらない。


「……真面目にやって」


 そんなデッドエンドの脳天へと振り下ろされるイリアのかかと落とし。


「あだぁっ!?」


 無論、十二分に手加減はされているものであるし、件の滅びのオーラなどは纏っていない一撃だが……痛いものは痛い。

 不意打ちでも喰らったかのようにして、デッドエンドはそのまま地面にうつぶせで倒れこむ。

 しかしすぐに顔を上げ――


「うっせぇなバカ野郎! 真面目にやってだぁ? こちとら最初っから真面目だっつってんだろがっ」


 星持ちとしての師匠であるイリアに食って掛かるデッドエンド。

 修行が始まってからというもの、二人はずっとこの調子である。


 デッドエンドを星持ちとして安定した戦力としたいイリア。

 それに異論はないデッドエンド。



 しかし、今の所芳しい結果は出ておらず、双方ともに望まないものとなってしまっている。

 修行が始まってからというもの、デッドエンドは星持ちとしての初期段階である『宿星』を維持するどころか、その状態にすらなれていないのだ。 


 もっとも、これはデッドエンドだけが悪いわけではなく――


「気合を入れるだけじゃ……ダメ。そう……えぇっと……もっと気合を入れる感じじゃないとダメ?」


「ダメ? じゃねぇよ知るかよ!? ってか気合なら全力全開マックスで入れてただろうがぁぁぁ!」



 単純にイリアの教え方が悪いのだ。

 しかし、無理もないだろう。


 星持ちとしての力を発揮するためには、自身が星持ちとなった時のような強き想いを再度抱かなければならない。

 イリアの場合は『~~をこの世から消し去りたい』という想いを。

 デッドエンドの場合は『絶対に諦めない』という想いを抱く必要があるのだ。


 そんな強き想いを抱いた時にこそ、彼らは星持ちとしての力を発揮できる。


 イリアの場合、それは簡単だ。

 彼女の星持ちとしての根源の想いは主に『怒り』。

 ゆえに、憎き存在を思い浮かべれば幾らでも『~~をこの世から消し去りたい』という想いは湧き、星持ちとしての力を容易に行使できる。


 しかし、デッドエンドの場合はそれが難しい。

 彼の星持ちとしての根源の想いは『勇気』だ。

 追い詰められ、恐怖を感じ、しかしそれらを克服した時にこそ勇気は無限に湧いてくる。

 ゆえに、デッドエンドが星持ちとしての力を行使するには彼が『逆境』であればあるほど望ましいのである。




 だが、厄介な事にデッドエンドはこの事実を知らない方が良い。

 この事実を知るとデッドエンドにとって『逆境』が『逆境』でなくなるからだ。


 逆境でこそ自分が覚醒すると先にネタバラシされた状態で、勇気など湧いてくるだろうか?

 無論、何の問題もなく湧いてくる人種も居るだろう。

 しかし、デッドエンドがそういう人種かは分からない。


 だからこそ、イリアはデッドエンドに的確なアドバイスが出来ないでいるのだ。

 デッドエンドの抱くべき想いが『絶対に諦めない』事だと、そう教える事は簡単だ。

 しかし、そうすればデッドエンドは必ず自身の星持ちとしての力に気づく。気づいてしまう。


 だからこそイリアは遠回しに「気合を入れて」というアドバイスをしているのだが――



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。セイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァッ――」


 イリアのアドバイス通り、全力全開で気合を入れるデッドエンド。

 しかし……やはり何も起こらない――


「――全然ダメ。やり直し」


「あでぇっ!?」

 

 その脳天に再びかかと落としを喰らうデッドエンド。

 イリアは嘆息たんそくし、やはり方針を変えるべきかと検討を始める。



(デッドエンド自身にその想いを自覚させるのは危険。もしかしたら星持ちとしての力を二度と発揮できなくなるかもしれない。

 でも――このままじゃ安定性に欠けすぎる。今の完成度じゃメテオレイゲンには……エルハザードには勝てない。なら……いっそ全てを明かして賭けに出るべき?)



 あまりにも成果の出ない修行結果にイリアはデッドエンドへの修行内容を見直す事を考えるが、しかし容易に決断は出来ない。

 失敗すれば全てがご破算なのだ。だから――



「イリアさん。星持ちとして覚醒するには常人には到達し得ない程の想いが必要との事でしたが……どのような想いを抱けば良いのでしょうか?」


「ねぇイリアさん。想いを抱いただけで本当に魔法みたいな力が使えるようになるんですか? それならみーんな星持ちになっちゃえばいいと思うんですけど……」


 そう悩むイリアへと同じ隊舎に居たキーラとナナが星持ちについて尋ねる。

 彼女らはデッドエンドとは違い、星持ちではないものの、そこへの至る方法を知りたいと言う理由でデッドエンドとイリアの修行に同席していた。



「どんな想いを抱くかなんて……人それぞれ。イリアはお饅頭まんじゅうが好き。だけど……みんながそうじゃない……でしょ? そう言う事」


「は、はぁ……なるほど」


 例える物がお饅頭になっているせいで素直に頷けないキーラ。

 とはいえ、イリアの言いたいことは何となく分かった様子。

 要するに、誰が何を強く想うかなど人それぞれという事だ。


「そして……強い想いを抱くのはそんなに簡単な事……じゃない。人間は……雑念が多い。だから……たった一つの強い想いを抱くの……難しい。軍としても……全員に星持ちの修行みたいなのさせるくらいなら……剣でも振らせてた方がマシ。星持ちになれなかったら無意味だし……なれる人なんてほとんど居ないから無駄になる」


「ふーん。強い想いを抱くだけって聞くとなんだか簡単そうに聞こえるけど……そういうものなんだ?」


「そういうもの」



 ナナもその答えに満足したのか、隊舎の椅子に腰かけ、足をぶらぶらさせながら納得していた。


「わたくしもデッドエンド様のお役に立ちたいのですが……しかし困りましたね。わたくしの抱くべき強き想いってなんなのでしょうか?」


「キーラはアレだよね。中途半端に頭が良いから一つの事で頭一杯にするのって難しそう」


「そうですね……あれ? ナナさん。今、わたくしの事を何とおっしゃいました?」


「え? 頭が良いから一つの強いを抱くの難しそうだな~って言っただけだけど?」


「そ、そうでしたか? それならいいのですけれど……」


「私は……もういいかなぁ。なんか簡単に星持ちになれるっていうなら頑張ってみたい気もするけど、そうじゃなさそうだし。そうでなくても私、シェロウみたいに一つの事に馬鹿みたいに取り組むなんて性格じゃないもの」


 キーラとの問答の末に、ナナはぴょんと椅子から立ち上がる。


「ここで私に出来る事はなさそうだし、村の方を手伝ってくるわ。二人はどうする?」


「わたくしはまだ努力してみようかと思います。最近のわたくしは戦闘面でデッドエンド様の力になれていませんからね。足掻いてみたいのです」


 ナナの問いにそう返すキーラ。

 そして――


「うっし。俺も何の成果も出てねぇしな。ちょいと外の復興作業をてつだっ――ぐえぇっ!?」


 ナナの誘いに乗ってリ・レストル村の復興作業の方に向かおうとするデッドエンドだが、その首根っこをイリアが掴む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る