第15話



「「「はぁっ!?」」」


 帝国が既に滅びている。

 その知らせは、諸侯が驚くのに値するものだった。



「お、お待ちください女王陛下。さすがにそのような大事、我らの耳に入らぬわけがないのですが――」


「そ、その通りですっ! いくらなんでも冗談が過ぎるというものでしょうっ!」



 軍事帝国レスレクチオン。

 この大陸レギンスレイヴェンにおいて最も武力を持っていると言われている国。

 その国が滅んだなどと言われて、信じられるわけがない。


 しかし――


「事実です。もっとも、正確には帝都のみが滅びたと言うべきでしょうね。帝都外に居る帝国の民は今のところ健在で、肝心の帝都の情報はほぼ封鎖されています。その為、そこまで目立った騒ぎも起きていないようです」



 帝国の中心である帝都の滅び。

 それは確かに帝国が滅びたのと同義だ。

 帝都以外に居る帝国民は健在で騒ぎも起きていないと女王は言うが、その状態も長くは続かないだろう。


 国は民あってのものだという言葉があるが、だからといって統治する側が完全に不要などと言う事はあり得ない。時間が経つごとに様々な問題が帝国内で起きる事は間違いなかった。



「そしてその帝都から難を逃れ、我が国へとその報を持って駆けこんでくれたのが彼女――イリア・ルージックさんという訳です。そして、ありがたい事に彼女は帝都にて生き残った幾人かの兵を連れてきており、メテオレイゲンを相手にするなら手を貸してくださると言ってくださっています。と――ここまでは理解できたでしょうか?」



 そう言って女王は諸侯を見渡した。

 対する諸侯はと言えば……その殆どが言葉を失っていた。

 

 

 信じられない。

 否。信じたくない。

 多くの諸侯はそう考えていた。


 無理もないだろう。なにせ、どれもこれも彼らの今までの常識を逸脱した緊急事態だ。

 しかし、ならば嘘だと断じれるかと言われればそれも出来ない。

 なぜなら、彼らは知っているからだ。


 女王がこんな所で自分達を騙す益などない事を。

 そして――彼らの多くは星持ちなる存在を知らないが、それに近しい存在ならば知っていた。


 共生国軍第49部隊隊長――デッドエンド。


 彼の勇姿を見た者は共生国内に数多く存在する。

 彼らの知るデッドエンドは星持ちでこそないが、それでも常識外の力を持った存在だった。それこそ、単騎で戦況を変え得る存在であり、だからこそ多くの者がデッドエンドのその力がいつか自分達に向くのではないかと恐怖したのだ。


 だからこそ、そのデッドエンドが敵を取り逃がしたと聞いて彼らは耳を疑った。

 共生国内に居る期間が短いながらも、デッドエンドが賊を取り逃がしたことなど今まで一度もなかったからだ。


 その事に今まで無意識に目を背けていた諸侯だが、事ここに至っては認めるしかないだろう。

 メテオレイゲンとは、それほどの力をようする組織であるという事を。



「――――――言いたいことは山ほどありますが、理解はしました。メテオレイゲン……なるほど、の組織がどれだけ強大であるか、帝都が滅んだという事からも果てしなく常識外の存在という事ですな。そして、その脅威が今は我らにも向いている……と」


 諸侯の一人がそう言って自分達が置かれている現状を確認する。

 女王はそれに「その通りです」と肯定する。



「そもそも、彼らの目的は何なのですか? イリア殿は星を輝かせる事と言っていましたが、星持ちなる存在と何か関係があるのでしょうか?」


 また別の諸侯がメテオレイゲンの目的について触れる。

 それを合図に、女王は話を再開させた。

 

「彼らの目的に関してはハッキリとは分かっていません。ですが、こちらのイリアさんとデッドエンドさんが敵幹部と思わしき者達と交わした会話。そこから推察するに、彼らの目的は新たな星持ちを誕生させる事……だと思われます」


 それを聞いてデッドエンドはメテオレイゲンの者達と交わした会話、そしてその時の戦いを思い出す。

 確かに、首領であるエルハザードはともかく、エイズの方はデッドエンドの力を引き出そうと力を小出しにしていた感じがあった。

 輝きがどうこうと言っていたのも確かであり、メテオレイゲンに星持ちが幾人も居るであろう事を考えれば、彼らの目的が星持ちを増やすという事であるというのも頷ける。



 だが――


「星持ちを誕生させる? 何のために……でしょうか?」


「わざわざ敵を星持ちという強者にすることに何の意味があるのだ?」


「星持ちにした者を味方に引き入れる為とか? しかし、そう簡単にいくものでしょうか?」



 肝心のその理由が分からない。


 メテオレイゲンが星持ちになにかしらの関心があるのはほぼ間違いないだろう。

 星持ちを増やそうとしているのだろうという女王の推測にも異論はない。おそらくそうなのだろうと思える。


 しかし、その目的は?

 味方内でなく、敵の中から星持ちを誕生させることにいったい何の意味があるというのか。

 実際、メテオレイゲンはデッドエンドを星持ちとして覚醒させたせいでリ・レストル村から撤退する羽目になっている。


 普通に考えて、敵に星持ちを増やすことはデメリットでしかないはずなのだ。

 だからこそ、メテオレイゲンが星持ちを増やそうとしているのだろうという事は分かっても、その先が分からない。

 

 そうしてデッドエンドや諸侯が考え込んでいると――



「……遺星シュテル・シャフト


 ぽつりと。

 女王の傍に控えていたイリアが呟いていた。


「しゅてるしゃふと? イリア殿、なんですかなそれは」


 諸侯の一人がイリアの呟きを聞きつけ、それについて尋ねる。

 デッドエンドや他の諸侯も同じように耳を傾ける。


 そう――それはデッドエンドですら知りえない単語だったのだ。


 そうして多くのものが耳を傾ける中、静かにイリアは語り始める。


遺星シュテル・シャフトは星の遺産。とても強い想いを抱いた星持ちが死んだ時……その星の力はキラキラした石と一緒に地上に残る。その石を手にしてれば……その星持ちが持っていた力……他人でも使える。――――――ふぅ」


 たどたどしくも遺星シュテル・シャフトについて語り終えたイリア。


 そして、それを聞き終えた諸侯はようやく敵の目的に納得がいったようであり。


「なるほど……つまり奴らの目的は星持ちを誕生させ、それを殺害することですかな」



 そんな諸侯の納得に女王はこくりと頷き、


「断言はできませんが、おそらくそうなのでしょう。そして、それが真実だとすれば――交渉の余地はありません」


 そう断言した。


 事実、そうなのだろう。

 メテオレイゲンの目的がアンタレルア共生国の支配などであればまだ交渉の余地があったかもしれない。

 しかし、彼らの目的が共生国の人々を追い詰めた上で殺す事だというのならば話が別だ。

 そんな者との交渉など最初から破綻している。


 即ち――



「ゆえに、私たちに取れる選択肢はただ一つ。――戦いましょう。それしか生き残る道は残されていないのですから」



 そう。生き残りたいのならばどうあがいても戦うしかないのだ。

 なにせ、メテオレイゲンという敵は既に殴ってきている。

 ならば黙っていても殴られ続けるだけ。このまま停滞を選ぶなど愚の骨頂だろう。


 だというのに――


「いや、しかし――」

「我らの戦力は――」

「そもそも帝国側の領土を収めていたのはリャナンス殿でしょうっ! それなのにメテオレイゲンという賊を我が国へと通すなど……これは問題ですぞ!!」

「なにおぅ!? 貴様っ――」



 一致団結してメテオレイゲンという大きな敵に立ち向かわなければならないというのに、問題を先送りにして責任を誰が取るべきか話し合う者達。

 そして――


「そもそも、本当にあのイリア殿は信用できるのでしょうか? いくらなんでも帝国が滅びる訳がありますまい。そのメテオレイゲンという賊も、実際はそこまでの物でもないのでは?」

「然り然り。所詮は賊軍。国を相手に仕掛けてくることなどあろうはずがない」



 事ここに至っても希望的観測と常識で物を判断し、動こうとすらしない者達。


 ごく一部は女王の言葉に感銘を受けたのか、戦う意志をその瞳に宿したが、それはあくまでごく一部の者達だけだ。大半が脅威から目を逸らしている。


 女王は軽くため息をつき――



「みな、思う所もある事でしょう。本日はこのくらいにしてまた後日、メテオレイゲンへの対策を練る事としましょう。異論がある者は居ますか?」



 そんな女王の提案に、誰も異論を挟む事などなく。


 かくして、メテオレイゲンという賊に対する対抗策は何一つ練られないまま会議は終了したのだった――


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