第17話

「「――!?」



 突如キーラとデッドエンドことシェロウの隠していた真実を引き出すフレデリカ。

 少なからず動揺する二人に、フレデリカは深いため息をつき――



「あのねぇ……気づかない訳がないでしょう? デッドエンド、キーラ、ナナ。あなた達三人が共生国で初めて確認された場所、時間、そして今までの言動。それらを鑑みれば三人が帝国から来たことなんて丸わかりよ。そうなれば後は簡単。帝国の内情についてはこちらもある程度探りは入れていたから、それと三人の特徴を合わせてみればすぐに答えは出たわ。

 ――まぁ、ナナに関してはよく分からなかったけれどね」



 あっさりと、デッドエンド達が隠していた秘密なんてとっくに把握していたと語るフレデリカ。

 唯一、ナナに関してだけはその素性が分からないと零す彼女だが。 


「そりゃそうだ。あいつはただの村娘だからな。共生国の探りってのがどんなもんか詳しくは俺も知らねえが、それでも村の一人一人把握できるほどでもあるめぇよ」



 そうしてデッドエンドは「そんな事より」と続け、



「それで? 俺達の事を知って女王様はどうするつもりだ?」



 デッドエンドは真剣な顔で女王であるフレデリカにそう問いかけた。

 この状況、元帝国軍人であるデッドエンドとキーラの使い道はいくらでもあるだろう。


 かのメテオレイゲンを共生国へと呼び寄せたのはコイツラだと汚名を被せるのもよし。

 あるいはそれを盾にして最前線で死ぬまで戦えと命令するもよし。

 デッドエンドにはそれくらいの事しか思いつかないが、それでも自分よりも聡明なフレデリカなら自分達の活用法などそれこそ幾らでも考え付くはずで――

 



「え? 別にどうするつもりもないけど? あ、なんなら私と結婚して共生国の王様にでもなってみる?」


 あっけらかんと。

 そう言ってのける女王フレデリカに、その場に居るステラ以外の全員の目が点になる。


 そうしてしばらくの静寂の後、デッドエンドが自身の頭を片手で軽く押さえながらフレデリカへと尋ねる。


「いや……ん? んん? えっと……なんだ? お前、オレの事好きなのか?」


「まぁ……そこそこ?」


「そこそこかよ」


「えぇ、そこそこ。アンタの子供なら孕んでもまぁいっかなーって思える程度ね。あ、一応私はまだ処女だから本気でヤるなら優しくお願いね」


「お前のそこそこが俺には分からない……」



 珍しく翻弄されるデッドエンド。

 そんなデッドエンドにフレデリカはケラケラと笑いながら続ける。



「いやいや、これって案外私としても悪い話じゃないのよ。だってアンタが王様になったらその性格上絶対に前線に立ってこの国を守ってくれようとしてくれるでしょう? そして王のそんな姿に民は希望を見る。

 それと、星持ちは想いの強さがそのまま特異能力に直結するって聞いたわ。王は民の期待を背負う者。アンタがどういう想いを抱いて星持ちに至ったのかまでは分からないけれど、その想いはきっと重責を担う事でより強い物になる。それならいっそのこと、王様っていう重責を背負わせるのもアリだと思うのよ。あと他には――」





 そうしてデッドエンドが共生国の王となった場合のメリットを一つ一つ上げていくフレデリカ。

 そこに照れた様子など微塵もない。

 完全なるロジカル思考により導き出されたメリットの数々をフレデリカは上げているのみだった。

 


「――ふぅ」



 ひとしきりメリットを言い終えたフレデリカ。

 彼女は試すような瞳をデッドエンドへと向け、



「さて――私としてはこの求婚、答えて頂けると嬉しいのですけれど……どうでしょうか? デッドエンドさん」



 シュタっと腰かけていたベッドから立ち上がり、女王モードでデッドエンドの頬へと手を伸ばすフレデリカ。

 しかし――



「んな求婚があってたまるか。当然答えはノーだ馬鹿野郎」



 スパァンッ――



 否定の言葉と共に、デッドエンドはフレデリカが伸ばしてきたその腕を払う。

 そうすると、



「――あっそ。それじゃ最後の方法その三であるデッドエンドが王様になって共生国の士気を上げよう作戦は破棄ね。正直、これが一番妥当なんだけれどね~」



 再び女王モードから少女モードへと切り替わったフレデリカはボスンと再びベッドへと腰かけ、さして残念そうなそぶりも見せないまま方法その三とやらを破棄と告げる。


 一瞬、『何のことだ?』と頭の上に疑問符を浮かべたデッドエンド達だったが、すぐにこれがメテオレイゲンに対抗する策の一つだったのだと気づき――



「結局俺頼りじゃねぇかよふっざけんなっ! もうちょいまともな案は出せねえのか女王様よぉ」



 方法その一を除けばどれもデッドエンドという個人頼り。

 そんなものを作戦と呼べるはずもない。

 もう少し真剣に考えろと言わんばかりのデッドエンドだが――



「――しょうがないでしょっ! 相手がそもそもまともじゃないのよっ。なによメテオレイゲンって!? そもそも、星持ちってそこまで規格外の存在じゃないはずでしょ?

 私の知ってる星持ちっていうのは数十人でかからないと厳しい個人の事で、つまり決して対処不可能な存在じゃないのよ。

 それが何? たかだか数十数百の戦力で帝都を滅ぼす? 配下の星持ちですら一軍を軽く蹴散らせるほどの実力? そんなの軽く常軌を逸してるのよ。そんな物を相手にまともな作戦なんて立てられる訳があるかぁっ! 文句あるならアンタが作戦立てろってーのよっ!!」


 文句があるならその『まともな案』とやらをてめぇで考えろとキレる女王ことフレデリカ。

 さしものデッドエンドも「お、おぉぅ……」と気圧されたように数歩後ろに下がる。


 一方、溜め込んでいたものを吐き出したフレデリカは腰かけていたベッドへとボスンと仰向けに倒れ、続ける。



「――ま、そういう訳よ。そもそも、今の共生国うちは身内で喧嘩するような有様なのよ? 所詮は他国から流れて来た負け犬が集まる負け犬国家。そんな負け犬達がどうこうしても帝都を滅ぼしたメテオレイゲンの相手なんて出来る訳がない。それならまだデッドエンドみたいなのに頑張ってもらって、負け犬はその補佐に回らせる方がマシ。そうは思わない?」


 そうやってぶっちゃけるフレデリカに対して誰も何も言えなかったのだった――

 


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