第18話


 ――リ・レストル村(復興作業中)

 


「――はぁ!? 帝都を崩壊させたあい――むぐっ」


「バッカ野郎っ!! そんな大声出すんじゃねえ!! 万が一にでも洩れたら大変なことになるだろうが!!!」


「あの……デッドエンド様も落ち着いてください。ナナさんよりデッドエンド様の方が目立ってしまっていますよ?」



 女王フレデリカとの話し合いを終え、デッドエンドとキーラはリ・レストル村へと戻ってきていた。

 そして、リ・レストル村の復興作業に当たっていたナナへと女王との話し合いを経て得た情報を話し――その全てを話し終えたところでナナが大声を上げそうになったので、咄嗟にデッドエンドがその口を押さえたという展開である。


 デッドエンド達三人は周囲に居る人々に「な、なんでもねぇよっ。それより全員手が止まってんぞ」と誤魔化しながらそそくさとリ・レストル村に仮設された軍の隊舎へと非難する。


 そこでデッドエンドはそれまで押さえていたナナの口から手を放し、


「いいかナナ? さっきのメテオレイゲン云々はまだ共生国の支配者層にしか知らされてない情報だ。もし、この事が国民に知られたら――」


「――ぷはぁっ。――――そんなの分かってるわよ。知られたら間違いなくパニックになるわ。ただ、シェロウの方こそ話す場所を考えなさいよ。なんであんな人の居る所でそんな話を始めるのよ」


「いや、お前なら案外軽く流すかな~って。ほら、お前って図太い所あるだろ?」


「そ・う・ねぇ!! でもシェロウの図太さには負けるんじゃないかしらぁ?」



 ――ぐりぃっ



 ナナがシェロウことデッドエンドの左腕を強く握る。

 普段ならばそんな事をされても痛くもかゆくもないデッドエンド。

 しかし、今の彼は治療中の身。加えて言えば、その左腕は特に傷ついていた部位であり――


「――~~~~~~~っ。いってぇだろうがざっけんなぁぁっ!! 何してくれてんだこのボケナスがぁっ! てめぇ、それでも49部隊の医療担当か!?」


「アンタの方こそざっけんじゃないわよっ。勝手にほいほい危険なとこに突っ込んで。待ってるこっちの身にもなりなさいよ。いい加減にしないとアンタの全身の骨折って一生ベッドに縫い付けるわよ!?」


「とても医療担当の言葉とは思えねぇ!?」


「ま、まぁまぁ。デッドエンド様、落ち着いてください。こう見えてナナさんもデッドエンド様の心配をしていたんですから。特に今回、この村での戦闘で傷ついたデッドエンド様の傷を見たナナさんの取り乱しようと言ったら――」


「は? ちょっと。勝手なこと言わないでよキーラ。あれは違うし。あれは……そうっ。戦闘後のこいつがあまりにも汗臭かったからびっくりしただけよっ!」


「お前は鬼か」


 隊舎にてぎゃあぎゃあと騒ぐデッドエンドとナナ。

 それを何十分と続け、ようやく収まったころ――



「それで、デッドエンド様はこれからどうするつもりなのですか? 女王はああ仰っていましたが――」


 そんなキーラの言葉に、デッドエンドは女王との話し合いの最期、言われた事を思い返す。


『ま、どうするのかはデッドエンドが決めていいわ。そもそも、アンタは他人に指図されるのが嫌いな性質たちでしょう? 私の考えは伝えた。後はあなた次第よ――』


 実際、女王の言う通りであり、デッドエンドは女王の言う事だろうが神様の言う事だろうが、気に喰わない事をする気は一切ない。

 今回、王宮への招集に応じたのはそれが必要だと感じたからだ。デッドエンドがその気なら突っぱねていた事だろう。

 無論、そうして場合デッドエンドの立場は共生国内において更に悪い物になっただろうが、そんな事を気にするデッドエンドではない。


 しかし――


「どうするも何もねぇよ。軍人がやる事はただ一つ。民を守る事だろうが。女王さんが何を考えてようがそこは変わらねえ。まらメテオレイゲンとかいうクソ共が現れるようならその時は俺がアァァァァァァァァァァァァァ――」


 突然奇声を上げるデッドエンド。

 理由は明白で、その左腕を医療担当? のナナがゲシゲシと足で蹴っているからだ。


「アンタはっ怪我人っでしょうがっ! ちょっとはっ安静にっしなさいってのよっ。民衆守る云々っよりもっまずは自分の身体を大事にっしなさいっ!!」


「い、いだだだだだっ。折れ……折れる……折れるってやめろぉっ」


「うっさいっ! っていうか、折れるじゃなくてもう折れてんのよっ。せめてくっつくまでは安静にしてなさいっ!!」


「そ、それでも俺は……俺はぁっ――」



「ああもうっ! じゃあ言い方を変えてあげる。シェロウ、アンタこんなボロボロの状態でメテオレイゲンとかいう変なのに勝てると。本気でそう思ってるの? もちろん、その状態でもアンタの事だから幾人かの民は救えるかもしれないでしょうよ。

 ――でも、その場合アンタはほぼ確実に死ぬ」


「ああそうだろうな。だが、それがどうした? 幾人かでも救えるなら俺は――」


「ふーん。それじゃあ、頼りのアンタが死んだ後はメテオレイゲンってのに民衆がいーーっぱい殺されるだろうけど、それはいいんだ?

 アンタが生きてたらもーーっとたくさんの民衆を救えるだろうし、なんなら女王様の希望的観測とやらが上手くはまれば元凶であるメテオレイゲンを倒せてこの国に平和が訪れて万事めでたしになるかもしれないっていうのに――――――そういうのはどうでもいいんだ?」


「うぐっ――」


 弱い所を突かれるデッドエンド。

 言った通り、デッドエンドとしては再びメテオレイゲンが現れれば負傷中だろうがなんだろうが打って出たい。例えそれで自分が死んでも、幾人かでも民を守る盾となれるなら本望だ。


 しかし、この身は盾ではなく矛。

 デッドエンドとは民衆の敵へと向けられる矛の名である。

 矛の本領とは敵を滅ぼすこと。


 しかし、敵が現れたと勇んで走ったとて、修理中で半壊状態の矛など振り回しても十全な結果など残せるはずもないだろう。まして敵が強大だと言うなら折れて当然だ。

 戦果ゼロになるとまでは言わないが、その本領が発揮されないのは火を見るより明らかである。


 しっかりと修理と言う名の治療を終えて、その本領を発揮できるようになれば元凶となる敵ことメテオレイゲンを駆逐できるかもしれない。

 だというのに、我慢が出来ないからという理由でそれを放棄するのは矛として、軍人として正しいのかと問われれば――それはやはり否だ。

 ゆえに、デッドエンドは言い返せない。



「勝負あり……ですね。ふふ、さすがはナナさん。デッドエンド様の事をよく分かっていらっしゃいますね。少し妬けちゃいます」


「そんなことないわよ。キーラの方がこいつと付き合い長いんだし、私よりもこいつの事を分かってるでしょ?」


「ふふ、どうでしょうか? 少なくともわたくしでは猛るデッドエンド様は止められませんでしたよ?」


「それは『止められない』じゃなくて『止めない』だけでしょ? キーラってばこいつの言う事なら基本的になんでも全肯定するんだから」


「しょうがありません。デッドエンド様は強いですから。しかも、今回の一件で星持ちにまでなられてその強さは増すばかり。そんなデッドエンド様に従う事がわたくしの喜び。強い男に従う事こそ、女の幸せというものでしょう?」


「何度も言ってるけど、私はそれ共感できないからね?」


「それは残念」



 隊舎にてデッドエンド達のそんなやりとりが交わされる。

 その結果、デッドエンドはナナの言うとおり療養に専念し、仮にメテオレイゲンが現れたとしても無闇に突っ込まないことをナナによって約束させられ――



「――――――邪魔する」


 その時、隊舎に第三者の声が響く。


 声の主であるその黒髪の少女はズカズカとデッドエンド達の前へと躍り出る。

 そう、彼女こそは――


「――イリア・ルージック」


 元帝国軍第五将、イリア・ルージック。

 帝国で5番目に強いとされていた者が今、デッドエンド達の眼前に現れたのである。

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