第19話


「え、この人が?」


「なぜこのような場所へ……」


 その名を聞いたばかりのナナと、王宮で彼女を見たばかりのキーラが少なからず動揺を露わにする。


 そうして固まっている二人。

 ゆえに、デッドエンドは動いた。


「これはこれはイリア様。このような何もない所へ一体何のようですかねぇ? もしや村の復興作業に協力して頂けるとか?」


 突然現れたイリアに対し、デッドエンドはへりくだった調子で対応する。

 無論、イリアがここに来た理由はリ・レストル村の復興作業協力の為などでは決してないだろう。

 しかし――


「違う。村とか……イリアには関係ない……どうでもいい」


「――っ。あ、あー。そうでしたかー。では、もしや自分に何か用でも?」


 こめかみをピクピクとさせながら、しかしデッドエンドは笑顔を絶やさない。


 一応、イリアは今のところデッドエンド達の……共生国の味方だ。

 しかも、その実力はデッドエンドすらも上回るかもしれない程のもの。


 元第九将のデッドエンドと元第五将のイリアではイリアに軍配が上がりそうなものだが、帝国軍で評価される強さの基準とは知力や戦闘力を総合したものだ。

 ゆえに、序列的に劣っていた過去のデッドエンドが単純な戦闘力でイリアに劣っていたかと言われると必ずしもそういう訳ではない。



 とはいえ、イリアが星持ちであり、強者であるのは紛れもない事実。



 デッドエンドとしても療養中の今、そんなのの相手はしたくない。だからこそ今は我慢の時である。


「そう。あなたに用がある。けど……そうじゃない。――違う。そうじゃなくなった」


「はぁ?」


 イリアの言っていることがイマイチ理解できないデッドエンド。

 それは傍らに控えるナナやキーラも同様だ。


 彼女らはデッドエンドが先にイリアへと最初に切り込んでくれたおかげで、ある程度落ち着きを取り戻す事ができた。

 しかし、それでもイリアの言う事は要領をえず、何を言いたいのかがイマイチ分からない。

 


 そんな三人の様子を見ているのか見ていないのか、イリアの視線はナナへと向けられ――



 ――ドォンッ




 隊舎にて響き渡る轟音。

 


「――何のつもりだ?」


 先ほどまでのへりくだった態度を消し去り、デッドエンドはイリアへと尋ねる。


「その女……あなたの邪魔。あなた……えっと……デッドエンド? の戦う邪魔になる」




「ほぉう。……で?」


「――その女が居なくなれば……デッドエンドは戦えるようになる。だから……殺す」 



 振り上げられたイリアの右足をデッドエンドがガッシリと掴む中、淡々とイリアは言う。

 それは、イリアが繰り出した蹴りをデッドエンドが受け止めた結果だ。


 そうしていなければ――確実にナナは顔面をぶち抜かれ、脳漿のうしょうを撒き散らしていた事だろう。

 紛れもない殺意の籠った一撃。


 もはや疑うまでもない。

 イリアは非戦闘員であるナナを殺す気なのだ――



「デッドエンド様――」


「シェロウッ!」


「キーラ、ナナを下がらせろっ! こいつは――」



 そうしてデッドエンドの意識が一瞬キーラ達へと向いた瞬間。



「――ふっ」



 デッドエンドにその右足を掴まれたままのイリアは勢いよく地面を蹴ってその身をよじり――

 そうして、隙を生じさせたデッドエンドの顔面へとその左足を叩きこんだ。



「ぬ……ぐっ――」


 その衝撃により後ろに吹き飛びそうになるが、必死にこらえる。

 しかし、それでもダメージはでかかったのか、思わず掴んでいたイリアの右足からその手を放してしまう。


「デッドエンド様!?」

「シェロウ!?」



「もたもたすんな、さっさと行けぇっ! ナナが傍に居ると思いっきり暴れられねえだろうがっ!!」


「――っ。承知しました。すぐに加勢に参ります」


「シェロウ……私は――」


「さぁ、行きますよナナさん」


「キーラ……分かった。死なないでね、シェロウ」



 そうして隊舎から非難するキーラとナナ。

 そうして二人が逃げる中、イリアは「ん?」と首をかしげ――



「シェロウ? どこかで聞いた名前。あなた……やっぱりどこかでイリアと会ったこと……ある?」


「――あぁ、なんだ。どうりで反応が薄いと思ったぜ」



 元帝国軍同士のイリアとデッドエンドだが、その事を覚えていたのはデッドエンドだけだったらしい事をデッドエンドはその一言で悟る。


 道理で王宮で目が合った時もイリア側の反応が薄いわけだとデッドエンドは納得して――



「元帝国軍第九将――シェロウ・ザ・デッドエンドだ」


 拳を構えながらそう名乗るデッドエンド。

 その名乗りを聞いてイリアは「元帝国軍? 第九将?」と小さく呟き、


「――――――あ……思い出した。けど……そんな、ヘンテコな名前だった?」


 ようやく元同僚であったデッドエンドの事を思い出し、しかし再び首をかしげるイリア。


 実際、彼女の疑問はもっともで、『シェロウ・ザ・デッドエンド』という名は共生国へと移住したシェロウ・キディランドが自らに付けた新しい名前だ。その名をイリアが知る訳もない。

 ゆえに、ヘンテコな名前と評した訳だが――


 そんなまっとうな疑問を抱くイリアをデッドエンドは「――ハッ!」と鼻で笑う。


「センスねぇなぁ元五将様ぁ! これは俺の覚悟の証。俺の守るべき人々を傷つけるバカをぜってぇに殺すと誓った名。言わば魂に刻まれた俺の誇りだっ! ってか、普通にカッケェ名前だろうがよ。

 ――つっても、誇りだの誓いだのカッコイイだのなんて女には分かんねぇ話か」


 女には分からない男のロマン。

 それらを誇らしげに語るデッドエンド。



「――誇りもカッコイイも分からない。けど………………誓いならイリアにもある」



 そして。

 元帝国軍第五将イリア・ルージックが星持ちとしてその本領を見せる。



「――落ちよ我が星。この身に宿りて地上にて輝きを示せ」

 

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